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婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私のまかないご飯に夢中なようです〜  作者: 咲月ねむと


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第44話 笑顔弾けるグルメ・ウェディング

 結婚式当日の朝。

 ノルドの空は、私たちの門出を祝福するかのように、雲ひとつない『サムシング・ブルー』に染まっていた。


 控室の鏡の前。

 私は純白のウェディングドレスに身を包んでいた。

 絹のように滑らかな生地に、町のお婆ちゃんたちが編んでくれた繊細なレースが重ねられている。派手な宝石はあえてつけず、髪には庭で摘んだ白い小花と、ジーク様から贈られた『氷竜の涙』のピアスだけ。

 

「……準備はいいか、レティシア」


 ノックと共に扉が開き、ジークフリート様が入ってきた。彼はいつもの黒い軍服ではなく、純白の礼服を纏っていた。銀髪が陽光を反射して輝き、まるで物語の中から抜け出してきた王子様のようだ。


「ジーク様……。はい、準備万端です」


 彼が私を見た瞬間、そのアイスブルーの瞳が優しく揺れた。


「……世界で一番美しい花嫁だ」


「ふふ、世界で一番格好いい花婿さんにお似合いになれるかしら?」


 彼が差し出した腕に、私はそっと手を添えた。

 その腕の逞しさと温もりが緊張を解いてくれる。


「行こう。みんなが待っている」


 ◇


 会場となった屋敷の広大な庭園には、信じられないほどの数の人々が集まっていた。着飾った貴族たち、正装した騎士団、少し緊張した面持ちの商工会の人々、そして一番良い席には孤児院の子供たち。

 身分の垣根を取り払った、ごちゃ混ぜのゲストたちだ。

 私たちが姿を現すと、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。


「おめでとうー!!」


「レティシア様、綺麗だぞー!」


「閣下、幸せ者ー!」


 フラワーシャワーの花びらが舞う中、私たちは祭壇へと進む。

 神官様の前で、私たちは向き合った。


「健やかなる時も、病める時も……」


 誓いの言葉。

 ジーク様は私の目を見つめ、台本にはない言葉を付け加えた。


「……そして、空腹なる時も、満腹なる時も。私は生涯、彼女の作る料理を愛し、その笑顔を守り抜くことを誓います」


 会場からドッと笑いが起き、そして温かい拍手が包み込んだ。

 私も涙をこらえて笑顔で答える。


「私も、貴方がお爺ちゃんになっても、毎日美味しいお味噌汁を作ることを誓います」


 誓いのキス。

 鐘の音がカランカランと鳴り響き、ルルが『ウォォォォン!』と空に向かって雄叫びを上げた。


 そして――。


「さあ皆さん! 堅苦しい式はここまでです!」


 私がブーケを高々と掲げて叫んだ。


「これより、『陽だまり亭』特製・大祝賀ビュッフェを始めます! 食べて、飲んで、今日は無礼講で楽しんでください!」


 その合図と共に庭園の至る所から香ばしい匂いが立ち上った。

 屋台のように並んだ料理ブース。

 ジュージューと音を立てて焼かれるステーキ、山盛りのフライドポテト、チーズが伸びるピザ、色とりどりのピンチョス。


「うおぉぉ! 肉だ!」


「こっちにはパスタがあるぞ!」


「あら、このキッシュ美味しいわ! 奥様、レシピを教えて!」


 貴族も平民も関係なく、皿を持って料理に群がる。

 普段は澄ましている貴族の奥様が、大きな唐揚げを頬張って「まあ、ジューシー!」と目を輝かせ、その横で冒険者が「だろう? ここの唐揚げは世界一なんだ」と得意げに語っている。

 美味しい料理が、見えない壁を溶かしていく。

 そこにあるのは、「美味しいね」と笑い合う幸せな空間だけ。


「……レティシア、見たか」


 メインテーブルでジーク様がグラス片手に庭園を見渡していた。


「これが、お前が作った景色だ。……私の領地が、こんなに笑顔で溢れる日が来るとはな」


「私たち二人で作った景色ですよ、ジーク様」


 私は彼とグラスを合わせた。


「でも、まだ終わりじゃありませんよ? 皆さんのお腹が少し落ち着いた頃が、本番です」


「ああ……例の『アレ』だな」


 私たちはニヤリと顔を見合わせた。

 そう、結婚式といえば、これがないと始まらない。

 そして私の料理人人生の集大成とも言える、超巨大な甘いサプライズ。


「そろそろ、運び込みましょうか!」


 私が合図を送ると、キッチンの扉が大きく開かれた。

 そこから現れたのは、ゲスト全員が息を飲むような、とてつもない代物だった。

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