表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/131

第四十話 ベストな配役

 突然隣の席の人に声をかけられて面食らったおれは返事をするのに時間を要した。


「えっ⁉ あー面白いですよ、この劇。おれ、初めて劇とか見たんだけど意外と見入ってます」

「そうでしょう! そうでしょう! いや~かく言うワッシもこの究幻迷宮に住処を移してからはほぼ毎日この劇場に通っては劇を見てるんすわ。まあとびきり一番といやあやっぱりこの『白馬の騎士といばらの姫』もいいんでやすがワッシは『皇帝直参笑撃団』でさね。それに……」


 このままこの人に喋らせてたら休憩時間が終わりそうだし、既に置いていかれているから無理矢理話を止める。


「ちょ、ちょっとそこまででいいよ」

「ん? そうですかい?」

「おれはディールって名前で今仲間を探してんだ。レイにエルリシアンにバライバ。聞いたことあるか?」

「ああ、お兄さん。外から来たんでやすね。そらバラバラになっちまってもしょうがないですねい。残念ながらワッシは力になれそうにありやせんわ。ワッシはゴランドっていいやす。お見知りおきをば」

「そっか。じゃあ劇について教えてくれよ」

「いいですねえ。この劇の一番の特徴はやっぱり”アドリブ”が含まれている所でやす。脚本家と演出家、主演のみがアドリブの内容を知ってやす。逆にそれ以外の人は何も知らないでそのアドリブに上手いことあわせるんでやすよ。だからこそ結末が変わって何度でも観にきたくなるんすわ」


 アドリブね。事前に何やるか決めてたらそれってアドリブじゃないんじゃないか? なんて思ったけど言ったら面倒なことになりそうだったからやめといた。


「いやあお兄さんもここに来たってことは上の世界にいられなくなったんでやしょ?」


 そういえばここは日陰者の楽園って呼ばれてるんだっけか。もしかしてこのゴランドは何かあったからここに来たのか?


「まあそんなところだよ。アンタは?」

「ワッシは元々、荷運び屋として働いてやした。毎日馬車を引いてねえ。ある日おっきな仕事を任されたんすわ。八頭も馬を引いてやした。でも、突如魔物に襲われて仕事は大失敗して大事な商売道具の馬まで死なせてしもて。その結果、解雇されて女房にも逃げられて、食い扶持を失くしてここに流れ着いたって感じでございやす」

「なるほどね。アンタも苦労してんだな」

「ここに来てからはそんな悩みもぜーんぶ吹っ飛びましたからもうどうでもいいんでやすよ。過去なんて」


 結構暗い話をしたのにも関わらずゴランドは随分と明るい顔をしている。無理をしているという印象も受けない。本当に気にしてないんだ。


「じゃあさ、この究幻迷宮の守護者って知ってるか?」

「守護者? ああ何となくでやすが聞いたことあるすわ。なんでもここを外敵から守る自警団が存在していて、それが数十人規模いてその中でとんでもなく強いのが守護者って呼ばれてるらしいですぜ。なんですかいお兄さんももしかして腕っぷしで自警団にでも志願するので?」


 流石にぶっ倒しに来ました! とか、もう既に一人殴り飛ばしました! なんて言えるわけないからそういうことにしとくか。


「そうそう。おれは”ここ”に結構自信あるんだぞ」


 おれはそう言って自分の腕を叩いて見せて納得させた。


「そろそろ劇が再開しやすね。お静かにしときやしょうか」


 おれたちが会話を終えてからすぐにアナウンスがかかり、劇が再開して第三幕が開けた。


【第三幕】~騎士と魔女の対峙~。


 幕が開けると王宮の中に兵士が何人かと白髪が増えた王とやつれた王妃、そしてすらっと伸びた背に飄々とした様子の鎧を纏った男がいた。


『時は流れて、姫がいばらに囚われてから既に二十年という月日が経過していました。あれから城の付近は樹海となり、誰も立ち入ることが出来なくなってしまいした。王は姫を救った者には望むものを何でも贈るという御触れを国外にも出していたが全く成果が得られませんでした。そして、住めなくなった城からそう離れていない平原に全く同じ城と城下町を建てて、いつでもいばらの城へ……最愛の娘の元へ向かえるようにしておりました』


