先輩の彼女、チョロすぎて秒で寝取った結果www → なぜか俺の人生が地獄になった件
大学ってのは、俺、天羽玲にとって壮大な狩場みたいなもんだ。親父の金で入った法学部なんて、ただの飾り。俺の目的はただ一つ、イケてるサークルに入って、可愛い子を片っ端から食い散らかすこと。それだけだった。
数あるサークルの中から俺が選んだのは、写真サークル。一眼レフなんて触ったこともなかったが、「エモい写真撮ってあげるよ」とか言えば、女なんて簡単に釣れる。そんな浅い考えで部室のドアを開けた俺の目に、真っ先に飛び込んできたのが白石莉緒奈先輩だった。
「うわ、レベル高……」
思わず声が漏れた。キラキラした笑顔、細い手足。男ウケするってことを自分でちゃんと分かってる、あざと可愛いタイプの女。俺の狩猟本能が、一瞬でロックオンした。
「あの子、彼氏いるぞ。三年の黒崎先輩」
隣にいた同期が、余計な情報を耳打ちしてくる。黒崎奏斗。聞いたことある名前だ。真面目一辺倒で、写真の腕はいいらしいが、いかんせん地味でつまらない男。そんな奴が、あんな極上の彼女を持っている。
――最高じゃん。
俺は心の中でほくそ笑んだ。他人のものってだけで、価値は三割増しだ。特に、真面目そうな男の彼女を寝取るのは、俺にとって最高のゲームだった。奪い取る過程のスリルと、手に入れた時の征服感。それがたまらない。
俺の攻略法は単純だ。まず、人懐っこい後輩キャラを全力で演じる。
「莉緒奈先輩って、マジで可愛いっすね! 今度、俺にも写真の撮り方教えてくださいよ!」
誰にでも分かるようなお世辞でも、莉緒奈先輩は嬉しそうに微笑んだ。チョロい。第一印象はそれだった。
次に、彼氏である黒崎奏斗の情報を集める。すぐに分かった。あの先輩は今、就活の真っ最中で、サークルにもほとんど顔を出さないらしい。莉緒奈先輩のSNSをこっそり覗けば、『今日も会えない、寂しい』みたいな、かまってちゃん投稿が並んでいた。
――ビンゴ。
獲物が自分から弱点を晒してくれているようなもんだ。俺は、その隙間に入り込むことに全力を注いだ。
「黒崎先輩、就活大変そうっすね。莉緒奈先輩、寂しくないすか?」
「うーん、まあね……でも、仕方ないし」
「俺でよかったら、いつでも話聞きますよ? こんな可愛い先輩を一人にしとくなんて、黒崎先輩も罪な男っすね」
甘い言葉を囁きながら、さりげなくボディタッチを繰り返す。最初は戸惑っていた莉緒奈先輩も、次第にその距離感を許容し始めた。決定打は、ブランド物の新作リップをプレゼントした時だった。
「え、いいの!? こんな高いもの……」
「いつもお世話になってるお礼っすよ。絶対、先輩に似合うと思って」
案の定、彼女は満面の笑みでそれを受け取った。金で靡く女は、扱いが楽でいい。黒崎先輩じゃ、こんな気の利いた真似はできないだろう。俺は、着実に獲物を追い詰めている感覚に酔いしれていた。
そして、ある日の飲み会終わり。俺は二人きりになったタイミングで、彼女を路地裏に引き寄せ、キスをした。抵抗は、ほんの一瞬だけ。すぐに彼女は、うっとりと目を閉じて俺のキスを受け入れた。
「……もう、玲くんのバカ」
上目遣いでそう呟く彼女を見て、俺は勝利を確信した。あとは、ホテルに連れ込むだけ。黒崎奏斗という男から、彼の最も大切な宝物を奪い取る。その快感を想像するだけで、全身が粟立った。
◇
ラブホテルのけばけばしい照明の下で、莉緒奈先輩は驚くほど大胆だった。俺は、彼女を抱きながら、わざと意地の悪い質問を投げかけた。
「奏斗さんって先輩とは、もうヤってないんすか?」
一瞬、彼女の動きが止まる。だが、すぐに俺の首に腕を回し、吐息混じりに答えた。
「……最近は、全然。就活ばっかで、つまんない男だよ、あの人」
その言葉を聞いた瞬間、俺の征服欲は最高潮に達した。そうだ、それでいい。お前みたいな極上の女には、あの地味な男は不釣り合いなんだ。俺みたいな、派手で、金があって、お前を満足させられる男こそが相応しい。
「先輩としてしか、もう見てないかも。なんか、もう男として見れないっていうか」
俺は、彼女から引き出した言葉を脳内で反芻し、言いようのない優越感に浸った。黒崎奏斗が必死にエントリーシートを書いている間、俺はそいつの彼女を抱いている。こんなに面白いゲームが他にあるだろうか。
「あの人より、俺の方がいいでしょ?」
「……うん。玲くんの方が、全然……気持ちいい」
彼女が俺を選んだ。その事実が、俺を完全に有頂天にさせた。この女はもう、完全に俺のものだ。黒崎奏斗は、哀れな道化師。自分が大事にしていた彼女が、後輩の男に寝取られているとも知らずに、必死に就活に励んでいる滑稽なピエロだ。
