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第三十話 正気の沙汰じゃねえ

 ある程度作戦の概要を詰めたおれたちは翌朝、作戦の準備のために街の人々を集めてやってほしいことを伝えた。


「皆は奴らが再び襲ってくる明後日までに皆には大量のルミナシュガーとそれを入れるための樹液をたっぷり染み込ませた背袋を用意してくれ」

「旅人さん、やってはみますが何に使うのですかな?」


 丁度いいタイミングだったからここで街の防衛作戦について教えることにする。


「この作戦はハッキリ言っておれたちだけじゃ成せない。街の皆にも出来る限り手伝って欲しいんだ。まずおれたち一人一人が街の入り口に分散して待機する。そこで軍平糖蟻の街への侵入を防ぎつつ、キツくなったら少しずつ街の中央へ下がっていく。皆の中で戦える奴はその時、おれたちが攻撃して瀕死になっている奴にとどめを刺してほしい。だけど命が優先だ、無理だけはしないでほしい」


 おれが説明をしていると別の小人族が作戦について質問をしてきた。


「その話の内容だと私たちまで前線に立つことになる。危険な目に合うのはもう勘弁したいのだが……」


 その小人族の質問によって周囲の空気は一瞬重くなった気がした。街の若者が勝てなかった相手を前に再び立ち向かわなければならないのかとガヤガヤし始める。おれはそんな空気を吹き飛ばすように自信満々に返す。


「安心してくれ! だからこそ大量のルミナシュガーと袋が必要なんだ。奴らの習性の一つとして甘いものを見つけたらそれしか見えなくなるというものがある。それを利用しておれたちが背中にルミナシュガーを大量に詰め込んだ袋を背負って軍平糖蟻を徹底的に引きつける。そうすれば皆に攻撃の目は向かない!」

「まさか……囮になるというのですか⁉」

「そういうこと」

「なぜそこまで……我々にはまともなお礼も救っていただく理由もないというのに」


 そう言われたおれたちは顔を見合わせて微笑む。そして、レイが答えた。


「何故って……久々に甘いものが食べたくなったから、かな」

「そうだな。おれたちはルミナシュガーが欲しい、街の皆は軍平糖蟻から街を守る代わりにそれをくれる。それだけでいいじゃねえか。分かったら準備始めてくれよ!」

 

「旅人さんにそこまで言われたら我々もその作戦に全力を注ぎ心中する覚悟で挑むとしましょう。さあみんな、明後日までにルミナシュガーが急いで製造するぞ! 転ばぬ程度に走れ!」


 皆がそれぞれの作業のために散っていき広場にはおれたちだけが残された。バライバが口を開く。


「まさか俺達が囮になるなんてよ。なかなか狂った作戦じゃねえか、ええ? ディールさんよ」

「今ある戦力だけだとこれしか思い浮かばなかった。それにこの作戦の最終目標は街を防衛するだけじゃない。巣を特定して完全に破壊することだ」

「そのためにも明後日に出来るだけ数を減らしてそのうえで軍平糖蟻が撤退するところを追いかけて潰すんだよね」

「そうじゃないとこの街は何度も襲われることになるからな」


 時間が空いたおれたちはそれぞれ解散した。バライバはルミナシュガーの製造過程の観察をしに行き、レイとエルは戦いの場となるそれぞれの道をよく観察しに行った。おれは街のはずれまで移動して剣を振って修行を始める。


 近くの木箱の上でバサンが小さな翼を交互に振って修行の真似事をしてる。そういえばバサンも初めて会ってから一年近く経つがほんのちょっとだけ成長したかなって感じ。それにあのレース以来、でかくなるあのカッコいい変身もしてない。


