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統率力

〈泡盛の透き通つたる春の汗 涙次〉



【ⅰ】


 禁酒ワークショップ。元酒精中毒者らの集まり、ぼそぼそと近況を皆に報告し、禁酒何日目かを、これまた皆に報告する場。と云ふイメージを作者は抱いてゐるのだが、間違ひだつたら濟みません。


 中には、統率力のある(たち)のメンバーもゐるだらう。次代のワークショップ開催に向けて、準備してゐる、リーダー的な存在。


 テオは云ふ、「ところが、その統率力が仇となつて、結果【魔】の世界に魅入つてしまふ、そんな人もゐるんですよ」

 カンテラ事務所は、まさかそのワークショップに刺激された譯でもなからうが、「勉強會」を開いてゐる。牧野や金尾と云つた、比較的新參者である事務所員に、優しく【魔】の特徴をテオが教へる、會。


 とは云へ、金尾などは己れが元【魔】であつた前歴を引き摺つてゐるから、まあ暇潰し程度の意味で、テオのサーヴィス精神の發露、その一環に過ぎない。


「はい」と、金尾挙手し、「実際に禁酒ワークショップから出た、【魔】の構成員の例を教へて下さい」

 牧野は居眠り。實態としては、テオ⇔金尾の、「サシ」である。



【ⅱ】


「こゝにAさんと云ふ、そんな統率力ある人、がゐたとします。【魔】は棄てゝ置かない。『あなたなら、ワークショップどころか、あなたの教へで動く、あなたの為の團体を結成出來る』などゝ、言葉巧みに(おだ)てたり、まあ、實例としてはそんなところなんですが」


 金尾「ですが...?」テオ「今さつき、僕のPCにそんな人からの『挑戦狀』が届いたばかりなんですよ」金「挑戦狀、ですか」テ「はい... 元酒精中毒者らを使つて、自分はこんな惡事を働く事が出來るんだぞ、と云ふ、一種の示威行動ですね」金「テオさんはよく落ち着いてられますねえ」テ「もううんざりつて程、【魔】とは付き合つてますから... これはあつてはならない事なんでせうけど、場慣れしてしまつた、と云ふか」


 こゝで散會。實際には、【魔】退治には、カンテラ・じろさんの手が必要なのは、云ふを俟たない。



【ⅲ】


 じろさん「金尾くんは酒、だうなの?」金尾「全く駄目です。ビール一口でいゝつて方で」じ「やつぱり」暢気に酒談義してはゐるが、これは、テオの續報を待つてゐる、謂はゞアイドリング狀態な譯で。


 カンテラ「具體的には、彼は何やるつて云つてるの?」テオ「ワークショップ員に、酒呑ませる會を開かうとしてます」カン「それは危険だな。捨てゝはおけないが、要は誰が依頼者となるか、だ」テ「うむ~」カン「楳ノ谷汀はだうなんだい、彼女のワイドショウで取り上げられないかな... 杵に訊いてみてくれ」テ「ラジャー」



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈酒と云ふ媒介なしに渡り合ふそんな蛮行できぬ人たち 平手みき〉



【ⅳ】


 結果、楳ノ谷は乘つてきた。「大都會の孤獨に堪へ兼ね、つひ酒に走つてしまつた人びとを誘惑し、【魔】が蔓延(はびこ)らうとしてゐる!!」と云ふ、オープニング・テロップでだうか、杵塚を通じて、カンテラにお伺ひを立てゝきた。


 カン「ま、いゝんぢやないかな? ギャラさへ頂ければ、如何やうにも」カンテラも酔はない體質なので、特に危機感と云ふ物は、ないのだが- たゞ、元酒精中毒の人たちに酒を呑ませれば(そしてそれが、さう、『蔓延』れば、)大變な事になるのは確かなので、仕事を受ける氣になつたのだ。


 じろさん「さて、【魔】の正體を見極めなくてはな」カンテラ「ふむ。その『統率力ある』つて人、誘惑されてる人、に會へば、分かるだらう。テオ、手配を」テ「ラジャー」



【ⅴ】


 ところが... その「リーダー格」の男に會つても、【魔】の正體、一向に摑めぬ。仕方なしに、楳ノ谷には秘密にして、カンテラはその「リーダー」を斬つた。彼も云ふなれば、犠牲者の一人。これを斬つた、となれば、楳ノ谷の番組自體、立ち行かなくなる。だが、彼を放置しては危険である。アル中がどんどん増えてしまふ… と、


「ふはゝ、酒は、旨いなあ」猩々のやうな【魔】が、酒の器に映つてゐる。「莫迦め」じろさん、カンテラの指先から火を拝借し、その酒(カンテラの愛飲してゐるやうな、火酒である)に點火した...!!


 と、云ふ譯で、「猩々」退治は一瞬にして完了。何とか、楳ノ谷の番組のオンエアに間に合つた。で、「【魔】に魅入られたリーダー」のインタヴューには、ナイショで牧野が吹き替へ。所謂「やらせ」報道なのだが、それは飽くまで極秘事項。



【ⅵ】


 皆さんも酒は、樂しく呑みませうね。因みに、これは實在の禁酒ワークショップとは一切関係ない、フィクションであります。それでは~。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈蒲公英のお酒で賀する米壽かな 涙次〉



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