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第四十四話 やっぱり思っていたのと違う……

 次の行き先が決まったところでおれはレイを探す。というか探すまでもないか、どうせレイはエルのレーンに並んでいるに違いない。おれはもう一回人混みをかき分けて進み、レイを見つけて引っ張り出し、その場を離れた。レイは抵抗してきたがそれでも無理矢理連れて来た。


「ちょっとディール。何をするんだい?」

「お前もう何回並んだんだよ!」

「十三回ぐらいかな?」

「マジかよ」


 何やら商品も全部コンプリートするまで買ったらしく、そこまでするレイには最早感心した。


「そういえばエルはおれたちの事をどう認識していた?」

「全く覚えていなかった……というよりかはただの常連として認識されていたね」

「はやくエルの目を覚まさせるぞ!」

「そうだね。行こう」


 ようやく一連のイベントが終了して今度こそ踊り子たちが舞台袖に引っ込んで行った。おれたちは機を窺って上手いことその舞台袖に潜入した。やることはレイの時と変わらない。エルを見つけてとにかく説得あるのみだ。


 おれたちは舞台の裏を探し回ってエルを発見した。エルはおれたちの姿を確認すると驚きの声を上げる。


「ちょっと⁉ ここは関係者以外立ち入り禁止のはずよ」


 またこの感じか。なんでおれはあんな化け物と対峙していたのに他の皆はこんな感じなんだ? これもここの支配者の趣味の一環か? ともかく、今はエルを元に戻さないと………………あれ? そういえばレイの時はどうやって元に戻ったんだ?


「レイの時はどうやって目を覚まさせたんだっけ?」

「えっ⁉ 僕が覚えているわけないじゃないか」

「だよな」


 あの時は確か、身体を揺らして……それからレイが頭をぶつけた。そうか、強い衝撃を与えろってことか。


「分かったぞレイ、頭をぶって強い衝撃を与えるんだ!」

「それは分かったけれどさ……その役割、誰がやるんだい?」


 あ……そこまで考えていなかった。あのエルを殴らないといけないのか? そんなことすればもしバレた時にどうなるか分かったもんじゃない。


「そりゃあ……レイがやるべきじゃないか?」

「えええ! 僕は嫌だよ」


 おれたちが取っ組み合って言い争っているとエルが痺れを切らして怒鳴り込んできた。


「いったいあなた達は何なの⁉ さっきからゴタゴタと、いい加減にして。誰か! この人たちをつまみ出して!」


 おれたちは互いを引き離そうとするエルに気が付かずについうっかりはねのけて吹っ飛ばしてしまった。エルは不運にも机の角に頭を思い切りぶつけてしまった。おれとレイは顔がみるみるうちに青ざめていく。


「だああ! おれじゃないぞ。おれじゃない!」

「いーや! 今のはディールのせいだよ! 君が押したんだ」


 おれたちはすぐにエルの安否を確認する。不幸中の幸いか出血は見られない。一応、回復魔法もかけておく。エルは思っていたよりもすぐに目が覚めた。


「私は……いったい」

「起きたんだねエル! 目覚めたところ悪いんだけどさ、僕らの目的を覚えているかい?」

「いきなり何を言い出すのよ。分かりきったことじゃない。デュラクシウムを手に入れる。そうでしょ」


 良かった。どうやらエルも元に戻ったみたいだ。おれたちはエルに幻惑・洗脳系の魔法にかけられていた事やデュラクシウムへ必要な鍵と守護者についても説明をした。


「なるほどね。大体の事は理解したわ。私ともあろう者がそんな魔法にかかるなんて。恐らく術者は一人でこの究幻迷宮全域の一部の者達に魔法をかけているのね。だから効果範囲こそ広いけれどその効力は薄い」

「そういえばエルさ、意識を取り戻す前のこととかって覚えてるか?」


 おれがそう聞くとエルはすぐに返した。


「残念だけど、何も覚えていないわね」

「そ、そっか」


 おれとレイはほっと胸をなでおろす。


「ディールの話なら私達の他にも先客がいるらしいから、今はその守護者が持つっていう鍵を手に入れるのが先決みたいね」

「ああ、それとバライバの捜索もだ」


 おれたちは他の人達が来てややこしいことになる前に酒場を後にして、別のフロアへと移動することにした。扉の先は人が数人いる程度の湖で、皆して釣りをしていた。ここならもう少しだけ話が出来そうだ。


