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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

聞こえなかったふり

作者: Uki
掲載日:2026/02/24

 聞くつもりなんて、なかった。


 放課後の屋上なんて、普段は誰もいないから。


 今日はたまたま、図書室が閉まっていて、

 静かな場所を探していただけで。


「……好きなんだ」


 その声を聞いた瞬間、足が止まった。


 ドアの向こう。


 聞き慣れた声。


 君だった。


 心臓が、嫌な音を立てる。


「ずっと前から」


 相手の声は小さくて聞こえない。

 でも、震えているのは分かった。


 君が、誰かに告白している。


 頭が真っ白になる。


 聞いちゃいけない。


 分かってるのに、足が動かない。


「俺と、付き合ってほしい」


 はっきりとした声。


 逃げるみたいに、階段を下りた。


 息がうまく吸えない。


 笑ってるかな。

 頬、赤いかな。

 ちゃんと、かっこよく言えたかな。


 そんなことまで考えてしまう自分が嫌になる。


 校門の前で、君が追いついてきた。


「おー、いた」


 いつも通りの顔。


「待ってた?」


「ううん」


 待ってない。


 聞いてない。


 知らない。


 知らないふり。


「今日さ」


 君が少し照れたみたいに笑う。


「俺、告った」


 やっぱり。


 心臓が静かに潰れる。


「……そうなんだ」


「うん」


「どうだった?」


 声が普通に出たことが奇跡みたいだ。


 君は、少し間を置いてから言った。


「オッケー、もらった」


 世界が、遠くなる。


「よかったじゃん」


 言えた。


 ちゃんと笑えた。


 君は嬉しそうに息を吐く。


「やっぱ最初に言うの、お前だよな」


 どうして。


「緊張したわー。俺、ちゃんとカッコよかった?」


「うん。きっと」


 見てないけど。


 聞いてしまったけど。


 君は歩きながら、楽しそうに続ける。


「なんかさ、やっと言えた感じ」


 僕は思う。


 僕は、きっと一生言えない。


 信号待ちで、君がふと真面目な顔をする。


「お前、好きなやついねーの?」


 一瞬だけ、息が止まる。


「……いるよ」


 君が目を丸くする。


「マジ? 誰?」


 言えるわけない。


 今、隣にいる人だなんて。


「秘密」


 笑う。


「なんだよそれ」


 君は軽く肩をぶつけてくる。


 その距離が、いつも通りで、残酷だ。


 バス停に着く。


「また明日な」


「うん」


 君の背中を見送る。


 彼女の隣に並ぶ君を想像して、胸が痛くなる。


 聞こえなかったふりをした。


 何も知らないふりをした。


 親友だから。


 笑って祝福できるポジション。


 でも本当は。


 屋上で言ってほしかった。


 その言葉を。


 僕に。


 夕焼けが、やけに赤い。


 泣くには、ちょうどいい色だった。

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