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儲からない

 順調に上層フロアを開け、執筆スペースを広げてはいるが、やはり儲かってはいない。

 最初は土日には一階がほぼ満員となっており、そこだけを考えれば採算的には良かったのだが通常の喫茶店から比べると坪単価はやっと半分というところなのだ。平日に至ってはかなり悲惨でこのまま一年も続けると赤字はバカにならないらしい。


「どうすっかなあ。最悪一階の喫茶スペースは小さくして、テナントでも入れるか。小説家がありがたがる店ってなんだ。本屋か? 文房具屋か?」


「いや、今時ペンや万年筆で紙に小説書いてるのは少数派だよ。それに本屋なんか開いたら書かないでずっと読んでる連中が出てきて逆効果だ。だいたい小説書いてる奴は読書家というか本の虫みたいなのが多いから。いっそのことパソコン用品でも扱った方がいいくらい」


「パソコン用品かぁ。あれも儲からないんだよなぁ」


「そんなこと言うなら本屋も文房具屋も厳しいだろうに。おじさん嫌がってたけどやっぱり……」


「コンビニかあ。それしかないかなあ」


 本来の目的である2階の執筆スペースについては、飲食物の持ち込みは一応可ということにしている。コーヒーについては一階の喫茶部から3時間につき3杯まで料金内で飲める。紅茶やソフトドリンクも同様だが、同じコーヒーでもエスプレッソやカフェオレは実費(ただし一階より100円引)となっている。

 当初は執筆スペースの料金でコーヒー飲み放題にしていたのだが、3時間で10杯以上飲む連中が続出し抗議の声があったものの、現行のシステムとあいなった。


 さて、現状の執筆スペースの料金体系はどうなっているのか。

 まず、入会金500円で年間会費が800円。スペース一回分(3時間券)が一枚付いてくる。利用料はスペース一回分3時間券が600円、6時間券は1,000円と少しお安くなっている。延長は1時間単位で300円だが、予約の関係もあって受けられないこともある。

 飲み物については前述の通り3杯まで決められたものに関しては、一階の喫茶スペースから取り寄せることができる。それ以上は格安の自販機が設置されているのでそちらでお願いしている。無料にして欲しいという声は大きいが、あくまで漫画喫茶ではないので、その要望は飲めなかった。

 現状、営業時間は朝9時から夜は8時まで。24時間制の導入の希望はたくさんあるのだが、バイト人員の確保とか風営法関連に引っかかる可能性があるので現状は無理。漫画喫茶が風営法にかからないのは施錠していないというのもポイントの一つなのだが、執筆スペースを謳ううちのシステムでは部屋を開けた時に他人に見られるのはまずいため、簡単な施錠がかけられるようになっているのだ。部屋はドア部分に広い窓を取り付けているため施錠付き完全密室ではない。だが、隣からの影響を避けるため壁は厚めだし、音も響かなくなっているので最悪検討しないといけないかも知れない。


「公彦。執筆スペースの料金は上げられないかあ」


「無理だよ。漫画喫茶より安いからこんなとこでもやっていけてるんだから」


「一階の喫茶部のサンドイッチとランチは出るんだけど、回転が悪いからなあ」


 そうなのだ。

 平日でも唯一、11:30から13:00までのお昼時は満員になる。でも、店に入ったら大体そのままゆったり過ごす人が多く、入れない人は帰っていくのだ。開店当初から「執筆スペースのお試し」としていたため制限時間90分の縛りが、逆に「90分までなら長居してもいい」ということになり、店にとってのデメリットになってしまったのだ。


「お昼時だけ店が広がればいいんだけどねー」


「おお、それだよ! 隣に空き店舗があるだろ。売り出してたから買い取ろうと思ってよ。賃貸でも構わねぇ。狭いけど、あそこにそういうの詰め込んじまえばいい」


「喫茶店広げるの?」


「いいや。悔しいが公彦の言う通りコンビニにする。2階にはランチとサンドイッチを作る厨房を移すんだ。喫茶部はお昼時だけは超忙しいからな。サンドイッチは完成品を運ばせればいいし、調理済の寸胴を持ち込み、ランチはほぼ完成したところから喫茶部で最後の温めと仕上げをすればいい。コンビニ用にはパッケージングして弁当として卸す予定だから、そこで買ってく連中もいれば昼の混雑も緩和できるだろうしな」


「でも、コンビニのチェーン店って、こっちで作ったもの勝手に売れるの?」


「ああ、そういう裁量を持たせてくれるとところもある。ダメならコンビニを少し縮めて一間だけの昼間限定販売スペースを作ればいい」


「なるほどね」


 それから3ヶ月の間に突貫で工事を終え、2階の厨房が稼働し、1階のコンビニも開店した。喫茶部で出しているランチは多少簡略化はされたものの『執筆ランチ』という妙な名前をつけられて数種類がコンビニで発売されることになった。これにより昼間には厚くしなくてはならなかった喫茶部一階のシフトは楽になり、コンビニの安定した収入も得られビル側の赤字も何とか補填できるようになったのである。


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 本日、もう一話更新します。

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