『二十年の間に王は老け、王妃は痩せこけ、民たちは元気を失ってしまっていました。そんなある日、白馬に乗った騎士が城へとやってきてこう申しました』


「ワタシは騎士レオン! 西国タリスタより参りました。何でもこの地にいばらに囚われし姫君がいるとか。その呪い……ワタシになら解けるやもしれません」

「それはまことか!」


 なーんかあのレオンとかいう騎士様は信用ならねえな。というか騎士ってだけで信用できない! それになんか言葉に重みがねえんだよなアイツ。


「呪いは魔女を討ち果たせば解けるものと思われます。だからこそワタシがその魔女を……この国を混乱せしめた者の首を取りましょう」

「実に心強い。して褒美は何が良い? 準備をせねばならぬのでな」

「然らば、姫君は実に見目麗しいお方と伝え聞いております。なので……」

「みなまで言わずともよい。そなたのような男に救われたとあらば娘も喜ぶであろう」

「ありがたきお言葉」


『そうして、一人の騎士が姫を救うため、いばらの城へと旅立ちました』


 舞台が暗転してセットが城からいばらの森へと変化していた。たった数秒でここまで変化するなんて。


『騎士レオンは白馬を駆けて森の入り口までやってきました』


 おいおい、馬も人がやってるのか⁉ というか首から顔が出てるんだけどあれは隠さなくていいのか? 劇の馬ってのはそういうもんなのか?


『樹海へと立ち入ろうとしたその時、森の木々に呼び止められました。木々は高らかに喋ります。ここへ踏み入れば命は無いのだぞと……』


「あーこっ、ここから先はー魔女様のおわす城でござりますー。一度入らばー命はないと思えーって次はなんだっけ……」


 なんか随分と棒読みな奴が出て来たな。一体誰がやってん……………………ありゃ、もしかして……。おれは見間違いじゃないことを確認するために目をこすってからもう一度よく見た。あれは間違いない……あの喋る木を演じてるのはレイじゃねえか⁉ なんでここに。


 おれは思わず身を乗り出して声を出してレイを呼ぼうとしたがゴランドに押さえつけられた。


「ちょっとお兄さん。なにやってんの! 今は劇中だから騒いじゃだめでしょが」

「いや、あそこにおれの探してる仲間がいんだよ」

「えッ! そんなこと言ってもだめなもんはだめですって。声をかけるなら終わってからにしやしょう」


 クソッ! 仕方ないがここで面倒起こすよりも、黙って待ってた方が利口か。というか何でレイがここで木の役なんてやってんだよ。広葉樹が描かれた木の板に顔はめして両手には木の枝なんか持ってよ!


 おれがいくら気にしていたって劇自体は止まらずに進行していく。


「森の木々がどれだけ脅そうとワタシには無意味だ。ワタシは魔女如きに負けん」

「命知らずな者よーそこまで言うのであればー先へとー進みたまえー」


『騎士レオンは木々の脅しをものともせず白馬を駆けて森の中を突き進み、城へと一直で向かうのでした』


 レイは役目を終えたのか舞台袖にはけて行った。もう出番終わりなのかよ!


『騎士レオンはようやく城へと辿り着くと、城前で魔女セリナと対面しました』


「貴様が姫君を呪いし魔女か!」

「いかにもあたしがアメリア姫を眠らせた魔女だよ!」

「何ゆえにそのようなこと」

「王が憎かったのさ。あたしは元々王の妾だった。いずれは欲しいものを何でもくれてやると言っていたのに……世界で最も美しいそなたにこそと言っていたのにも関わらず! 王妃と婚約した途端にあたしを突き放した。挙句の果てにはその事実が知られないように消そうともしたのさ!」

「昔話ご苦労。しかし、今のワタシにはそんなこと関係が無いのでな。いざ!」


 それから魔女と騎士の戦いが始まった。意外にも戦闘も凝っていて見ごたえがある。実際に剣で攻撃して、それを魔女が魔法や杖で防いでいる。そんな攻防が続く中でおれはちょっとだけ魔女側を応援してた。


 次第に魔女側が押していき、騎士を倒した。


「バカな! このワタシが破れるなどありえない。王剣セレルトスを引き抜きし、このワタシが! 姫さえ救えば、金銀財宝が……あの王国がワタシの物になったというのに!」

「アーハッハッハ! そんな剣であたしを破れるとでも思っていたのかい。そんな柔なものじゃあたしを……呪いを破るなんてできやしないよ!」


『なんと騎士レオンは奮闘虚しく魔女セリナに敗れてしまいした』


 えっ⁉ あの騎士負けんのかよ。どうなんだこの劇。

読んでくださった方ありがとうございます。よろしければブックマークと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
https://narou.nar.jp/rank/index_rank_in.php小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