表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い海  作者: こびき
4/5

ループ

目を開けると、またあの海岸だった。

空は青く、波は穏やか。

まるで何事もなかったかのように、サーファーたちが波に乗っている。


ゆっくりと左側に目をやる。

そこには、さゆりがいた。

白いワンピースに濡れた髪。

海風に吹かれながら、静かにこちらを見ている。


「また戻ってきたね」

彼女はそう言った。


「……俺は、死んだのか?」

俊の声は震えていた。


さゆりは首を横に振る。

「まだ。でも、境目にはいる。あの“手”に触れた時点で、もう完全には戻れない」


「境目……?」


「この海には、引きずり込まれた人の“記憶”が残るの。あなたが助けられなかった少女も、ここにいる。ずっと、波の下で待ってる」


俊は言葉を失った。

あの日の記憶が、波の音とともに蘇る。

必死に漕いだパドル。届かなかった手。沈んでいく小さな体。


「でも、どうして俺は……助かった?」


さゆりは少しだけ微笑んだ。

「私が引き戻した。あなたが“まだ”戻れるように」


「じゃあ……君は?」


彼女は答えなかった。

ただ、海の方を見つめていた。


「でも、次はないよ。水に入ったら、もう戻れない。あの手は、あなたを覚えてるから」


俊は立ち上がり、海を見た。

さっきまで穏やかだった波が、どこか冷たく見える。

遠くの沖に、黒い影が揺れていた。


「さゆりちゃん……君は、誰なんだ?」


彼女は振り返らず、ただ一言だけ残した。


「私は、あの子の“代わり”なのかもしれないね」


そして、波打ち際へと歩いていき、海へと消えていった。


俊はその場に立ち尽くした。

風が吹き、波が寄せては返す。

だが、もうその音は、優しいものには聞こえなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