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第四十五話 火加減には気をつけて

 思わぬ出来事に吹き出してしまったが確かに聞き間違えじゃなければバライバって聞こえたぞ。


「なあレイ。今バライバって聞こえたよな」

「ゴホッ……ゴホッ、そうだね」

「ま、まあ勘違いかもしれないし、今はメシに集中するか」


 それからおれたちはコース料理を存分に味わった。グラタンに白身魚の切り身の包み焼きとか。最後にはデザートもでた。どれも美味すぎて頬が落ちそうになった。


 全員で最後に水を一杯飲んでから大きく息を吐く。


「じゃあ……会いに行くか。アイツに」

「そうね」

「うん」


 おれたちは席を立って、厨房へと向かっていく。途中で店員に止められたがおれが件の鍵を見せてから話す。


「ここの守護者と仲間に会いに来た。通してくれ」


 止めに入ってきた店員はおれの手元の金属片を見た途端に何かを察したのか厨房の方へと走って向かっていった。おれたちも遅れて厨房の中へと入るとそこでは何人ものやたら長い白い帽子を被ったシェフが忙しなく働いていた。あっちこっちから何かを切る音やかき混ぜる音、焼いている音まで聞こえてくる。と同時にシェフからシェフへと指示が次々と流れていく。


 おれたちのことを気に留める様子もなく作業は黙々と続けられている。その中でおれは懸命にバライバの名前を叫んだ。


「バライバ! どこにいるんだ~迎えに来たぞ」


 辺りを探っていると皿を洗っているバライバの姿を見つけた。近づいて肩を叩く。バライバはようやくこっちに気が付いて振り返った。


「なッ! 手前ら何の用だ。客が勝手に厨房に入ってくんじゃねえよ」

「バライバもか……」


 この状態の相手に何を話しても無駄だというのは分かっているので、おれは力加減に気を付けて頭を殴った。


「痛ってーなー! 何しやがんだよ手前ェ!」


 そういえばドワーフって頭が頑丈なんだっけ。これじゃただ殴っただけじゃねえか。バライバが殴られたことに怒りを示して、持っていた皿を置いてからおれの胸ぐらに掴みかかってくる。どうしたもんかと困っていると、業を煮やしたエルが思いっきりバライバの頭を殴った。


 一撃をもらったバライバはふらついてからその場にぶっ倒れた。衝撃的な出来事に周囲のシェフの数人が只事ではないと感じ取り、職務を放棄してその場から離れだした。おれはバライバが目覚めるまで呼びかける。その甲斐があったわけじゃないだろうけどバライバはすぐに意識を取り戻した。


「ありゃ? 俺は……デュラクシウムを……ってここはどこだよ⁉」

「ようやく気が付いたか! よかった~」

「お? ディールじゃねえかよ。ちゅうかなんかすげ~いい匂いがしやがるな」


 紆余曲折あったがこれで全員合流できた。それからおれは究幻迷宮についてを簡潔にまとめてバライバに説明した。


「頭に衝撃を与えたら直るってことは私の時はどうやって直したの?」


 エルがそう聞いてきておれとレイは背筋が凍り付いてだんまりとしてしまった。あんまりにもしつこく聞かれるもんだからレイが下手くそな笑みを浮かべながら嘘をついた。


「それはさ……そうだ! エルが転んだんだよ、段差に躓いてさ。ね、ディール」

「そうだよ、そう! ありゃあ本ッ当に偶然だったんだ」


「そうだったのね」


 エルはどこか納得がいってなさそうだったが本当のことを言ったらきっと今のバライバみたいになっていたに違いない。というかバライバの頭は大丈夫なのか? 結構大きめのたんこぶが出来ている気が……。


 おれたちは一旦バライバを厨房の外へ連れ出そうと肩を貸して歩き始めると、突然甲高い声に呼び止められた。


「ちょっと待たれよ!」


 嫌な予感がして振り返るとそこには他のシェフよりも長い帽子にくるりとした髭。ぽっこりお腹がちょい目立つおっさんがそこにはいた。しかし、背筋はピンと伸びて顔には傲慢さの影が一切感じられない。威厳に満ち溢れた表情をしている。


