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第二十六話 意外な特技披露

「とりあえず空き家を貸してもらえたことに感謝ね」

「そうだね。野宿だと交代で見張りしてないといけないからぐっすりできないよ」

 

 エルとレイが談笑している間、バライバが台所に向かった。


「もしかしてバライバがメシを作ってくれんのか⁉」

「俺の料理でよければ人数分作るがどうすんだ?」

「もちろん頼む! いや~腹減ってたからさ、助かる。レイとエルもそれでいいだろ」


 おれが聞くと二人は頷いた。


 材料は村の人たちから譲ってもらったらしくバライバが料理を始めるとその手際の良さに驚いた。鉄鍋に具材を入れて炒め始めると次第にいい匂いがしてきた。メシを楽しみにしながら待っていると料理を完成させたバライバが皿に盛りつけて運んできてくれた。


「冷めねえうちに食えよ。文句なら受け付けねえからな」

「いただきまーす!」


 肉と野菜の炒め物というシンプルな料理だったが一口頬張っただけで感動して涙が出そうになるほど美味かった。こんなに美味いメシは一体いつぶりだろう? おれは味の感想を言うのも忘れて皿の上のメシを食い尽くすまで黙って食べていた。


「バライバ、お前の作ったメシすっげー美味かったぞ! こんなに美味いメシは久しぶりだ。お前って料理が得意なんだな!」

「そ……そうか? あんまし他人に料理を振る舞うことなんてなかったからよ。そこまで言われると素直に嬉しいな。おかわりもあるぞ」

「じゃあもっとくれ!」


 レイもエルもバライバの料理が気に入ったらしくよく食べてた。レイは何かに気づいたらしくバライバに質問する。


「これって食材もいいものだけどそれだけじゃないね。もしかして上質な調味料が使われてる?」

「よく気付いたな。調味料だけは家から持ってきたんだぜ。こういうもんに稼いだ金を使って最高級の物を買ってんだ」

「やっぱりね! この絶妙な塩加減といい、肉の柔らかさといい。素晴らしい腕だね」


 食事を終えて満腹の腹をさすりながらちょっと休んでいると洗い物を終えたバライバが話しかけてきた。


「手前らは旅をしている間、食事はどうしてたんだ?」

「基本的に村とか街にいる時はその宿屋で出るメシとか飯屋を探してそこで食ってたな。野宿の時は交代でメシを作ってたぞ。おれたち皆あんまり料理が得意じゃなくてよ。レイはサラダばっかだしエルは肉を捌かずにそのまま豪快に焼いて食うしよ」


 おれの声が聞こえてたのかエルが言い返してくる。


「あなたの料理だって人のこと言えないでしょ。どこで採って来たかよく分からないキノコやら変な色の魚をそのまま食べさせようとしてきたじゃない‼」

「あれは危なかったな。エルが森の植物に詳しくなかったらあれが毒キノコって気づけなかったもんな。アハハハハ」

「笑いごとで済まないでしょ!」


 おれたちのやり取りを見ていたバライバが少しだけ微笑んでたのが見えた。


「じゃあこっからの旅の料理はバライバに任せる。美味いメシを頼むぞ」

「しょうがねえな。旅の間だけは俺が担当してやるぜ」

「よっしゃー!」


 バライバは料理担当を快く引き受けてくれた。これからデュラクシウムを手に入れて帰るまでの間だけど毎日あのメシが食えると思うと旅の楽しみが一つ増えた。


 次の日の朝、相変わらずエルに叩き起こされたおれたちは村の人たちにお礼を言って先に進むことにした。旅の道中、他愛のない会話を繰り返しながらこれといったトラブルが起こることなく意外にもすんなりと旅は進んでいた。


