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三題噺もどき5

2日遅れの

作者: 狐彪
掲載日:2026/02/16

三題噺もどき―はっぴゃくにじゅうご。

 




 徐々に教室が騒がしくなってくる。

 授業が始まるまであと数10分程あるが、今日は皆早めの登校をしているらしい。

 外は雨が降っている……この時間に普段来ない人が来ているという事は、送ってもらったんだろうか。

「……」

 合羽を着ていても濡れる、制服の裾をタオルで拭きながらいいなぁなんて思っている。

 我が家は、雨が降ろうと雪が降ろうと、車で送迎してもらうなんてことは滅多にない。

 母の仕事が休みだったり、朝の時間に余裕があったりすれば可能性もなくはないが……休みの日は大抵晴れているし、時間に余裕なんてものはそもそもない。母は仕事だからな。

「……」

 前髪まで濡れた……。

 合羽のフードなんて、飛ばされるためにあるようなモノなのかと思うくらいに意味がない。

 毎度毎度、片手で運転する羽目になるのに、かと言って被らないでおくとびしょ濡れになるから困る。ホントに合羽なんて面倒だ。

 男子はいいよな、ズボンタイプを履けるのだから……ほぼ確実に濡れないじゃないか。

「……」

 雨は嫌いではないが、合羽を着ないといけないし、それも意味もなく濡れるしで、嫌いになりそうになる。雨音を聞いている分には全然好きなんだけどな……。

 ……今空を見れば、晴れ始めてるのがもうムカつくが。

「……」

 登校中は雨が降って、着いたとたんに晴れるのが一番ムカつく。

 晴れていれば、合羽なんて着なくて済んだし、雨を嫌いにならくて済んだのに。

 靴の中も若干濡れているのが、気持ち悪くて仕方ない。

「……」

 朝から、最悪な気分だ。

 しかも、1週間の始まり、月曜日、テスト期間明けで、テストが返却される週。

 いいことが1つも見当たらない、1週間の始まりには持って来いかもしれないが。

「……はぁ」

 こぼれた溜息は、教室の喧騒の中にかき消されていく。

 時計を見ればあと15分ほどで、0時間目が始まる時間だった。今日は英語だ……最悪だ。いいことなんて1つもない。ホントに。まぁ、今まで生きてきた短い人生の中で、いいことなんてなかったけれど。……あの子に出会えたことくらいか。

「――!!」

「……、」

 そんなことを考えた瞬間に、聞き慣れた声と、私の名前が聞こえた。

 若干俯きつつあった頭を上げると、教室の後ろ側の入り口に、あの子が立っていた。

 今日は登校途中で会う事がなかったので、別々の登校である。約束をしているわけではないからな。

「おはよ~」

 そういいながら、教室の中に入ってくる。

 少し急いできたのか、美しく長い黒髪が乱れているように見える。

 遅刻ギリギリだったのかな。そうでもないけど時間的に。

「おはよう、どうしたの」

 何か忘れ物でもしたのだろうか。

 あまりそういう事はしないから、頼られるのは嬉しいが。

「これ、バレンタイン」

「――は」

 そう言って差し出されたのは、透明な袋に入ったクッキーだった。

 ハートの形やクマの形をした、ココアクッキー。

 そろそろと受け取ると、暖かなあの子の指先に触れた。

 ホントに、つい先ほどついたのだろう。私は時間が経っているから冷えてしまっているが、自転車を漕ぐと案外体温は上がるのだ。

「……、」

 中には、ハートの散りばめられた紙が敷かれている。袋とクッキーが直接触れないようにと言うのと、装飾も兼ねているのだろう。

 ハートのシールでとじられていて、わざわざ名前まで書いてある。

「……え、いいの」

「いいもなにも、」

 今年のバレンタインは土曜日だった。

 大抵は土曜授業があるのだけど、先週はテスト期間だったこともあり、土曜授業はなかったのだ。だからまぁ、すっかり忘れていたと言うか、そもそももらうようなことはなかったので、意識もあまりしていなかった。……というとまぁ少し嘘が混じるが。去年は貰ったから。

「昼休みでもよかったのに」

「――には、一番に渡したかったの!」

「えぇ……」

 何ともまぁ、嬉しいことを言ってくれる。

 それで急いできたのだろうか。

 えぇ……。

「ありがとう、」

「いいえ~またあとでね~」

 ホントに、これを渡すためだけに来たのか。

 ひらひらと手を振りながら、自分の教室へと戻っていく。

 その後ろ姿を見送りながら、少し熱くなった頬を、冷たい指先で冷やした。












 お題:雨・制服・空

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