 間違いない、コイツがここの料理長であり守護者だ。


「もしや君たちがマスターのおっしゃっていたゲームの参加者の一行だね? ワタシはこのレストラン”ル・セレーヌ”の料理長であり、守護者の一人であるダリオ・フィレンツィだ。料理は楽しんでいただけたかね?」

「既にご存じみたいで。だったらおれたちが何をしに来たのかも知ってるわけだろ?」


 おれたちはそれぞれの武器に手をかける。しかし、料理長は口角をあげてから諫めるように話し出した。


「争いごとは不要だ。君たちの目あての物はこれだろう?」


 そう言って料理長がポケットからおれが持っている物と同じような金属片を取り出した。


「これが欲しいのであればマスターを存分に楽しませたうえでワタシに勝たねばならないぞ」

「条件は何なんだよ!」


 バライバがそう言うと料理長は手を数回叩いて他のシェフに何かを準備させ始めた。


「ワタシとの勝負は実にシンプルだ。三対三での”料理対決”ぞ!」


 これはもしかすると戦うよりも厄介な相手なのかもしれない。どうするべきだ? ここは勝負に乗るしかないのか? おれが考えを巡らせようとしたその瞬間、バライバがすぐにその勝負を受けた。


「その勝負、受けて立つぜッ!」

「そうか。実に清々しい返事だな」


 おれはバライバに現状を説明するべく一旦話を止める。


「ちょっとだけタイムだ!」


「バライバ、自分で何を言っているのか分かってるのか?」

「こんなことは滅多にねえんだぞ。受けるほかあるかよ」

「あのな! サシの対決だったらおれたちも全力で背中を押したさ。でも、奴が言うには最低でも三人が戦わないといけない! 言っとくけどここの料理は目が飛び出そうな程、美味いんだぞ!」

「だからこそだろ?」

「「はあああ……」」


 バライバ以外の三人はあまりにも楽観的過ぎるバライバにため息を漏らした。そんなこんなで他のシェフが準備を終えてここのシェフ用の衣服を三着持ってきた。一応全員で着ろってことかよ。


 どうやら勝負するっていうことは決定事項になってしまったらしい。仕方がないので覚悟を決めて衣服の袖に腕を通し、やたらと短い白色のあの帽子を被る。その間に厨房は料理対決のためだけに準備を開始して、料理長は他の客に頭を下げながら今日は店じまいだというの伝えて回った。


 おれたちは勝負が始まるまでの間に別のシェフから説明を受けた。勝負内容は三対三。前菜、メイン、デザートの三品で勝負というシンプルな内容だった。とはいえ、相手は超が付く一流の料理人たちだ。


 説明の中に審査を料理長が務めると言われて抗議した。


「それじゃ料理長次第でおれたちを好きなように負けさせることができるじゃないか!」

「うちの料理長はそんな下衆な真似はしないから安心しろ」


 とにかくルールを決める権利はこっちにはないから黙って受け入れるしかなかった。


 説明が終わったタイミングでおれたちは指定の位置に行くように指示された。


「誰が何を担当すればいいんだよ、バライバ?」

「俺は当然メインを担当する。後は手前らで決めてくれ」


 おれたちは相手側に妥協案を出しながら相談した結果、前菜をレイとエルで、デザートをおれが担当することになった。しかし、ここまで来た段階で何も頭に思い浮かばない。いつもと同じ料理を作っていたら勝負になんてならないはずだ。考えろ……。


 何の料理にしようかと頭を悩ませていると、料理長が勝負開始の宣言を始める。


 「勝負という形ではあるが、それはあくまでも形式上。ワタシを……この古今東西の料理を食べてきたワタシを”感動”させれば勝ちと認めよう」


 どっから持ってきたのかゴングを料理長が勢いよく叩いて鳴らした。


「さあ一品目、前菜の調理……開始!」

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