 数日が経過した頃、他種族について面白い話をバライバに教えてもらった。いろんな種族が住んでいるアルテザーン地方では大きな力を持つ主要種族がいてその下に他の種族がそれぞれついており庇護を受けているらしい。その主要な種族って言うのがエルフとかドワーフ、龍族他にもいるけどこれらの種族を指しているみたい。そこに例えば四肢長族はエルフの下についていたり小人族はドワーフとか他の主要種族の下についている。下につくと言っても傘下になったりとか命令を聞いたりってわけじゃなくてあくまで日常を送る上での困ったら頼ってねって感じなんだとか。それこそ昔は四肢長族は人間族のことでエルフに相談していたってエルから聞いた。


 アルテザーン地方についてまた少しだけ知れたところでおれたちは新しい街に辿り着いた。石造りの民家が並んでいる。広さの規模だけならトゥカの街よりも小さめかな。それにしてもこの街は明らかに変だぞ。誰も街を出歩いてない。けど気配だけは感じる。だから廃墟の街ってわけではなさそうなんだけど。


「なあレイ、なんで誰もいないんだ?」

「僕に聞かれてもねー。もしかして夜行性とか?」


 レイの考えにバライバが笑って返した。


「カッハッハ! 冗談でもそりゃねえだろ。おもしれえこと言うな、レイは」

「冗談のつもりはないんだけどなぁ……」


 どっかの家に話でも聞こうかと思っていたその時、近くの民家から年老いた小人族が出てきておれたちの腕を引いてくる。


「エルフのお嬢さんにドワーフのお兄さん、それに人間さん。こんな時間に外に出ていたら危険だよ。早くわしらのおうちに避難して!」


 必死な形相を見たおれたちは冗談だとも思えなかったから言葉に従っておとなしく家の中に入れさせてもらった。一瞬、罠かと疑ったが、もし敵だとしてもおれたちなら大丈夫だろう。ちょっと物騒かもしれないけど、いざって時は家ごと魔法で吹っ飛ばせばいい。


「なあ爺さん、避難ってなんのこグッ⁉……」


 おれが爺さんに質問しようとしたら口を手で塞がれてしまった。何すんだよと思ったが視界の端っこで小人族の子供が数人で固まっているのが見えた。こっから見える限りでは何かに怯えて震えている様子。只事じゃないと思ったおれはおとなしくすると、日中だというのに閉め切られたカーテンに出来た影を見てギョッとした。何かが家の外を歩いている。二足歩行の生き物じゃないのは確かだ。


 爺さんはおれたちが影を見たのを確認すると口をふさいでいた手をようやくどけてくれた。そして、爺さんは口に指を当てて黙るようにジェスチャーをしている。おれは小さく頷くと皆に目配せした。皆も分かってくれているみたいだ。それから音を立てないようにその場で待ち続ける。その間も何度か謎の影が家の外を徘徊していた。一時間が経過したあたりで爺さんが扉を静かに開けて外を確認して安堵の表情で戻ってくる。


「旅人さんたち、運がよかったね。あのまま外にいたら怪物の餌になってたよ」

「爺さんよ、あの変な影は一体なんだったんだ?」


 おれの質問に爺さんは素直に答えてくれた。


「あれはね、数週間前から街に現れるようになった魔物だよ。あいつらはね三日に一度の間隔で村にくるのよ」

「何の魔物か分かるか?」

「ごめんね街の者であの魔物が何なのか知ってるのはいないのよ。だけどね、一度だけ見たことがあるよ。特徴はまるで昆虫……蟻んこみたいだったのよ」


 蟻みたいな魔物か……昆虫型の魔物は何種類もいる。おれは自分の荷物から仙郷の大図書館で手に入れた『フォルワ大陸魔物大全』の書を開いて該当してそうな魔物をいくつか爺さんに見せてみた。爺さんは目を凝らして確認している。するととある魔物のページを指さした。


「これだよ旅人さん! こいつらが街を襲っているやつらだよ」


 爺さんが指をさした魔物を見てレイがおれにその魔物について聞いてきた。


「ディール、この魔物は知ってる?」

「ああ……既に読んだ所だけど、コイツは厄介だな」

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