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第四十八話 バトルコロシアム

 ル・セレーヌをあとにしたおれたちは扉をくぐるとそこはアーチ状の天井が続いているレンガ造りの細い通路だった。壁には無数の傷や血の跡が残っている。穏やかな場所じゃないってのは確かだ。最初に口を開いたのはバライバだった。


「おい、何なんだよここは?」

「どこだろうね。ここ……」


 レイもどこか分からない様子。


「先へ進むしかないんじゃない?」


 おれたちはエルの言うとおりにひとまず先へと進んでみることにした。次第に鉄と汗、そしてわずかに血の臭いが漂ってくる。それに遠くから響く群衆の歓声が、重く低い地響きとなって足元を揺らす。


「何が起きているんだ?」

「ディール、先に扉っぽいのが見えるよ」


 おれたちは少しだけ歩く速度を上げて先へ進み鉄格子の門へとやって来た。おれは意を決してそこを抜けた瞬間、明るい円形の場所へと投げ出される。地面は砂へと変わり、そこにはこれまでの戦いで散っていったであろう者たちの骨や歯、明らかに人ではない獣の牙などが落ちていた。


 少し高い壁の上には階段状になった席に座った大勢の人たちがこちらを見下ろしている。あちこちから野次だの歓声だの物騒な声が飛び交っている。


 ここは紛れもなく闘技場だ。おれたちがようやく状況をのみこみ始めた所で闘技場内に低く渋い男の声が野次を遮るように響き渡る。


「大変長らくお待たせいたしました。次は一回戦第四試合を始めさせていただきます。獅子側からは究幻迷宮の怖いもの知らず”赤牙のヴォルグ”!」


 その名が出た瞬間、辺りからは大きな歓声が鳴り響く。余程の人気者なのか。大柄で筋骨隆々、赤茶色の髭を生やした中年の戦士が正面の方にいる。その手には大きな斧が握られている。


「ヴォルグ~今回も全財産賭けてるんだから勝てよ!」

「そんなヒョロヒョロのガキどもなんか食いちぎれ‼」



「対する大鷲側からは外からの”侵略者御一行”です」


「失せろッ!」

「無様に死になさいよ~あんたたち~」


 あっちのヴォルグとかいう奴の紹介とは打って変わって散々な言われようだ。


「侵略者って僕らのこと⁉」

「それ以外ないでしょ。ここまで歓迎されていないと逆に燃えてくるわね」


 レイは青ざめて、エルはやる気に満ちている。


「使用武器に魔法、人数制限などは一切ございません。相手をうっかり殺めてしまった場合も問題は無いです。何でもありのトーナメント究幻迷宮杯一回戦最終試合開始でございます!」


「うおぉぉォォォ!」


 短い説明が終わったと思ったらいきなり試合が始まった。ヴォルグは少しだけ近づいてから話し出す。


「ガキが四人か。誰から来るんだ? 同時でもいいんだぞ?」


 挑発的な態度に合わせて他の観客の野次もどんどん大きくなってくる。いい加減やかましくなってきた。


「誰が戦う?」

「ディールは休んでていいよ。この場は僕に任せて欲しい。試したい魔法もあるんだ」


 レイが対戦に名乗りを上げた。随分と自信がありそう。そんなレイをバライバが心配する。


「おいおい大丈夫なのかよ? 一応相手はあの大男だぜ。全員でかかった方がいいだろ」

「レイなら大丈夫よ。それに危なくなったら私がすぐに援護するわ」


 バライバの心配を払拭させるためにエルがフォローを入れた。おれたちは邪魔にならないように後ろの方に下がり、レイはヴォルグと対面した。


「ほ~まずはお坊ちゃんが相手か。悪いが俺はいつも対戦相手の命をうっかりとっちまうから気を付けてくれよ!」


 ニヤリと笑ったヴォルグはそのまま勢い任せに斧を振り下ろしてレイ目掛けて攻撃を叩き込んだ。あまりの勢いに砂埃がたつ。


「どうだ? これが赤牙のヴォルグの実力だ……ありゃ?」


 レイは既にヴォルグの背後を取っていた。それから何かの魔法を唱える。おれが瞬きをした次の瞬間、ヴォルグは白目を剥いてその場にぶっ倒れた。何が起きたのか誰にも分からなかった。当然観客にも何が起きたかなんてわからなかったはずだ。さっきまでの歓声はどっかへ消えた。


