魔女と来訪者 1(前編)
「…事情はわかった。その少女を手当てをしてほしい、ということだね」
突然の来訪者たちに、魔女は神妙にうなずいた。
そこは、町外れの小さな一軒家の玄関口。この魔女は常々人間と極力関わらないよう自給自足に心がけているため、家の周囲は菜園で囲まれている。なぜか来訪者たちの背後に広がる菜園から、奇妙な鳴き声――キェーケケケのように聞こえる――が響くが、深く考えてはいけないのだろう。
魔女の家、ということもあり、美の薬を求める女こそ来ることはあるが、男複数の来訪はめったにない。来たとしても、ろくでもないことが多いから、魔女は関わりたくないと思っていた。しかし、今回は無視できない一件だった。
「…わかった。わたしは魔女だが薬師だ。引き受けよう。――だが」
そこでようやく魔女は、男に担がれた紅に染まった娘ではなく、二人の青年にうろんな眼差しを向けた。
「君たちは騎士と貴族に見えるが…そんな知識ある者たちが、なぜその娘をわたしのもとへ連れてきた?」
魔女の疑問ももっともだった。彼女は魔女であり薬師だ。――つまり、薬師であって医者ではない。ここまで酷い傷ならば、本来は医者へ連れていくべきだろう。
すると、銀鼠色の髪の、騎士の装いをした青年が口を開く。
「医者は町の中心街にしかないと聞いています。馬はつぶれてしまい…そこまで彼女を担いでいくと、命に関わると思って…」
魔女は眉根を寄せた。町の中心街にしか医者がいない?
「いや、いる。森の向こうにある隣の領地は中心街にしかいないらしいが、ここはいる。そうか…騎士、君は隣の領地の者なのだね。で、黄金、君も同じか?」
黄金、と呼ばれた琥珀色の髪の青年は、目を瞬かせた。なぜに黄金?
とりあえず、質問には答えておく。
「私は知っていたよ。この土地の領民だからね」
騎士は目を丸くし、隣に立つ男を見た。知っていたのなら、なぜ彼は医者のところではなく、この魔女のもとへ連れてきたのだろうか。
騎士と魔女の物言う視線に気づいたように、黄金は無表情だった顔を笑ませた。
「魔女殿、あなたなら必ず救ってくれると思ったからだよ」
その花のほころぶような笑みと言葉に、二人はあっけにとられる。
だが、うっかり長話をしてしまったが、緊急事態であることを思い出す。
「まぁいい。さっさと彼女を中へ運んでくれ。黄金は裏へ行って、井戸水を運んできてほしい」
騎士は頷いた。しかし、黄金はうなずくより先に、首を傾げた。――さっきからずっと気になっていたが、なぜ自分は黄金と呼ばれるのだろうか。




