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第三十七話 美しい花には罠アリ

 何か目印になりそうなものと言ったら……花の種類とかか? 奴が遠目から見ても分かるような目立つ色の花に設置してあるとか。奴が立っている場には……黄色い花や白い花が咲いている。おれは試しに赤い花に向かって魔法を放った。


 ”グリンド”【衝撃波】。


 魔法は真っ直ぐに進んで行き赤い花の所まで言ったタイミングでハープの音が聞こえたと同時に何かが破裂したような衝撃が起こった。風圧で赤い花を中心として辺りの草花が傾いた。正解だ。目印は赤い花。


「見破ったぞ。赤い花に設置型の音の爆弾が仕掛けられてるな。そこにさえ近づかなければ吹き飛ばされない」

「ふふ。一つは正解したみたいだね。確かに赤い花に僕の魔法を仕掛けてある。”セルパルド・エコーズ・インパクト”【反響する収音爆発】。これが僕の一つの魔法。だけど、本当にそれだけかな?」


 ここまで狡猾に罠を仕掛けるような相手が赤い花だけに罠を仕掛けているとは考えづらい。こうなったら全部の罠を一気に破壊してやるしかない。支配人だかマスターだかって野郎が見てるとか言うもんだから魂色魔法を使うのを躊躇してたんだけど、使うしかない。


 おれは剣を地面に突き刺して魔法を唱えるために両手を構える。


「全部焼き払ってやる! ”サージ・ゼレイム”【蒼炎の波紋】」


 おれは波のような蒼炎が出るはずの魔法を放ったはずだった。しかし、その威力は想定していた十分の一にも満たなかった。小さな蒼炎の波が散ったが、罠を探り出すには当然至らなかった。


 どういうことだ⁉ ここまで全く魔力は消費してこなかったから万全のはずだ。魔法自体が失敗したわけでもない。何が原因だ? ユシアは未だに笑みを崩さない。


「もう一回だ。 ”サージ・ゼレイム”【蒼炎の波紋】」


 二度目の魔法は炎すら出てこなかった。それに加えて、全身を脱力感が襲ってふらつく。これは以前にエルに教えてもらったことがある。”魔力枯渇症”魔力が底を尽いた時に無理矢理魔法を生み出そうとしたら現れる症状だ。つまり、おれの身体から魔力が無くなってる。なぜだ? いつ魔力が無くなった?


「既に別のトラップは作動していたんだ。なぜ僕がここを戦いの場に選んだのか? その答えは君の足元にあるよ」


 おれは足元を確認すると、謎の植物のツルがおれの足首まで伸びて絡みついている。なんだこのツルは⁉ おれはふらつく身体を意地だけで動かしてツルを剣で斬った。


「君は食虫植物って知ってるかな? それに似たような植物で”食魔植物”の一種なんだよ。魔力を栄養として成長する植物。そのツルに絡みつかれるだけで少しずつ全身から魔力が奪われていくのさ」


 クソッ! まさかここの植物すらも奴の罠だったなんて。ここはまさにアイツのための楽園だ。幾重にも張り巡らされた罠に標的を惑わせる謎の音。そのどれもにおれはまんまと引っかかっている。魔法で罠をあぶりだすこともできなくなった今、おれにはどうすることもできなかった。


「さあ、戦いもそろそろ終わりにしようか。もう楽しめそうにないからね。せめて最期ぐらいはマスターのために面白い苦悶の表情を見せてあげてよ! ”レゾナンス・ブレイク”【共鳴する破裂音砲】」


 ユシアはハープで調べを奏でる。すると、音符の形をした魔力が出てきて美しく澄んだ音の数々が奴の周囲を回りだして一つの大きな魔力の塊になっていき放たれた。


 まともに動けないおれは剣を前に出して受ける構えをとる。放たれた魔力の塊が剣にぶつかり、おれはその威力に次第に後ろへと押されていく。結果的におれは奴の魔法を防ぎきれずに直撃を受けてしまった。


「もうダメか……ぐわあああぁぁッ!」


 さっきまでの音の爆弾の罠とは桁違いの痛みが全身を貫いた。身体を何度も鈍器で殴られているような衝撃に気絶しそうになる。ようやく痛みから解放されたおれは目の前に突っ伏して倒れてしまった。


 頭の中にさっきまでのハープのメロディが残響している。もう指先すらも動かす力が残っていない。こんなところで手も足も出せずに負けるなんて嫌だ。おれは勝たなきゃいけないんだ。復讐を果たすその日まで。しかし、さっきからの衝撃のせいでどうにも頭がボーッとして思考が鈍る。


「もう虫の息みたいだね。次はどんな動きを見せてくれるのかな? ”リズム・シャックル”【干渉する音枷】」


 また身体に異変が起きるのか……と思っていたが何も起きなかった。


「どうやら僕の魔法を受け入れるための余力すらもないんだね。可哀そうに」


 何か言ってるが上手く聞こえない。おれの頭の横ではバサンがおれを起こすために頬をつついている。おれはかすれた声でバサンに話しかける。


「バサン……変身できるか……?」

「ピピ……」


 ぼやける目には小さなバサンの姿が映る。大粒の涙をこらえながら困り顔をしている。


「今……頼れるのはお前しかいないんだ……頼む!」

「ピ……ピピッ‼」

 

 バサンは翼で涙を取り払うと、おれと戦う覚悟を決めてくれた。おれはユシアに勝つための最後の策をバサンに伝える。


「…………分かったかバサン。おれの合図で頼むぞ」

「ピピヨラッ!」


 策を理解したバサンはおれから離れて飛んで行った。ユシアの方はというと少しずつおれにとどめを刺すために近づいてくる。


「さて、もうこのお遊びも終わりのようだね。あんまり弱っている相手をいたぶるのは好きじゃないんだけど僕の演奏を最期まで聞いておくれ‼ ”リズム・シャックル”【干渉する音枷】」

「させるかぁッ!」


 おれは全身に力を込めて片手で上半身を起こして、剣を横に振りぬいた。油断していたユシアは回避が間に合わず、足のすねに傷をつけた。剣に奴の鮮血が付く。初めて傷をつけられたユシアの顔からは笑みが消え、歯をむき出しにして怒りをあらわにしている。

 

「まだ動ける力が残っていたなんて、それで一矢報いたとでも言いたいのかい⁉ 無駄なあがきを……まあマスターがお喜びになるならこの傷も甘んじて受け入れよう。ただし、君の命をもってだけどね‼」


 さっき奴は身体に異変を引き起こすはずの魔法を使った。しかし、二回ともおれには効かなかった。これまでと違った点は何だった? きっかけはハープの音で間違いない。となれば………………そうか! あれは脳に直接干渉する音波を出していたんだ。そしてその効果は対象の脳に不規則な行動を引き起こすように命令することが出来る。だから耳を塞いでも意味が無かったし、起きる効果がいつも違ったんだ。

 

 防ぐことが出来たのは一回目は頭がぼんやりして命令を聞けなかったから。二回目は奴を攻撃するという命令を既に実行していたから魔法が入り込む隙が無かったからだ。そう考えれば奴はいつも魔法を使う時におれが次の行動に移ろうとした合間のタイミングを狙っていた。


 つまり、対処法は……奴の魔法による命令を受け付けないようにすることだ。


「もう……アンタの心地よい音色がおれに届くことはない。おれはアンタを倒す!」


 おれは根性だけで身体に鞭をうって立ち上がる。もう後には引き下がれない。おれはユシアを倒すための最後の賭けに出た。

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