「これまでの話を合わせると疑問が一つだけあるわ」

「どうした?」

「守護者が持つ鍵を手に入れるの早い者勝ちなのは分かる。だけど、私達以外で既にその鍵を入手しているグループがあったらどうやってそれを一つに集めればいいのかしら? だってこの迷宮は生きていて、どこに進むのか分からないんでしょ。下手をすれば一生巡り合えないままじゃない?」


 エルの言っていることは正直おれも考えていた。


「エルの懸念はもっともだ。だが、心配はいらないと思う。ここの支配者はそんなヘマはしないはずだし、なんとなく分かるんだ。敵とは遠くない内に巡り合うって」

「感覚の話⁉ 仕方ない、今はそうだって信じて進むしかないわね」


 とにかく今は悩んでいても意味が無い。進むべき先は決まっているんだから進むしかないはずだ。おれたちは扉の隙間に招待状を挟んだ。すると、招待状は吸い込まれるようにして消えていき、扉の隙間が光った。


「これを開けたらレストランにつながっているはずなんだよね」

「ゴランドやマリーナの言っていたことが本当ならな」


 扉をくぐると、そこは地下迷宮であることを忘れてしまうような、豪華で洗練された空間が広がっている。壁は黒大理石に金色の装飾が施され、揺らめく蝋燭の光が優しく反射している。天井には細かなステンドグラスのドームがあり、地下でも幻想的な色彩の光が降り注ぐ仕掛けだ。床には深紅の絨毯が敷かれ、足を踏み入れるたびに柔らかな感触が伝わる。


 中央には優雅なシャンデリアが下がり、その下にはラウンドテーブルが美しく配置されている。テーブルには真っ白なリネンと銀製の食器が並び、中央には生け花が飾られている。客席の奥には舞台があり、優雅な音楽が演奏されている。レストラン全体に漂う空気は、静謐でありながらも、上品な喧騒が混ざり合った心地よい空間を作り出している。


 店に足を踏み入れた瞬間からなんだかよく分からないが美味そうな匂いが鼻腔をくすぐってくる。腹が減っているおれからしたら既によだれが止まらない。


「な、なんかすげーいい匂いがするぞ! これが超一流の店ってやつか!」

「ディール、みっともないからもう少しだけおとなしくしなさいよ」


 エルに注意されてしまったが腹の虫は鳴ったままだ。レイもエルも慣れているのかいつもとなんら変わった様子はない。


「これは……奥からローズマリーやタイムのハーブの芳しい香りがするね。キャラメルの甘く焦がした香りもするし、オレンジリキュールが煮詰められるシトラスのフレッシュな香りも感じられるね。僕もお腹が空いてきたよ!」


 近くのテーブルではシーフードグラタンが提供されており、チーズがこんがりと焼けた香りが食欲をそそる。レストラン全体が、料理の持つ香りのオーケストラとなり、訪れる客を五感で楽しませているみたいだ。


 受付らしき場所へ行ってみると、劇場にいた人と似たような格好の人がいた。おれたちが使った招待状を手に持っていて、すんなりと席へと通された。


「三名様のご案内です。こちらへどうぞ」


 おれたちはとりあえず席に座ると、提供される料理についての説明が始まったが何を言ってるのか分からなかったから楽しみとしてあえて聞かないようにしてみた。


 おれの様子を見かねたエルが小声で注意してきた。


「ナプキンは膝の上に置くの。それとナイフとフォークは外側から使いなさい」

「面倒だな。美味かったらなんでもいいじゃないか」


 おれがそう言うとエルに睨まれた。それを気にしてかレイがなだめるように話す。


「一応マナーだからね。ほら、料理が来るよ」


 お~お~待ってました! 最初はスープか。味は貝類のうまみが出ててあっさりとしてて最初に食うにはぴったりだな。


 二口目を口に入れる。いや~こりゃうま……。


「おい! バライバ。こっちの皿も洗っとけって言っただろうが!」


 ぶーっ! おれたちはなにやら聞き覚えのある名前が聞こえてきて、思わず口に含んでいたスープを吹き出してしまった。


 バライバがここにいるのか!

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