第二十四話 族長を救う鍵
「ナボム鋼に関しては礼を言う。これは準希少鉱石のひとつだ、手に入れるのは簡単じゃねえからよ」
「まったくさ、本ッ当に大変だったんだぞ。これを毎日やるのは大変だな」
バライバは少し考えこんだ後、顔を上げて俺の目を見つめて話した。
「手前のことを放っておいたら今度は武具を作りかねねえ。そこまでされたら他の組頭に迷惑が掛かっちまう。もう俺の負けだ、詳しい話をしてやるから工房までついてこいや」
「このまま全部の仕事を体験しても良かったけどね」
「勝手に言ってろ」
おれはバライバと一緒に彼の仕事場である工房まで行くことになった。工房自体は前にも来たことがあったが相変わらず意味の分からないオブジェクトがいっぱい置いてある。この芸術作品について深く考えても無意味そう。おれは工房の中に入れてもらった。外観は石造りの丸っこい腰折れ屋根の奥行きがある小屋。中は思ったより整理整頓されていて物が散ったり汚れたりしていない。広さ的にはおれとレイが縦に並んで腕を伸ばしながらゴロゴロと十回は回れそうなぐらいか。入って左側には長机、右側には金属を溶かすための炉が置いてあった。机の上には設計図っぽいのがあってその上の棚には布が積み上がっている。そういえば今日のバライバは最初に会った時と違う鉢巻を巻いている。あそこの布は頭に巻く用なのかもしれない。
「まさか俺の工房に人間を連れてくるなんて思わなかったぜ」
「まあいいじゃないの。それよりさ、その頭に巻いてる鉢巻ってガラに似合わずかわいいのばっかだよな」
「手前には関係ねえだろ。今はそんな世間話をしに来たわけじゃねえはずだ」
「それもそうだな」
「欲しい情報は族長がどうして腑抜けになっちまったか……だろ。まあ座れよ」
おれは深く頷いてから椅子に座った。バライバは神妙な面持ちで話を続ける。
「族長が変わった原因に心当たりがあるぜ。あれは本当につい最近、確か四年前だ。あの日おれは族長から姓を貰えるように説得しに行った。部屋の前に着いてドアを開けようとしたら誰かとの会話が聞こえてきてよ、あの族長に客人なんて珍しいから盗み聞きしてやったんだ。ドア越しだったからよく聞こえなかったけどな」
そう言ってバライバは当時の会話を覚えている限りで再現し始める。
「族長がいつもより元気な感じでさ『この金属を守ってきたのは今日のため。ようやくドワーフ族の歴代族長から伝え聞いた約束を果たせた』って言ってたんだ。そしたら相手の奴が『流石は歴代で最も優秀な鍛冶職人バルキス殿です。貴方のおかげで世界は変わる。しかし、貴方は大きな間違いを犯してしまった。それは……約束の相手を違えたことです』なんてとんでもない高笑いをしながら言うもんだからどんな奴だと気になってドアをこっそーり開けたらよ、気取られたのか黒い霧を出してその場から消えたんだ。ありゃあ魔法かなんかしらの類だぜ」
うーん。今の会話だけだと何も分からないな。
「伝え聞いた約束って何だ?」
「それは族長しか知らねえだろ」
「それもそうだな。じゃあ族長と会話していた奴が原因なのか?」
「俺は少なくともそうだと睨んでるぜ。なんせ族長が元気をなくしたのはあの日以降だったんだからな。アイツが消える前に手に剣を持っていたのをこの目で見た。あれは絶対に族長が鍛えた剣だ。そしてその剣に使われた金属が今回の事件のカギになってるはずだ」
バライバは思っていたよりも情報を持っているみたいだ。
「その鍵になる”金属”って?」
「俺の推測の域は出ねえけど一度だけ族長に見せてもらったことがある。名前は”デュラクシウム”。世界に数種類しかない超希少金属の一種だ」
金属の部類はラララに教えてもらったことがある。おれが欲しかったナボム鋼は準希少鉱石。希少性が下がると一般鉱石になる主に鉄鉱石とか。ダイヤモンドとかプラチナは珍しいから希少鉱石に分類されてるらしい。まさかそれよりも更に上があるなんて知らなかった。
