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第四十二話 この迷宮は生きている

 「レイ、一旦落ち着け。よーく考えろ、おれを騙そうったってそうはいかないぞ。おれたちはここに何をしに来たか言ってみてくれ」


 おれがそう聞くとレイは突然頭を抱えて痛みを訴えだした。


「僕たちは……グッ……うぅ……ここに演劇を、この劇団でみんなを感動の世界にって……あれ何かが違うような……」

「目を覚ませレイ! おれたちの目的はデュラクシウムを手に入れることだろうが!」


 おれがレイの肩を掴んでぐわんぐわん振っているとアメリア姫役の演者とゴランドが止めに入って来た。


「ちょっと何するんですか⁉ レイ君に乱暴しないでください!」

「そうですぜディールの兄さん。暴れないでくだせえ」


「離せよ! おい、レイ!」


 おれがレイからはがされるとレイはふらふらとしながら後ろへと下がっていき、しまいには柱に豪快に頭をぶつけてしまった。頭を打ったレイはその場に倒れ込む。おれはしがみついている二人を引き剥がすとレイの元へ駆け寄る。


「大丈夫かレイ!」

「ん~~イテテ、あれ? ディール? それにここは……」

「もう一回聞くぞ。おれたちの目的を言ってみろ」

「それは、もちろんドワーフ族の族長のためにデュラクシウムを手に入れることさ」


 本ッ当に良かった。レイの記憶が元に戻ったみたいだ。それにしてもなんでレイは記憶が混濁していたんだ?


「心配したんだぞ。お前が演劇なんてやってるから、それにおれのことも劇団の仲間とか言い出すしよ」

「確かにそんなことを言っていたような気がするよ……これはもしかすると洗脳や幻惑の類の呪文かもね」


 そうか。今のレイの推理に納得がいった。レイはこの迷宮に連れ去られた時にその幻惑・洗脳系の魔法をかけられたのか。そうなると他の皆も同じような状況になっているかもしれない。


「てことはだぞ。ゴランドやお姫様も魔法がかけられてるのか?」


 おれはそう言いながら二人の方を見てみる。するとゴランドが答えた。


「そいつはねえですよ。ワッシは自分の意志でここに移住したって言いやしたでしょ」

「あたしなんて究幻迷宮生まれ、究幻迷宮育ちよ!」


 細かいことを考えていても仕方がない。今はとにかく他の皆を探しに行かないと。もしレイにかけられていたのが幻惑系の魔法なら時間を経るにつれてその効力が強まってしまう。


「なあゴランド、隣はどんなフロアにつながってるんだ?」


 おれがそう聞くとゴランドは「はて?」といった表情でこちらを見つめてくる。


「何を言ってやすか。ここは究幻迷宮ですぜ。自由勝手に部屋を行き来なんて出来るわけないじゃないですか。まあ、さっき言った”守護者”にならそれを可能にするマスターキーがあるとかないとか……」

「どういう意味だ?」

「言葉通りの意味ですぜ。理解したけりゃあ自分の目でここに入って来た扉を開けてみるといいですぜ」


 おれは言われるがままにレイを起こしてから道を戻って最初に入って来た扉の前まで移動した。後ろにはゴランドもついてきている。お姫様は座長だかにレイが抜けるということを伝えるためにどっかへ行った。


 人込みを駆け抜けてようやく扉の前に辿り着いた。ここを開けばさっきのお花畑につながっているはずだ。おれが扉を開いて先を確認する。


 ありえない……どうなってるんだ? 扉の先は……便所だった。おれは振り返って違う扉なんじゃないかと確認してみたがそれはなかった。


「だから言ったでやしょ。この究幻迷宮は一度扉を開いて閉じればありゃ不思議! 全く知らない部屋へとご案内ってわけでさあ」

「じゃあゴランドはこの劇場にいつもどうやって通ってるんだ?」

「よくぞ聞いてくれやした。流石はいい所に気が付きやすねい。目的の部屋へ行くためにむやみやたらと扉を開けたって意味がないし、下手をすりゃ遭難しちまいやす。そうならないための救済として、このチケットがあるんでさ」


 そう言ってゴランドが懐から紙切れのようなものを取り出してひらひらさせている。あの紙切れどっかで……ああ! そういえばおれもあれを持ってるぞ。受付で最初にもらった席番号が書かれていたチケットだ。


 おれも服のポケットからくしゃくしゃになってしまったチケットを取り出す。


「この究幻迷宮にある部屋には、どの扉からでもその部屋へと来られるように魔法のかかった鍵のようなものがあるんでさ。それが劇場の場合で言うとこのチケットでやす」


 ということは何だ? さっきの話も合わせると、あのユシアは守護者だったからどこでも行き来可能な鍵を持ってたかもしれなかったのかよ! それとあのモノノフが言っていたこともようやく理解できた。変幻自在に姿形を変えてしまうこの迷宮は確かに”生きてる”。


「でもさ、今はその”鍵”を持っていても大した意味は無いんじゃないかな? その鍵を持っていたところでこの迷宮について何も知らない僕たちからしたら使い道がないよね。一度行った部屋に戻る理由だってないわけだし」

「それもそうだな。よし! 鍵の事は諦めて地道に進むとするか」


 レイが荷物を取りに戻っている間、おれは意味なんてないと思うけど次に進むための扉を選ぶことにした。


「ゴランドも一緒に来るか?」

「ワッシは遠慮させていただきやすよ。それよりもワッシの部屋にきやせんか? お兄さん、疲れてるでやしょ?」

「いいのか?」

「もちろんでさあ。独り身ってのも中々寂しいんでやすよ。大したおもてなしなんてできやせんけどねい」


 レイが戻ってきた後、おれたちはゴランドと一緒に彼の住む部屋へと案内された。お世辞にも広いとは言えなかったが意外にも部屋は綺麗だった。どうしても疲れていたおれは軽く食事をとったあとに部屋の隅で雑魚寝した。


 眠りから覚めるとレイとゴランドが何か会話をしていた。多分迷宮についての情報を聞いているんだろう。


 おれは水を一杯飲んでいるとレイが会話を終えておれの方に向き直った。


「起きたねディール」

「太陽の日差しがねえと今が昼なのか夜なのかすらよくわからねえな」

 

 おれたちは出発の準備を終わらせるとゴランドにお礼と別れの挨拶をした。


「ゴランド、いろいろと教えてくれてありがとうな」

「そんなそんな。ワッシとしても久しぶりに誰かと話せたもんですから楽しかったですぜ。またご縁があったら会いやしょう」


 おれは部屋の扉を開くとその先へと進んだ。

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