プロローグ
禍々しい城の中には禍々しい絵画や階段、もはや雰囲気自体が禍々しいだろう。さっきまではそうだった。この場所には玉座があった、でもその玉座ももう無い。いや、そもそもの話その部屋は半壊状態だったのだ。その場所に立っているのは二人の人間。
「…勝ったんだな」
「…えぇ」
ここは魔王城の最奥部。さっきまで激闘を繰り広げていた。そのせいか疲労が蓄積していくのを感じた。
「…魔王を倒したってことは」
「俺は…帰ることができるってことだな」
「こんな世界、楽しくなかったでしょ。魔王がいたり、当たり前のように魔物がいたり、王国もきな臭かったり、はっきり言うと隼人をこんな事に巻き込みたくなかった。でも仕方ないよね。そうなっちゃったんだもんね」
「…アリス、それはないな。確かに異世界に来たときはショックを受けたさ。でも、皆の役に立てたりできて嬉しかった。それにアリスにも出会えたんだから」
「隼人…」
「少なくとも俺は、もう異世界に転移されたことについてはもうなんとも思ってないな」
俺がそう言うと、目の前にポータルが現れた。
「…お迎えってこと…だよね?」
「そう…みたいだな」
アリスは俺とのお別れを理解すると目から涙が出てきていた。
「…駄目だよね、私…もう分かっていたことなのに…涙が…」
アリスはそう言って自分を落ち着かせようとするが、もう止まらなくなったのか涙が滝のように出てきた。俺はそれを見ることしか出来なかった。
「…隼人!」
ようやく落ち着いたのかアリスは俺の方を向いた。
「…私は、こんな世界に希望なんか持ってなかった。滅んで当然だって、対抗できなくて当然だって、思ってたの。でもあのときからすべてが変わった!あなたと過ごすすべての日々が宝物のようで、手放したくない時間だったの。そんな楽しい日々も…今日でお別れなのね」
名残惜しそうに言うと覚悟が決まったのか口を開いた。
「………隼人!これまで絶望に包まれていた世界、そして私を救ってくれた、そんなあなたのことが大好きです!」
そう言い切ると顔を真っ赤にしていた。そのことを聞いた隼人は決意を固めたのかポータルに向かった。一歩一歩、時間を掛けるように歩いた。その背中は別れの辛さをこらえているような…
「…アリス!思いは受け取った!いつか絶対この世界に帰って来る!絶対にだ!!!」
「………信じているからね!」
こうして鈴木隼人はポータルの中に入り、現実世界に戻った。
隼人のいなくなった空間は少し寂しかった。
「…本当に行っちゃったんだね隼人、このポータルも消えちゃうんだよね」
アリスの想い人、隼人はポータルの中に入っていった。
後もう少しするとそのポータルは完全に消える…はずだった。まだポータルはそこに残っていたのだ。
「…どうしてまだ?」
アリスは疑問だった。基本ポータルはすぐに消えてしまう。だが消えていなかった。まるで誰かを待っているように…
「もしかしたら…」
アリスは一つの可能性に賭けてポータルの中に入っていった。