それからの日々は、まさに楽園だった。莉緒奈先輩は、黒崎先輩に「サークルの飲み会」だの「友達とご飯」だの適当な嘘をついては、俺との逢瀬を重ねた。俺は、彼女を高級レストランに連れて行き、ブランド品を買い与えた。彼女は、その度に恍惚とした表情で俺に身を委ねた。チョロくて、可愛くて、最高のアクセサリーだった。
◇
運命の日。大学創立記念祝賀会。
俺は、新調したハイブランドのスーツに身を包み、腕には着飾った莉緒奈先輩を絡ませていた。会場の視線が、俺たち二人に集中しているのが分かる。最高の気分だった。来賓席には親父の姿もある。自慢の息子が、大学のマドンナを侍らせている。きっと、誇らしいだろう。
やがて、写真サークルの活動報告映像が始まった。どうせ、黒崎奏斗が作った真面目くさった退屈な映像だろう。俺は莉緒奈先輩と顔を見合わせ、小さく笑った。
スクリーンには、美しい風景やサークル員たちの笑顔が流れる。いかにも、あの先輩が好みそうな、綺麗事ばかりの世界。会場が和やかな空気に包まれた、その時だった。
突然、映像がブラックアウトした。
「ん? なんだ?」
機材トラブルか、と誰もが思っただろう。俺も、その一人だった。だが、次にスクリーンに映し出された映像に、俺は言葉を失った。
――俺と莉緒奈先輩が、ラブホテルに入っていく写真。
「は……?」
脳が理解を拒む。なんで、こんなものが。誰が、いつの間に。会場が、一瞬で静まり返った。隣の莉緒奈先輩が、息を呑む気配がする。
だが、悪夢は止まらない。画面は、俺と莉緒奈先輩のLINEのやり取りを大写しにする。【今夜も会いたいな】【奏斗には嘘ついてあるから大丈夫♡】。そして、追い打ちをかけるように、スピーカーから、俺たちの声が響き渡った。
『奏斗ばっかで、つまんない男だよ、あの人』
莉緒奈先輩の声だ。ホテルで、俺が言わせた、あのセリフ。
『玲くんの方が、全然……気持ちいい』
会場は、一瞬の静寂の後、爆発したような騒ぎに包まれた。悲鳴、怒号、そして、腹の底から湧き上がるような嘲笑。俺は、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。顔を上げると、来賓席にいる親父が、信じられないという表情でこちらを見ている。その隣にいる大学の理事たちの、冷え切った視線が俺に突き刺さる。
「いやぁあああああああっ!」
莉緒奈先輩が、その場に崩れ落ちて絶叫した。だが、スクリーンは無慈悲に、俺の金銭トラブルや、親父の会社名が入った不正入学の証拠まで映し出していく。
頭が真っ白になった。何が起きている? なんでこんなことに? これは、黒崎奏斗の仕業だ。あの地味で、つまらないと思っていた男が、俺たちの全てを暴き、この公開処刑の舞台を仕組んだのだ。
俺は、ステージの隅で、冷たい目でこちらを見下ろしている黒崎奏utoの姿を、人混みの向こうに見た気がした。その目は、俺が今まで出会った誰の目とも違っていた。底知れない、冷たい怒りと、確かな殺意。
――俺は、とんでもない相手に手を出してしまった。
その事実に気づいた時、全てはもう、手遅れだった。
◇
あれから数ヶ月。俺の世界は完全に終わった。
大学は退学。親父には勘当され、クレジットカードも止められた。港区のタワマンから追い出され、今は北関東の薄汚い安アパートで、日雇いのバイトで稼いだ金で食いつなぐ毎日だ。かつてチヤホヤしてきた友人たちは、誰一人として連絡してこない。
莉緒奈先輩も大学を辞め、実家に帰ったらしいが、どうなったかは知らない。興味もなかった。
冷たい床の上で、俺は中古で買ったスマホをいじっていた。SNSで、偶然、黒崎奏斗のアカウントを見つけてしまった。そこには、大手広告代理店から内定をもらったという報告と、一枚の写真がアップされていた。
綺麗なカフェで、幸せそうに微笑む黒崎奏斗。そして、その隣には、俺が見たこともないほど穏やかな顔で微笑む、あのメガネの女――祝賀会で、奏斗の隣にいた女がいた。
その写真を見た瞬間、俺は初めて理解した。
俺は、ゲームに負けたんじゃない。人の心を、愛を、未来を、本気で考えている人間を、ただの遊び道具として踏みにじったんだ。そして、その報いを、今、受けている。
あの地味でつまらないと思っていた男は、俺なんかよりずっと狡猾で、ずっと冷徹で、そして、俺が一生かかっても手に入れられないものを、その手に持っていた。
後悔しても、もう遅い。スマホの画面が、惨めな俺の顔を無機質に映し出している。外からは、木枯らしの吹く音が聞こえていた。俺の心みたいに、冷たくて、どうしようもなく空っぽな音が。




