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第二十八話 魔宝具と師との出会いⅠ

 「レイ、地図を出してくれ」

 「了解」


 レイに魔宝具の地図を出してもらい机の上に広げる。地図を見たバライバがツッコむ。


「おいおい、これフォルワ大陸全体の地図じゃねえか。こんなの出してどうすんだよ」

「実はこの地図、こうすると拡大出来るんだよ」


 そう言ってレイが地図を拡大すると、今いるリモーの街の地図が表示された。バライバは当然驚いている。


「これってまさか……魔宝具か⁉」


 バライバが魔宝具を知っていたのは意外だった。


「そうだよ。この地図は魔宝具で拡大縮小はもちろん、メモを自由に書くこともできるんだ。ただ、行ったことのない場所は黒く塗りつぶされているからそこは不便なんだけどね」

「なあ、手前らは他にも魔宝具を持ってんのか?」

「うん、魔法の小瓶とか伸びるロープとかね。旅に出た時から何度も命を救ってもらってるよ。ね! ディール」


 おれの方を見つめてきたレイに頷き返す。バライバはというとまだビックリしている。


「さっき言ってたのを俺に見せてくれ!」


 随分と食い気味に魔宝具の事を聞いてくるもんだからおれとレイは戸惑ったが仕方がないので袋から魔宝具を取り出すとバライバに渡した。いつもは鋭い目つきのバライバがまるで玩具を目の前にした子供みたいな無邪気な笑顔で魔宝具を調べ始める。


「まさか魔宝具を使ってる奴らがいたなんてな~。手前ら、どこでこれを手に入れた?」

「えっと……小瓶と地図は謎のおっさんにもらったな。ロープは確か……」


 おれが思い出せずにいるとレイが代わりに言ってくれた。


「ロープはあの変わった三兄弟から貰ったよね」

「ああ! そうだそうだ。あの珍妙三兄弟だ」


「二人ともよお、その兄弟ってのはどうでもいいんだが、謎のおっさんの方はいくつぐらいだった?」

「そうだな三十代ってとこか? あんまよく覚えてないけど」

「そうか……じゃあ違うな」


 欲しかった答えが返ってこなかったのかバライバはため息をついてどこか寂しそうだった。


「バライバは魔宝具について詳しいのか? おれたちは魔宝具が何なのかいまいちよくわかってないんだ」

「魔宝具についてか……ちょっと長くなるがそれでもいいか?」


 それを聞いておれとレイはどうしようかと顔を見合わせたが気になってしまったものは仕方が無いから聞くことにした。


「教えてくれ! 魔宝具について」

「じゃあまずは俺と魔宝具の出会いについてだが……これに関しては俺がまだガキの時、今から約四十年ぐれえ前だな。ちょうどお袋が無くなった頃だ。誰に頼ればいいのか分からなかった時にあの人は……師匠は街にやって来た」


 ◆◇◆


 時はバライバが十二の頃までさかのぼる。二百年近く生きるドワーフ族においてまだ十二歳のバライバはまだまだ子供だった。バライバは将来彼の工房が建つ予定の当時はまだ何もない広場の隅で泣いていた。


「なんで母ちゃんが死んじゃったんだよ……うわぁぁん」


 元々病弱だった彼の母親は不治の病にかかり、そのまま帰らぬ人となってしまった。それからというもの毎日広場まで走って来てはずっと泣いていた。数日が経つ頃には流す涙すら枯れ、ただ咽び泣く声だけが虚しく響いていた。


 日が暮れた頃に家へ帰るとそこには料理を作ってバライバを待っていた彼の父親の姿があった。


「さ、バライバ。手を洗ってこい。食事にしよう」

「うん」


 手を洗い、食卓につくとふと父親の手の傷に気が付く。慣れない手つきで料理をしたからか包丁で指を怪我していた。


「ねえ父ちゃん。怪我してるよ、いたくねえの?」

「ん? これか。大したこたねえよ。ほら、冷めないうちに食いな」

「いただきます」


 食事を口に運ぶがお世辞にもその味は美味しいとはいえない。しかし、バライバはそれを正直に言うこともなくただ黙々と食べ続けた。


 そんなバライバにさらに追い打ちをかけるかのように彼の父親が事故に遭ってしまう。男手一つで育てようと夜遅くまで働いていたことが災いしてチャグマ鉱山で作業中にたった一つの不注意で落盤事故が発生し、その下敷きになってしまった。結果現在に至るまで脳に記憶障害を抱えた状態で日常を送っている。


