下調べと草案
瓢箪から駒。棚からぼたもち。
何に例えたらいいのかもわからないけど、成り行きで始まった『小説家のための喫茶店』計画。
やれる自信はないけれど、とにかく動き出さないと話にならない。
早速、そのビルを見にいくことにした。
まずは現地の状況を確認しておきたかったからだ。
階段を登ったところに一軒残っている最後のテナントがある。
哀れだ。
閉店セールをやっているのだが、人影はまばら。
店長さんに話を聞いたら、もう残ったものは値引いても無駄なので系列店に引き取ってもらうか、持ち帰って細々とWEBショップで捌くと言っていた。
僕がオーナーの甥であることを知っているので結構丁寧に応対してくれた。
店を辞して、がらんとしたビルを見て回る。
階段の位置や間取り、仕入れ物資の搬入などを考えると複数の店舗を入れて使うには、かなり使いにくいビルだとわかった。
いいところは、とにかくだだっ広いところ。ワンフロアで1店舗なら問題なし。
それに最終的に飲食店は入らなかったもののビルを建てる時は、考慮していたらしくトイレ以外にも水回りを考えた設計になっていた。結構汎用的で事務所にするにも大型店舗を入れるにも十分。
エレベーターも新しく大型で明るい。
悪いところは、東京の都心からは40分の私鉄駅。駅から歩いてから8分。商店街からギリギリ外れたところだということだ。なるほどブランドの店舗経営は厳しかったはずだ。改めて自分で店舗を入れる立場に立ってみると切実にわかるな。
そうなると地元民に密着した店舗になる。レストランとは言わずとも食品を扱うことを考えてみると、困ったことにあまりバックヤードで出来そうなスペースがない。スーパーや料理店にすると食材搬入が大変だろう。家具屋なんかもダメだろうな。
今回は喫茶店にするつもりだから問題にならないけど。
ただ、普通に考えて喫茶店の売り上げでこのビルを支えるのは厳しいと思う。
「ここに喫茶店出しても黒字出すのは大変だと思う」
「いや、そこは気にしなくていい。まあ、あんまり大きな赤字続きだと困るが、最初の数年は覚悟してるしそこで終わっても文句はないよ」
そこまで言われたらやってみたいことはある。
10分ほど考えた末、方針を決めメモに草案を書いた。
フロアの割り振りだけだけど。
「叔父さん。ちょっと計画を立てたいから、家に帰ってまとめてくる」
「メモ書いたんだろう? 見せてみろ」
「えっ……まあ、いいけど」
紙を渡した。
6階 事務所
5階 セミナースペース
4階 執筆スペース(上級以上[書籍化作家様])
3階 執筆スペース(初級・中級[底辺脱出組])
2階 執筆スペース(底辺)
1階 執筆スペースっぽいけど普通の喫茶店
「何だこれ?」
「小説家のための喫茶店……的なもの」
「そうだったな。それでこの2階以上はどうなってんだ? システムとか」
あんまりまだ考えてないんだけどな。
まー、適当にでっち上げるか。
「年1,000円の会員制で、2時間で場所代400円。ドリンクバー付き。入店時に執筆目標を定めて守れるとポイントで特典あり」
「セミナー、ってのは?」
「4階は書籍化した先生に格安でセミナーを開いてもらえたらいいな、と思って。基本45分で参加料500円。教材は参加者にテキストをメール配布。印刷も100円で事前承り」
叔父さんはムムムッ、と腕を組み。
「これ、絶対商売としてペイしないな……」
ダメか。
まあ、ダメだろう。自分でもそう思うもの。
「でも面白い! よし、採用」
「へっ?」
「明日っから工事に入るよう手配する。会員料金とか時間いくらとかはおいおい考えるとして、お前じゃなきゃわかんないことを詰めてくれ。小説書くんなら1人分のスペースをどうするか、とかな。机とか椅子とかも使いやすいものを発注しなくちゃいけないし」
「マジ?」
「おうよ。それで店の名前はどうすんだ?」
「まだ、考えてない」
「んーーーん…………………オシッ!! 小説家用喫茶『傑作執筆事務所』にしよう」
「えーーーー!」
こうして、冗談のような日本初のWEB小説執筆専用ビルが東京の郊外に誕生することになった。
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本日中、もう1話投稿予定。