第5話
結局あの後妹がゼリーをあーんして食べさせてくれたからな。一口ひとくち食べ進めていくうちに罪悪感に苛まれてしまった。最後の方なんか一口食べさせてもらうだけで「ごめんなさい」と呟くようになってしまったんだからな。
「…まぁ手がかりを掴むまでは普通に生活だな」
もうそうすることしかできなくなっていた。
誰だって一度は考えたことのあるシチュエーションの異世界転移、そこで俺thueeeeeはもはや定番、経験しているからこそ俺は言う。そんなこと簡単にできると思うな。
ちょっと話がそれかけたがまあ良いだろう。俺は教室の中でファンタジー小説を読み漁っていた。何だったら漫画でやるような教科書にラノベを挟んで過ごしていた。こうでもしないと情報を頭に叩き込めないからだ。
休み時間、トイレに行こうと席を立ったら中田さんが話しかけてきた。
「もう屋上に行かないのね」
皮肉の効いたコメントだ。
「まだまだだと思って」
「へぇ、そう言えば鈴木さんってはっきりと喋るのね」
「どういうこと?」
「ほら、実際喋ってみるとこう…そういう感じなのよ」
「語彙力」
「あ!ちょっと失礼だけどコミュニケーションが人より苦手だと思ってたから…」
「それは…」
前の俺がそうだったのなら否定はできないのだがもうちょっとオブラートに包んでほしい。
「…それよりももう屋上に行かないでよ、危ないのだから」
「はいはーい」
「あ、チャイム」
こうして授業はまた幕を開けた。
放課後、何もやる気が起きなかったんで散歩をすることにした。あたりは賑やかだ。ちょっと裏道を使いたくなってきた。するとなんか聞き覚えのある声が聞こえた。
「…てください!手を離してください!」
「そう言わずによぉ」
嫌な予感がしたので急いで走り込む。そこには何とか抵抗している中田さんと明らかに嫌がっているのに車に連れ込もうとする悪党5人組
「大丈夫!?」
「鈴木…くん?」
中田さんは俺に気づいたようだ。
「へ、大人かと思ったらただのガキじゃねぇか」
「へぇ〜、中田さん、ちょっと目と耳塞いでもらっていいですか?」
「え?何で?」
「良いから、安心して」
「わ、分かったわ…」
ちゃんと目と耳を塞いでいるところを確認したら俺の出番。
「ところで一つ質問です」
「何だぁ?」
「命乞いなら今のうちだぞ!」
「…一番眠りに効く魔法って知っていますか?」
「…何の話だ?」
「分からないか。さっさと眠るが良い、《連続睡眠》」
「中田さん、もう大丈夫ですよ」
「…良いのね?」
「大丈夫ですって」
「…全員、倒れて…あなたがやったの?!」
倒れている悪党たちを見て驚いている、当たり前だ。俺ですらこれを見せられてしまったら驚くと思う。
「取り敢えず警察には通報しておいたから、もう安心していいよ」
「鈴木くん、強かったのね」
「えぇ、まぁ」
「今日は本当にありがとうね、とても助かっちゃった」
「いえいえ」
こうして警察は到着し、悪党は捕まり、俺達は事情聴取を受けた。結果的に俺達は被害者としてまとまった。そして中田さんには「今日のことは秘密にしてください、お願いします」とお願いしたら了承してくれた。まさか人前で魔法を使うとは思わなかった。まあ異世界に行ける日まで俺は研究を続けるまでだろうな。一緒に帰ろうと提案したのだが中田さんはなんだか顔を真っ赤にして急いで帰っていったのだが…まあ表向きは感謝してんだろうけど恥ずかしいのかね。本人の名誉のために聞かないでおこう。それが優しさである。