聖女の夢の観覧車
この国で滅多に使われることのない召喚の間にいた人々は声も出なかった。
ここは数百年に一度襲ってくる厄災を防ぐための聖女を異世界から召喚する部屋だ。
古い記録をもとに聖女を召喚したのだが、記録にあった聖女と目の前に現れた聖女は全然違う。
「何ここ。何で私がこんなところにいるのよ! まさか異世界転移しちゃったの。現実にあるの? ここから戻してよ! 明日、予定があるのよ!」
聖女は異世界に来たことを認識しているが受け入れていない様子。
記録にあった聖女たちは喜んで厄災を退けることに協力してくれた。その後王太子と結婚し、この国で一生を終えることに疑問を持っていなかったのに……。
今回の聖女は違って「明日予定があるの」と繰り返し、話を聞こうとはしない。
騒ぎ疲れた聖女が黙ったところを見計らって、場所を移動するよう声をかけた。聖女もここで叫ぶより 話し合った方がマシだと思ったのか、おとなしくついてきた。
「明日先輩と二人で遊園地に行くはずだったのよ。しかもその遊園地の観覧車はてっぺんで告白されると幸せになるというのよ。幸せになるはずだったのに、なんでこんなところに呼ぶのよ!」
厄災を退けないとこの国が終わること、王太子と結婚できることなど伝えるが、聖女には全然響かない。召喚したら元の世界に戻れないと聞き、関係者を罵った。
☆ ☆ ☆
やっと落ち着いた聖女。
「協力するのには条件があるわ。王太子が観覧車のてっぺんで私に告白するのよ」
みんな困った。この世界に観覧車などない。何だかわからないものに乗りたいと言われてもどうしようもないが聖女は聞かない。
「観覧車は絶対譲らないからね」
厄災が近いのに観覧車を作ることになった。聖女の話と下手な絵によって観覧車はどんなものかこの国の人にもわかったが。
「こんなでかいの、これから作るのか」
初めての経験だが、やらなければ死が待っている。国をあげて死に物狂いで作り始めた観覧車が完成するのが先か、厄災が来るのが先か、女神のみぞ知ることであった。
国の三分の一に瘴気が来たころ観覧車は完成した。
瘴気で倒れた人より観覧車を作る工事での過労で倒れた人の方が多かった。
犠牲は多かったが聖女は約束通り厄災を退け、その後王太子と結婚しそこそこ幸せそうに暮らした。
今回の召喚に関わった人たちは聖女召喚ではなく、自分たちの力だけで厄災を退ける方法を探した。
次の聖女が今回のより、ひどくないとは言い切れないのだから。