「バサン、お前があのカッコよくて、強えー変身してくれたら助かるんだけどなー」

「ピピヨラ~♪」

「あ、でもあんなにデカい技使われたら街が粉々になっちゃうか」

「ピピ~」


 修行をして疲れ切ったおれは日が暮れ始めた頃、休むために集会所に戻った。中に入ると既にレイとエルが帰ってきており、バライバが食事の用意を済ませていた。


「おお戻ったかディール。食事が出来たから探してこようと思ってたところだぜ。席についてさっさと食え」

「ありがとな」


 食事を済ませるとおれはバライバに今日の事を聞いた。


「そういえば、ルミナシュガーの作り方とか見てきたんだろ。どうだった?」

「ああ、ありゃ感動もんだぜ。流石の職人技だ。手先の器用さだけならドワーフ族にも引けを取らねえな。一つ一つ手作業でよ、丹精込めて作られてるのがよくわかるぜ。でもよ、やっぱりあれだけの量しか作れないのが市場に滅多に出回らねえってのを表してるな」


 どうやらバライバは今日の見学がよっぽど満足だったみたいで、終始機嫌が良かった。結局、その日は特訓で疲れた体を癒やすために早めに寝た。


 翌朝、もう猶予は一日しか残されていない。今日も昨日と同じように街の皆はルミナシュガーの精製に励んでいる。おれたちはというと集会所で朝食を取りながら今回の標的である軍平糖蟻についておさらいをしていた。


「軍平糖蟻には基本的に魔法が通じない。それに昆虫型特有の外骨格のせいで生半可な武器も効かない。一見無敵にも思えるけど、弱点だってある。一つ目が知能が低いこと。二つ目が五感のうちで発達したものに頼っているところ。特に軍平糖蟻は触覚でほとんどの機能を補っているからそこを攻撃すれば能力は著しく下がる」


 おれが一通り説明し終えたタイミングでエルが戦闘について話す。


「明日の戦いは街への被害を考えて魔法を使わないようにってなってるけれど、身の危険を感じたら容赦なく使うこと。分かった?」


 おれたちは頷いた。その後、会話を終えたおれたちは明日の作戦で戦闘に参加しない老人や子供たちが安全な場所に避難できるように同行することになっていたためその集合場所まで向かった。


 戦わない人たちには街の北側にある小さな泉の近くで一日だけ野宿をしてもらうことになっている。街の人の話だとそのあたりは魔物が滅多に出ず、なんならよく釣りをしているらしい。


 集合場所に向かっている途中、小人族の少年に呼び止められた。彼は両手で剣を握っているが、その手は震えている。


「おらも一緒に戦います! 街を守りたいんだ」


 恐ろしさを知っているはずの敵と戦おうっていうのに、身体は震えているのに、良い目をしている。だからこそおれは少年に大事な役割を任せることにする。


「分かった、お前には大事な任務を任せる。避難する人たちを守ってあげてくれ」

「でも!」

「今生き残っている大人も作戦のために何人かは街に残らなきゃいけない。いざって時に避難した皆を守れるのはおれたちじゃない。お前だ」

「分かりました! おらがみんなを守ります」

「頼んだぞ」


 おれはそう言って少年の肩を叩く。すると少年は元気よく返事をして荷物を取りに行くと言い残して駆けて行った。


 おれたちが集合場所につくと既に街の人達が集まっていた。その中には最初に出会ったあの爺さんの姿もある。


「おお旅人さん、来ましたな。そろそろ出発しますか?」

「いや、あと一人勇敢な奴が来る予定」

「そうですか。もう少し待ちましょう」


 あの少年を待とうと腰を下ろそうとしたその時、遠くから誰かが大声をあげながらやって来た。皆で耳を澄ませて何て言っているのか聞いてみる。


「……ました! みなさ……が……来ました!」


 いまいちよく分からないが、何かが来たのか?


「何かが来たって言ってないか?」


 おれがそう言うとレイとバライバはそれぞれ否定する。


「俺には何かが『できました』って聞こえたぜ。ルミナシュガーが出来たんじゃねえのか⁉」

「え~! 僕は名前を呼ばれた気がしたけど。『レイー」って」


 おれたちが皆であーでもないこーでもないと予想を立てている中でエルだけが目を見開いて青ざめている。


「私にははっきりと聞こえたわ。全員戦闘準備を!」


 そう言えばエルフは耳がいいんだっけ。そんなことよりおれはエルの表情から只事ではないことを感じ取り、何と言っていたのか詳しく聞く。


「エル、なんて聞こえたんだ!」

「一言も違えずに言うと『みなさん、例の蟻が大軍で来ました!』って言ってるわ!」

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