「勝者は大鷲側、侵略者御一行!」


 あっさり勝利したレイが戻ってくる。


「今なにしたんだ?」

「ちょっとね。魔法が成功しただけだよ」


 おれとバライバはレイを褒め称えたがエルだけは怪訝な顔をした。


「レイ! あなたあの魔法を使ったでしょ⁉」

「でも問題はなか……」


 レイの耳や鼻から血が滴り落ち、ふらふらとしている。


「あれ? 何で……」

「だから言ったでしょ。その魔法はまだ使ってはいけないって。身体への負担が大きすぎるのよ!」


 エルが急いでレイを身体を支えて、布を取り出し、血を拭った。


「ごめんみんな。迷惑をかけちゃったみたい」

「気にするなレイ。今は休んでろ」


 一方で観客たちはというとようやくヴォルグが負けたことをのみこんで、罵声の嵐が飛んでくるかと思ったら賞賛の嵐だった。


「すげーぞ小坊主!」

「今からファンだよ~」

「ぎゃ~賭けたらまさかの大当たり! 次も頼むよ~」


「勝利した方は開いたゲートまでお戻りください」


 おれたちは観客の声をすべて無視しながら新しく開いたゲートまで向かい、その場を後にした。ゲートの先は部屋があり、中は床に古びた獣皮が敷かれ木製の椅子が置かれている。壁には様々な種類の武器が架けられていて他には紙が貼られている。そこにはこの闘技場の今回のトーナメントが書かれていた。


 待機部屋のようなものか? レイを近くの椅子に座らせてエルが怪我の具合などを確認する。その間におれとバライバはトーナメント表を確認した。


「えっと……一回戦のここにおれたちがいるのか」

「それにしても何で俺たちが勝手に参加させられてんだ? まるでここに来るのがハナッから分かってたみてえによ」

「全部ここの支配者が仕組んでいることなのかもな」

「そのマスター? とか呼ばれてる奴の事か。そんなに偉い奴なのか」

「あれだけ強い守護者を従えているくらいだ。只者ではないはず」


 もしかしてここのトーナメントに勝てば鍵の欠片が手に入るのかも。おれは次の対戦相手を見てみる。赤い線が引かれているから誰が勝ったのか一目で分かる。参加者は全部で八組だからあと二回勝てば優勝。そして、次の相手はゴロツキブラザーズって書いてある。ということは二人組か。人数差では有利だな、レイは休んだままでも大丈夫そう。


 外からは歓声が聞こえてくるが何が起きているかは一切分からない。おれたちがくぐってきた扉の先は既に真っ暗で件の魔法がかかっている。多分試合になったらさっきの場所につながる仕様になっているんだろう。


 少しの間だけ待ち続けていると、部屋の中にさっきの声が聞こえてきた。


「二回戦第二試合の時間です。侵略者御一行の方々はゲートの前でお待ちください」


 おれはレイの近くまで向かい様子を窺う。


「無理するなよレイ、ここで休んでいてもいいんだぞ」

「もう大丈夫だよ。出血も大したことなかったし」


「本当にいいのかエル?」


 大丈夫なのかどうかエルに確認する。


「無理をしなければね。さっきの魔法は絶対に厳禁! 分かった?」

「分かったよ」


 エルにしつこいぐらい注意されたレイは反省した様子で少し肩を落としているが調子は大丈夫そう。


 おれたちはゲートの前で言われた通りに待機していると、部屋が振動し始めて鉄格子の扉が光出して通路が現れた。ここを通ればさっきの闘技場に出るのか。


 ひとりでに開いたゲートを通り、通路を進むとすぐにさっきと同じ場所に出た。おれたちの登場に観客は一回戦の時とは真逆の反応を見せた。


「さっきと同じように勝ってくれよ~」

「無双しろ!」


 歓声が鳴り止まない内に向かい側のゲートからも誰かがやってきた。多分対戦相手だろう。さて、どんな奴らが相手なんだ?


 一人、二人と登場してくる。ブラザーズって名前の割には背格好も雰囲気も似てない。そんなことよりどういうことだこれは……暗闇の向こう側からどんどんやって来るぞ。ブラザーズじゃないのかよ!

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