第三十四話 未知なる迷宮への謎解き
リモーの街を出発したおれたちはそれから何日か野営を繰り返し、事前にバライバが得ていた情報を頼りに入り口があるはず場所付近までやって来ていた。しかし、中々究幻迷宮が見当たらない。この辺りは岩肌が露出している小高い山が連なる山岳地帯でおれたちは比較的、見晴らしのいい高い場所で休憩していた。
「バライバ、本当にこの辺りにあるのか?」
「情報が正しければだがな。」
「どっかに受付みたいな場所があればいいのに」
「それじゃあ迷宮よりかは観光地みてえになっちまうじゃねえか」
行き詰った時、レイが一つ提案した。
「もう一度バライバの情報を整理してみようよ」
「ん? そうだな~俺が買った情報はダッケイ山岳のどっかに究幻迷宮が存在するって言われたぜ」
「他には?」
「別の情報だと確か入り口を見つけるための言葉があって『石柱が導く先、日陰者の楽園はそこに』とか言ってたぞ」
石柱が導く先ねえ。そういえば探している道中、それっぽい形の石柱がいくつかあったな。
「その石柱ってあれの事じゃないかしら?」
そう言ってエルが遠くにある石柱を指さした。確かにおれが見たのもああいう形状をしていた。先がとんがっている四角錐。
「そうとなったらもう一度この辺りを探索して石柱の場所を地図に記しとこう。よし、休憩終わり!」
おれはそう言って荷物を持ち、今度は石柱を探すことになった。それから一日かけてこの辺りにあるはずの石柱を一通り地図にマークした。似たような形状の石柱は点々と存在していて一見すると円形上に配置されていた。こっからまたおれたちは地図とにらめっこを始める。最初に声を上げたのはバライバだった。
「石柱が導く先にあんなら、石柱から直線を引いて交差する地点にあんじゃねえか?」
「普通に考えればそうだね。でも、完全な円じゃない上にどこに向かって線を引くべきかまでは分からないよ」
「そんなもんはよそれっぽい中心に線を引きゃいいじゃねえか。あとはそこから探せばいいだろ」
バライバがそう言ったのでおれたちは地図を使って、石柱がある位置から線が交差する中心へと行ってみた。しかし、そこには他と変わらず大小様々な石が転がっているだけだった。
「何にもないわね……」
「そうだな……歩いて探すしかないのか?」
「幸い魔物も見当たらないし、ここからは手分けした方が良さそうね。ディールは何かあった時のためや合流のためにも中心地であるここにいて」
「分かった。おれはもうちょっとの間、地図と謎と見つめ合っとく」
エルの提案通り、三人は分かれて探索に向かった。レイは前から冒険が好きだったから今回の探索にも随分と前のめりだ。おれは尻が痛くないようにそこら辺の石をどけて胡坐をかいて座る。足に肘をついて手の平に顎を乗せながら謎について考えてみることにした。
石柱の導く先…………というかそもそも入り口って本当にこの石柱たちの内側にあるのか? おれたちは地図に囚われすぎてるじゃ。もっとバライバが手に入れた言葉から考えるんだ。『石柱の導く先、日陰者の楽園はそこに』。
石柱はここまで見つけてきた四角錐のことで合ってそう。日陰者の楽園ってのはきっと究幻迷宮が日の当たらない地下にあるということを指しているはず。謎が解けずに地図の端っこに魔物とかの落書きをしていたら、地図の上にバサンが乗っかって歩き回っている。
「コラ、バサン。今おれは考え中なんだよ。邪魔しちゃダメだろ」
「ピピ?」
それからバサンは石柱がある場所のマークを次から次へと飛んでいき遊び始めた。バサンがマークの上に乗る度にその場所に当然ながら影が出来る。………………これはまさか⁉ そう言うことか。
ここは複雑に入り組んだ山岳地帯。しかし、石柱がある場所はどれも高い位置ではなく、斜面や低い位置にあった。それに日陰者という言葉を合わせてみると、もしかしたらこの時間帯に日光が当たらない石柱が存在するんじゃないのか? そして時間が経過するごとに日が当たらない石柱が変化して今度はそこが入り口になる。
おれは自分の推察を皆に教えるためにしばらくの間、戻ってくるのを待った。皆が探索から戻ってきて互いに成果を言い合ったが、やはり誰も入り口らしきものは見つけられなかった。おれは改めて皆に自身の考えを話した。
「もし、ディールの言っていることが正しいとするなら、今の日の傾きからして……」
そう言ってエルが周辺と地図を交互に見る。
「ここの石柱かも」
「次はそこへ行ってみようよ」
レイの言葉におれは頷いてからおれたちは急いでその石柱がある場所へと向かった。その場所に辿り着くと確かに石柱には日が当たっていない。というか、石柱の形が最初に見た時と違う。明らかに変形している。頂点から石柱が四分割されて移動していて、中央に隙間が出来ている。
「おお! ディールの言う通りなんかあるじゃねえか」
「本当だ!」
