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第三十二話 大衝撃! 爆ぜろ”茶”の魂色魔法‼

 おれたち四人は餌をくわえた軍平糖蟻を追いかけて巣を探す。二度と街を襲わせないためにもここで徹底的に叩かなくちゃいけない。辺りは平原でしばらく追いかけ続けていると、軍平糖蟻が周囲を見渡すように首を振り、触角を回す。それから地面の中へと消えて行った。


「あそこに巣があるみたいね」

「ということは作戦の第二段階は成功だね」


 レイの言う通り、第二段階は成功だ。こっからが最終段階、巣の完全破壊と女王個体の討伐。これが両方できて初めて作戦成功だ。いくら軍平糖蟻がいても、巣と女王がいなければ無気力状態になって何もできなくなる。


 おれたちは穴に近づいて地面に耳を当ててみるがエルしか音が聞こえなかった。


「ここが巣で間違いなさそう。数にしてまだ百匹以上はいるかも」

「巣に直接侵入して戦うのもあるけど、広さが分からないし、地形的に穴の中は戦いに向いてない。他に手立ては何か……」


 おれがどうやって巣を攻撃しようか考えているとバライバはニヤッとしてから喋り出す。


「いかに安全にここを吹っ飛ばすか……これは俺の出番で間違いなさそうだな」

「まさか魂色魔法を使うのかい?」


 レイがそう聞くとバライバは軽く頷く。


「ドワーフ族の茶の魂色魔法は”爆発”。魔法を不得手とするドワーフ族において魂色魔法を使えるものは少ねえ。しかし、俺なら使える! 直接は撃てないけど」

「「爆発⁉」」


 おれとレイは思わず大きな声で返す。まさか茶色の魂色魔法が爆発だったなんて……なんだか凄そうだ。だがおれはバライバの言った最後の一言が引っかかった。

 

「直接撃てないってどういう意味だ?」

「言葉通りの意味だぜ。手前らは手とか杖から直接撃つだろ。だが俺にはそれができねえ」

「ますます意味が分からないぞ。じゃあどうやって魔法を使うんだよ」

「道具に魔力を込めて使う。そしてコレが俺の全魔力を込めて作った”大爆破石”だぜ」


 そう言ってバライバは拳ほどの大きさの石を取り出した。それに爆破石って、最初に貰った魔宝具の一つだ。同じことを思ったレイが爆破石について聞く。


「爆破石ってバライバが作ったのかい?」

「ん? いいや、元は師匠が別のドワーフ族の力を借りて作った。そんでその作り方を教えてもらって真似ただけだ」

 

 ということはおれたちが使っていたのはバライバの師匠が作ったものってことだ。それはともかく爆破石は衝撃を与えないと爆発しなかったはずだ。


「爆破石はどうやって爆破させるんだ」

「そんなもんは俺が好きなタイミングで爆発させられるに決まってんだろ」


 つまり大爆破石はバライバ専用って感じだな。それからバライバは大爆破石を三つほど持って巣の穴に転がすようにして入れる。大爆破石はコロコロしながら暗闇の中へと消えて行った。しばらくの間、大爆破石が巣の奥深く行くのを待ってみる。


 そろそろいいだろって所でバライバが離れるように言った。


「もういいだろ。爆発の威力は俺自身もよく分かってねえからこっから離れるぞ!」

「何だって⁉」


 おれたちは言葉通りにその場を走ってバライバが止めるまで離れる。それから地面に突っ伏して伏せ、爆発に備えるとバライバが片方の手首を掴みながら魔法を唱える。


「大爆破石”起爆”‼」


 バライバがそう言うと同時におれたちは両手で耳を塞ぎ、目を細める。…………? ………………⁇ あれ? 爆発はまだか? おれたちは気になって巣の近くまで歩いていく。途中バライバがぼやいた。


「ありゃ? おっかしいな~。これで爆発するはずなんだが」

「ちょっとバライバ、あなた魔法を失敗したんじゃないの」


 エルがそう問い詰めるとバライバは冷汗を垂らしながら否定した。


「んなわけねえだろ。きっと何か他の原因とかがよ…………⁉」


 突然地面が振動し始める。足元がふらつくが何とかバランスを保って倒れないようにする。まさか……嫌な予感がする。おれは叫んだ。


「皆、こっから離れるんだ!」


 おれたちは巣を中心にバラバラの方向へと走って退避する。だが、間に合わずおれの後ろの方向で途轍もない轟音が響くと同時に爆風で吹き飛ばされる。起き上がりながら振り向くと雲まで届きそうな勢いで土埃が巻き上がり、土の塊が落下している。その中には軍平糖蟻の卵らしきものや成虫の姿も百匹以上は確認できた。


