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どうにか開店、滑り出しはまずまず

 小説家用喫茶店『傑作執筆事務所』が開店した。

 最初の三日間は大盛況ではあったが、問題が山積みであった。


 店の外に入り切れない人が並び、近隣からの苦情。

 執筆スペースで騒ぐ者、執筆者同士の喧嘩、執筆スペースでの食事の要望(当初は2階以上は食事不可としていた)。

 時間制限の撤廃要望、24時間対応希望 etc ……


 どうするかは叔父さんと僕と開店スタッフで悩みながら、一つ一つ決めていくしかなかった。

 残念ながらベストの方法はいろんな事情で取れなかったのは心残りだ。


 まず騒ぎを起こすものや喧嘩については、まんが喫茶やファミレスのバイト経験者などから対応案を出してもらい、対応マニュアルを作成した。

 食事については、清掃スタッフとの関係から躊躇していたが、僕自身も長時間の執筆途中で食事できないのは困ると考え、期間限定ながらコンビニなどから持ち込みを許可、1階の喫茶部からサンドイッチと昼のランチを提供可能ということになった。


 困ったのは時間制限である。

 当初、メンバー数から3時間を上限としていたが、初日から抗議殺到。即座に6時間に変更した。

 それでも少ないという声と閉店22時から24時間対応を要望する声があったが、スタッフの確保の点から見送らざるを得なかった。


 うまく行ったところもあった。

 開店2週間後に行った3階の開放である。


 実は開店時にはすでに3階の施設は稼働可能にはなっていたが、フロアを開けるのは店の状況を見てからにしていたのだった。

 いざ開店してみると、会員の来店には偏りがあったのだ。

 ある日は予約が満杯で、またある日はガラガラ。


 ウチは会員制を取っている以上、満杯で追い返すことはなるべく避けたい。アプリで混雑状況を確認できるようにはしたが、予約が取れないことが多いのでは不便だ。それにフラッと来て執筆を希望する会員もそれなりにいた。

 まあ、自分も底辺とはいえ小説を投稿する身だからよくわかる。


 ”ああ、今だったら書けるのに”


 そんな時に限って落ち着いて書く場所がなかったりするのだ。


 そういうニーズに答え、スムーズな運営のためには席数の増加が必須と考え、2階が混在したときやフリー客用の予備スペースとして開店後2週間で追加のフロアを開放したのだ。

 これは当初の予定である「2階を底辺、3階を初級・中級[底辺脱出組]」とは異なるが、致し方ないことであった。

 当面は予約は2階のみとし、状況により3階の一部も予約対象にする。3階の残りは満員時にフリーで来た会員や2階で6時間を超えたが執筆を継続したい会員に割り当てたのだ。


 商売という点から考えると最初から3階も開放して予約対象とした方が売上に貢献できたかも知れない。だが、叔父も僕も最初の失敗に懲りていて、まずは「気持ちよく過ごしてもらうこと」、「来てくれた人を追い返さないこと」を中心に考えていたのだった。


「公彦。何とか軌道に乗ったなあ」


「いや、まだまだですよ。ってゆーか、開店直前からの臨時支出凄かったんじゃないですか? これ黒字化は至難の技ですよ」


「あー、それについては今年いっぱいかかるだろうな。でもいいんだよ。来年まで赤字でも構わない。今はとにかく続けることだ。俺も面白くなってきた。とにかく付き合ったことのない客層だからな。不思議な感じがする」


 まあ、そうかも知れない。

 とにかく続ける気があると言うならありがたい。何せ小説を書くスペースが欲しかったのは自分自身だから。


 客層についても同感だ。

 ここに来る客の9割以上は素人ではあっても「作家さん」なんだから。

 作家でない普通の人にだって変わった人もいるけれど、こと小説を書いている人というのは一風変わった”共通する不思議な癖”みたいなものがあるようなないような、なんかそんな感じだ。


「公彦。お前もだけどな」


「えーーー、僕はそんなことないと思うけどなー」


 どうなんだろうね。小説家らしいと言われたのなら嬉しいのだけど。


「さあ、そんじゃあ、4階以上について考えようじゃないか」


「そうですね」


 まだこのビルのフロアーには空きがある。

 すでに当初の予定とは違ってきているので、今の状況にあった上層階の使い方を考えなくては。


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