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店舗拡張

 意外なことに一階の普通の喫茶部が当たってしまった。

 商店街が終わりにあるこのビルは、喫茶店としては悪くない立地だったのかも知れない。店が広くて雰囲気も駅前より落ち着いたこの場所にあっている。

 けど、本当にそれだけなのか? 好調の原因について調査が必要だ。いい気になって、拡張したら人気は一過性のものでひと月したら閑古鳥、なんてのは避けたい。

 まずはすでに常連になってる友達連中に聞いてみた。


「ああ、それか。サンドイッチうまいからじゃないか」


「広くていい。ランチ頼んで皿が乗らない店とか最悪だもん」


「喋っている奴が多いのにあんまりうるさくないからじゃないか」


 なるほど、たまたま小説を書く環境を考えていたら一般的なニーズにもマッチしたってわけだ。

 小説家の執筆にレベルの高いコーヒーは当然としても、それに合うようにサンドイッチなどのメニューにも気を使ったのは当たりだったらしい。

 机が広いのは当然小説を書くためだったけど、なるほどランチの皿がゆったり置けるというのはいいな。うるさくないように吸音材を多めに入れたのも一階で執筆する人が一般客とのトラブルを起こさないための施策だったけど、話をする人同士にしても気にならないというのは重要だ。

 もっとも、小説書く連中はいいコーヒーを望む、と言うのは一般論ではなくお前の好みだろうとは言われたけど。


 90分という時間制限に文句を言う奴も一定数いたけれど、そこは絶対曲げなかったことも良かったと思う。

 1階の店員さんには「揉めたらすぐに2階に連絡」と言い含めてあるので、何かあると上から応援がくる。会員制の組織では揉め事は付きものなのでおじさんはレンタルショップで培った苦情対応マニュアルを作成した。駆けつけて話をして気に入らなければお帰り頂く。不穏な場合は警察にも躊躇なく連絡するように言ってあるので、大ごとになる前に片が付く。

 普通の喫茶店の場合、騒がれると店の評判が落ちたりして経営に響くことがあるが、ウチはあくまで執筆スペースの2階以上がメイン。食べ⚪︎グの評価なんて気にしない。風評被害には強いのだ。


 それはともかく。


「おじさん。このままだと1階だけが突出して利益を上げることになっちゃう。下が混雑したままだと2階以上の会員も何となく出入りしにくいらしいから何とかしないと。本当は1階を会員になる前の『お試し執筆スペース』に考えていたんだけど、今はそんなの全然ムリになっちゃってるし」


「ああ、それには気づいてるさ。打てる手もいくつか考えてある。だがな、ここを始めた公彦の気持ちがどっちを向いているかを考えないとどうするかは決められないぞ」


 うーん。困った。

 考えていることはあるんだけど、ある意味非効率。やりたいことはできるんだけど、それに見合う見返り(つまり儲け)にはなりそうもないのだ。

 でも、やって見たかったことの一つだから言うだけ言ってみるか。


「差別化したい」


「差別化? 最初言ってたヤツか。でも、2階と3階は同じ料金からは動かせないぞ。4階をオープンさせるってことか?」


「そういうこと。但し、茜色先生の意見を聞いて4階と5階を同時にオープンする。料金は4階は2、3階の1.5倍。5階は2、3階と同じだが、書籍化作家のみとする」


「意図はわかるが、反感を買わないか?」


「まあね。でもあえてそういう状況を作り出したい。高すぎるなら4階はもう少し下げてもいいけど、人気になって席数が足りなくなっても困るから」


「なるほど。でもそれだけが目的じゃないんだろ?」


「うん。実はプロの先生たちが来づらくなっているんだそうだ。流石に茜色先生は大御所すぎて遠巻きに見ているだけだけど、他の先生たちにサイン下さいとか弟子にしてくれとか行ってくる人がいるんだとか」


 茜色先生はメディアに顔を出したこともあってある程度有名だから覚悟はしていたし本人も了解済み。けれど、知り合いの書籍化済みの先生方。ハガネ剛先生、礼明先生、雛花かおる先生は編集者以外顔を知らないはずなので、問題ないかと思っていた。


「どっかで情報が漏れた、ってことか」


「あるとしたらバイトの誰かかも知れないけど、もう突き止めても仕方がない。見つけたら厳重注意だけどな。それより対策だ。4階にもう一つ受付カウンターを設けてそこから先に入れないようにする。入口も何とか分けられるといいんだけど」


「となるとエレベーターの追加かあ。実はスペースはあるんだよ。このビル。今はデッドスペースになっているけど当初はエレベーターをもう一台設置する予定だったから、ただ後付けだと今のよりは小さくなるけど……」


「それは逆に好都合かも1階から4階に直通にしようと思う。問題はエスカレーターか。今は 3階から先は止めてるけど」


「そこは全部開けちゃおう。どうせ部屋のカードキーを持たせてるんだからそれで4階と5階は受付以外のフロアに入れなくしちゃえばいい。その分監視カメラはつける。今のところ声をかけられた場所はエスカレーター待ちか階段のところだから、そこをマークすれば大丈夫だと思う」


「わかった。善は急げだ。2ヶ月で何とかしよう。他にも計画してることがあるがそれもおいおいな」


 こうして、小説専用喫茶『傑作執筆事務所』は拡張されることになった。

 同時に一階の店名を『Coffee, Writter and Everybody』に変更した。理由は『傑作執筆事務所』のままだと普通のお客さんから「入ってもいいんですか」と聞かれることが多かったからである。

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