そう言ってレイとバライバが先行して石柱を確認しに行く。すると二人は大きな声を上げた。
「おーい‼ 二人とも来いよ。なんか穴が開いてんぞ」
おれとエルも遅れて向かうとそこには穴があった。レイは魔宝具である燭台を取り出す。燭台は形や仕組みが変わって今まではロウソクが必要だったが今では火だけあればずっと明かりを灯せるようになっていた。
そうなったのもバライバが魔宝具をいくつか改造したからだ。その結果、あの魔法の燭台はより使いやすくなったってわけ。他にも改造された魔宝具があるが、どうなったのかはおれはよく知らない。
「バサン、ちょっとだけ火を頂戴」
レイがそう言うとおれの服のポケットからバサンが飛び出す。バサンはレイの腕にとまってから嘴を開いて火を吹き出した。その火は魔法の燭台の皿に空いている穴に吸い込まれていき、そこから今度は火が出てきて辺りを照らし始めた。
「ありがとう」
「ピピッ♪」
バサンは感謝されて喜ぶと再びおれのポケットへと戻って来た。ちなみにおれも以前、自身の蒼い炎を夜中に明かりとして使おうとしてみたが小さな炎を維持するのも難しいし、気を抜くと手から炎が飛んで行ってしまったことがあったから明かりとして使うのは諦めていた。
バライバが底の深さを調べるために床に突っ伏して腕を恐る恐る入れてみる。
「底は……お――――い!……こりゃ随分と深そうだぜ」
反響音の感じからバライバは穴は深くまで続いていると断定した。おれたちは近くの大岩に魔宝具のロープを括り付ける。最初にバライバが下りていき、しばらく待つと底に到着したと声が聞こえたので次にレイ、エル、最後におれが下りて行った。
おれも穴の底に到着するとロープに念じて元の長さまで戻した。辺りは燭台の火があっても暗くてよく見えない。
「ここが入り口で間違いなさそうなんだけど、周りの壁には続く道が見当たらないね」
「壁をぶっ叩いてみてもいいんだけどな」
「そんなことしたら土砂崩れで埋まっちゃうよ!」
レイはバライバがハンマーで壁を叩き壊さないように必死に抑えている。おれはその後レイたちの言葉を確かめるために調べてみたが何にもなかった。どうすることもできないのでもう一度バサンやエルの精霊であるメゼルに頼んでロープを上へ持っていってもらおうと思ったその時、聞き覚えのない誰かの声が響いた。
『ようこそ、日陰者の楽園であるワタシの究幻迷宮へ。本日は何用で来たのかな? 冒険者の方々』
丁寧口調ではあるが同時にどこか偉そうな雰囲気を感じる。流暢な喋り方といい変な抑揚がイヤーな感じを強めているのかもしれない。ここはもう奴らの領域で間違いない。おれは返す言葉を頭の中で選んでいるとバライバが先に返事をした。
「単刀直入に聞くぜ。俺達はよ、超希少金属の内の一つデュラクシウムを探しに来たんだが、ここにあるか?」
まさかのド直球な返答におれは開いた口が塞がらなかったが、すぐにエルがバライバの頭をひっぱたいた。
「ちょっと! 誰とも知らない相手に堂々と目的を告げるなんてあなたバカなんじゃないの!」
「痛ッ! 何すんだよ! 俺はな、長え話が嫌いなんだよ」
レイが二人の間を仲裁していると謎の声がひとしきり笑った後に話を続けてきた。
『あはは! とてもオモシロな方々がやって来たものだ。 いいでしょう、確かにこの究幻迷宮にはデュラクシウムが存在します。それもワタシの手の届く内にね。これを使ってオモシロな興行をしようかとも思っていたのだが……どうやらその必要は無さそうですね』
随分と素直と認めたな。だが、ここにデュラクシウムが存在するというのは嘘ではなさそうだ。
「デュラクシウムはどうやったら渡してもらえるんだ?」
おれがそう聞くと謎の声の主は嬉々として説明を始める。
『簡単な話です。君たちの他にもデュラクシウムや宝の噂を聞きつけた冒険者たちが既に何十人もここに来ています。そこで君たちはその他の冒険者たちと競ってください。最終的にワタシの元へと辿り着き、最も楽しませてくれた方にデュラクシウムをお渡ししましょう。悪い話ではないでしょう?』
「命の保証は」
『そんなこと……言わなくても分かっているでしょう? 最後に一つ重要な情報を差し上げましょう。”郷に入っては郷に従え”ですよ。さあ! 素敵な四名様ご案内‼』
謎の声の主がそう言い放って手を叩くような音が聞こえると、どこかから風が吹き出し始めた。その空気を吸い込んだ途端、身体から力が抜けていき急激な眠気が襲ってきた。やっぱり罠だったんだ。
「皆、出来るだけ息を吸うな。今、壁を破壊して脱出を……」
ダメだ……もう意識が……持たな……い。
うつ伏せに倒れて意識を失う直前、謎の声の主の笑い声だけが聞こえてきた。
『せいぜい足掻いて見せてください! 騎士に盗人どもに冒険者……今、究幻迷宮史上最ッ高のショーが始まる!』
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