表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

魔女と来訪者   1(後編)

 魔女は手早く少女の傷の消毒と止血を行い、寝台に横たえさせた。

 深く眠ってはいるが、重傷であることにかわりはない。けれど、重体というわけではないようだ。出血多量の心配も今はないため、意識さえ戻れば問題ないだろう。

 魔女は診終えた少女の髪を一なでし、青年二人を振り返る。

 彼女は気づいていた。眠る金髪の美少女は、身なりからして間違いなく貴族の令嬢だろう。そして銀鼠の髪の青年は所作から、どうみても騎士だ。琥珀の髪の青年も、身のこなしや服装からして貴族だろうと推測できる。はっきりいってあまり関わりたくない人種であるし、もし怪我をした少女の存在がなければ、門前払いしていた。

 それでも、客人となったのには変わりはない。ゆえに、二人に席をすすめ、あたたかい紅茶を淹れた。

「ありがとう」

 黄金が無表情でそういうのに対し、騎士は不安に瞳を揺らしながら礼をのべる。魔女は一つ息をつき、いじわるをやめた。

「焦らしてすまなかったね。――安心するといい。目が覚めれば、もう彼女は大丈夫だ。傷がある程度ふさがったら帰るといい」

 彼女の言葉に、騎士は安堵した。

 その様子に、魔女は少しばかり罪悪感にかられ、呟いた。

「魔女のもとに来た君たちを、少しばかり警戒しているんだ。わたしは極力、人間には関わらないようにしているからね」

 青年二人は正直すぎる魔女を見つめ、目を瞬く。

 三拍間を置くと、騎士は端整な顔で微笑んだ。

「いえ、無理もありません。魔女を酷く扱う者もいる。でも俺は、突然押しかけてしまったのに、手当てから看護まで引き受けてくれたあなたに感謝しています。――そうだ、自己紹介がまだでしたね。俺は隣の領地の騎士を先日までしていました。名はイヴァンといいます。彼女――マーガレット姫の目が覚めるまで、よろしくお願いします」

 魔女は苦笑する。彼の心根の優しさが伝わってきた。――けれど、だからこそ人間と距離をあけてきたのだ。

「ああ。ではこれからはイヴァンと呼ぶよ。で、黄金、君は?」

 黄金は紅茶の入ったティーカップから顔をあげた。なにやら無表情の中に不機嫌が窺えるような気がするが、気のせいだろう。

「…魔女殿、なんで私を黄金と呼ぶんだ?」

 青年はずっと疑問に思っていたことを口にすると、魔女は「ああ」としたり顔で一人うなずた。

「わたしは君の名前を知らないから、愛称で呼ぶしかなくてね」

「いや、だからその黄金の意味がわからない」

 彼の意見ににイヴァンも納得した。黄金とは、金銀財宝のあの黄金だろうか? それとも、彼の髪の色が似ているからだろうか?

 しかし、魔女は眉をあげた。まるで、「なぜわからない」とでもいいたげだ。

「言っておくが、金銀財宝の黄金ではないよ?」

 ――はずれた。イヴァンは思わず顔を背けた。

 一方、黄金と呼ばれる青年は眉間に皺を刻む。

「じゃあ、どういう意味?」

「君の顔は黄金比なんだ。だから、黄金だ。かの有名な砂漠の国の美女もそうだったらしい。ぜひ誇ってくれ!」

 魔女は黄金の真正面に立ち、力強く彼の肩を叩いた。

 二人の青年は今さらながら、気づいてしまった。彼女はなかなかの変人ではないだろうか。しかも、魔女だとか、そういう問題を抜きにした。

 黄金は溜息をつき、「フローと呼んでくれ」と頼んだ。本当の名前は言いたくないけれど…黄金は嫌だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