 事故後しばらくの間は年老いた親戚が世話をしてくれていたがそんな親戚も亡くなり、いよいよバライバが一人で家を守らなくてはならなくなった。家事の仕方を見て覚えていたバライバは苦労しながらも父親と共に生活していた。そんなある日、街に一人の人間がやって来た。彼はこの街で工房を持ちたいと言ったが、ドワーフたちは当然人間の話などに誰も聞く耳を持たない。人間を嫌っていたバライバもただの変な人間としてしか認識していなかった。


 人間が来てから更に数日後、バライバがいつもの広場に昼寝をしに来るとそこには昨日まで存在していなかったはずの小屋が建っていた。バライバは驚いてその場で腰を抜かしたが、中に何があるのか気になり恐る恐る戸を開けるとそこにはあの人間の姿があった。バライバの存在に気付いた人間の老爺は声をかける。


「どうされたのかな? ドワーフのこどもよ」

「お、俺はバライバだ。なんでこんなとこに工房があるんだ? 昨日までなかったはずなのに」

「ワシが一日で建てたのよ。許可が下りなくても関係ない。素材は客として売ってくれるんじゃからそれを元にすればいくらでも好きな研究が出来るわい」

「なんでこんな街に来たの……人間族が」

「それは”帰れ”という意味か? それとも単純に”理由”を求めているだけか?」

「え……」

「まあいいわい。ここに来れば質の良い金属がや加工技術が手に入ると思ったからじゃ。それ以外に理由はない。そうじゃこどもよ、この街で評判のいい鍛冶師はだれじゃ。教えてくれい」


 我儘な考えと途轍もない行動力にバライバは嫌悪感と同時にここまで出来ることに尊敬の念を抱いてしまった。複雑な感情に頭がもやもやしてしまったバライバは老爺の質問を無視して逃げ去った。


 次の日、バライバは再びあの老爺がいる工房へと向かった。頭に抱えた気持ち悪いもやもやを晴らすために。戸を開けるとそこにはあの老爺が炉をつけて金属を叩く姿があった。工房には入らず外からのぞくようにして作業をしている老爺に聞こえるように今日は昨日よりも大きな声を出して話しかけた。


「ねえ……なにしてんの?」

「んあ? 昨日のこどもか。気になるのか? ”コレ”」


 バライバは小さく頷く。


「聞くよりも見てみた方が早いぞ。ほれ、こっちにこんか」


 老爺に手招きされたバライバは両足にまるで重りがついているかと思うほどに足取りが重かったがそれでも確実にゆっくりと一歩ずつ近づいていく。


「昨日は逃げたのに今日は逃げないんじゃな。気になるものには首を突っ込みたくなるのがドワーフの性なのか」


 ぼそっと老爺がそう呟いたがその言葉はバライバには届いていない。バライバは工房の中の気になったものを指さして質問を投げかける。


「あれは何?」

「コレはこの街に来てから作った試作品一号。その名も”ホットカップ”! 効果はこの金属のカップに飲み物を入れると勝手に温めてくれる機能がついている優れものじゃ。これでコーヒーが冷えることは無くなるぞ! ワシ猫舌じゃけど」

「おぉ」


 何がすごいのか幼いバライバにはよく理解できなかったが、彼は老爺の謎の発明品に未知なる面白みを感じて目を輝かせる。


「じゃああれは?」

「乗ってきたようじゃの。コレは試作品五号。名は”切り刻みのツボ”じゃい! この中に物を入れると風の魔法で細かく切り刻んでくれるぞ。使い道は……料理とかかの? ワシ料理できないけど」

「おお!」


 なぜこのような変わった道具を作っているのか気になったバライバは好奇心の赴くままに聞いた。


「なんで変な道具ばっかり作ってるの?」

「散々聞いといて変とは失礼なこどもじゃのう。ワシはこの発明品を使ってどうしようなんて気持ちは全くない。頭に浮かんだ作りたいものを作っとるだけじゃよ」

「作りたいから作る……」

「ドワーフ族のお前にならいつか分かる日が来るじゃろうて。ワシはもう……いや、この話はこどもにする話ではないな。ワシはこれからまた制作に戻るがお前はどうするんじゃ? 見てくか?」

「うん!」


 それからバライバは謎の発明品を作る老爺の工房に頻繁に通うことになった。

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