「恐らく族長はそのデュラクシウムを使って剣を鍛えたにちげえねえ。もしかしたら作品の出来に納得がいかなかったのか、それとも約束を違えたってのが引っかかったのか」
「ってことは族長の元気を取り戻すことが出来るのはもしかして……」
「想像の通りだ。デュラクシウムを手に入れて族長に渡す。これが俺の考えた族長を元気にしてやる作戦だ。これ以外には思いつかねえ」
「話は何となく分かった。ここまで話してくれたってことはおれもその作戦に入れてくれるんだろ」
「バカ言ってんじゃねえ。俺は手前がしつこいから教えてやったんだ。何も作戦に入れてやるなんざ一言も言ってねえよ」
バライバに否定されてしまったがおれはニヤリとしてバライバに詰め寄る。
「いいや、アンタはおれの提案を断れないはずだ。デュラクシウムを手に入れるっていう目的を行動に移さないところを見る限り、それは容易に手に入らないはずだ。でも、人手が少しでもあれば手に入る可能性が増えるんじゃないか?」
おれがそう言うとバライバはおれに背を向けて机に突っ伏した。寝たわけじゃないと思うけど。随分と長考しているから声をかけようとしたら起き上がった。
「分かったぜ。手前を俺の作戦に入れてやる」
よしキタ!
「じゃあ作戦を説明してや…………」
「ちょっと待ってくれ」
「何だよ⁉」
「前に見たことあるかもしれないけど、おれにはあと二人仲間がいる。それもとびきり強い二人だ。その二人も入れてくれ」
「あぁーあん時のエルフの女と人間の男だか女だかよくわからねえやつか」
「レイは男だって」
「んなことどうでもいいわ‼ もういい、どうせ戦力は多い方がいいし駄目って言ってもついてくんだろ?」
おれは笑顔で頷いた。するとバライバはやっぱりと呆れた感じで首を振っている。
「説明は二人を呼んでからにしよう」
「じゃあ今すぐ呼んできやがれ」
バライバの工房を後にしたおれは急いでレイたちを呼びに行った。レイとエルは二人で情報を集めていた。
「おーい! レイ、エル。バライバが情報をくれるってよー」
「えぇ! ディール。いつの間に彼と仲良くなったんだい? それにここ一週間ろくに顔を合わせなかったから心配してたんだよ」
「まったくあなたは相変わらず一人で勝手に突っ走るのね。その怪我は大丈夫なの?」
「バライバとは仲良くなったわけじゃないけど、認めてはくれたみたいでさ。怪我はポカラをかけたから大丈夫だ」
おれは二人の手を引いてバライバの工房まで連れて行った。その道中でバライバから聞いた情報を二人に伝えておいた。工房に到着するとおれたちは中に入る。バライバと対面したレイとエルはなんだか気まずそう。椅子が人数分なかったからエルに席を譲ろうとしたが拒否されたのでとりあえずおれが座った。
「これで全員揃ったか。じゃあ今回の作戦……」
「族長元気取り戻そう大作戦だな!」
おれが張り切って手を挙げて作戦名を提案する。
「そりゃ却下だ。なんつう名前だよ、というか作戦名を考えてる場合じゃ……」
「そうねその作戦名は無いわね。作戦名はズバリ、族長の心に火打石作戦で決定よ!」
今度はエルが指をピッと伸ばして決め顔で新しい作戦名を提案してみる。しかし、バライバは受け入れなかった。
「それも却下だ。つーか揃いもそろって変な作戦名考えるな。真面目にやる気はあんのかよ⁉」
おれとエルは揃って首を縦に振った。
「「あるある」」
場が乱れてきた所をレイが正そうとし始める。
「作戦はさ、おいおい考えることにしてまずはその詳細から聞いた方がいいんじゃない? そうでしょみんな」
バライバは一度咳ばらいをしてから作戦について話し始めた。
「気を取り直して今回の作戦について説明すんぞ」
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