 あの中のどれかに女王個体がいるはずだ。他のよりサイズがデカくて、頭部に王冠のような突起があるのが女王個体だ。どこにいる? 事前に皆には女王個体の特徴を教えてあるから誰かが見つけられればいいんだけど。

 

 おれも懸命に視界が最悪の中で探すけど中々見つけられない。焦りが身体を引きつらせる。このままだとあの場にいる百匹以上の軍平糖蟻と戦わないといけない。もう日は傾いてる。暗いなかじゃまともに叩けない。


 そんな時、平原にレイの声が響く。


「見つけたよ! 今、目印をつける」


 レイが見つけたみたいだがどこにいるのか分からない。おれはレイを信じて目印が付くの待つ。数秒後、レイは魔宝具のロープを使って女王個体にくくりつけてからロープを縮めて、そこに向かって飛んでいる。


「軍平糖蟻の女王をここから吹き飛ばすから、あとは任せたよ! エイリレ流剣術”【飛燕躍桜】《ひえんやくおう》”」


 そう聞こえると巻きあがっていた土埃の中から一匹の細かい傷が入った軍平糖蟻が飛び出てきた。あれが女王個体に間違いない。おれは後の二人に聞こえるように叫ぶ。


「エル、バライバ! 総攻撃だ」


 おれは放射状に落下していく軍平糖蟻の女王を追いかけて飛び上がる。女王個体がもう目の前にいる。おれは思い切り力を込めて剣を振り下ろす。


「”鬼裂断”‼」


 しかし、おれの攻撃は女王個体の牙によってガチッと挟まれて止まってしまう。今度はおれの真下で弓に矢をつがえていたエルが技を繰り出した。


「”ニガジュラスアロー”【黒幻樹の剛矢】」


 放たれた矢は唸りをあげて女王個体の胴を貫いた。それと同時に顎の力が一瞬弱まったのを感じた。おれはもう一度力を入れて斬ると顔に傷がついたがこれだけじゃダメだ。さらに剣で薙ぎ払うようにして触角を切り落とす。


 これだけ攻撃を与えたがまだ致命傷には至っていない。落下しながら上を見ると既にバライバが構えていた。


「とどめは俺に任せろ! 師匠特製の魔宝具バンカバーム。”闘槌”形態!」


 バライバがそう叫ぶと上空のバライバの持っていた金槌が形状を変えてバライバの背丈の半分ほどまで伸び、円形の打撃部分には無数の棘がびっしりと生えて、見ているだけでも痛々しい見た目に変形する。


「行くぜ大技! ”ガジャラ・クォーツ”【尖突石英打】 ……起爆‼」


 バライバの振り下ろした大きなハンマーが女王個体に直撃する。その瞬間、他の軍平糖蟻よりも一層硬い外骨格をものともせずに打ち砕いたが、同時に爆発しやがった。おれは爆風で吹っ飛ばされて地面に叩き落とされた。幸い大きな怪我は無さそう。


 あの爆発はきっとバライバの仕業だろう。現に爆破石の時みたいになんか言ってたし。とにかくおれは起き上がって女王個体を確認しに行くとそこには粉々に砕け散った女王蟻の姿があった。その周りに皆も集まってくる。


「どうやら作戦は上手くいったみたいだね」

「ああ、俺がぶっ飛ばしてやったぜ。ガッハッハ!」

「お前の爆発のせいで死にかけたけどな……」


 おれはそう言ってバライバの方を見る。


「まあ生きてんだからいいじゃねえか。とっとと帰ろうぜ!」

「なんであなた達ドワーフって物作りの時みたいに繊細かつ緻密に戦えないのかしら……」


 バライバの豪快ぶりにエルがため息をついて呆れている。だが、レイは爆発の魂色魔法を目の当たりにして興奮気味だった。


「あれは凄かったね。まさかあれほどの高出力の爆発が起きるなんて、巣の中身が全部出てきちゃったよ」

「そうだろそうだろ! これこそが茶色の魂色魔法さ。それより手前の加速の魔法も凄かったぜ。街で一緒に戦った時は助かったからよ」

「えへへ、そんなことないよ」


 何はともあれ無事に作戦を成功させたおれたちは揃ってリモーの街へと戻っていった。

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