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第二十二話 おれの魂色魔法

 おれとヘンベル盗賊団フクロウ隊隊長との一騎打ちは苛烈さを極めていた。奴が横に切り払うのをおれは何とか飛んで躱す。魔法で攻撃しようと下がったがそうはさせまいとすぐに隊長は距離を詰めて接近戦を仕掛けてくる。激しい剣同士の打ち合いが続く。剣の技量だけなら互角かもしれない。だけど力はあっちの方が上だ。少しずつ押され始める。


「流石に大口を叩くだけのことはあるようだな!」

「へへ、アンタも今までの隊長の中なら一番強いよ」

「それにしても魔法を操るとはな、よい生まれの者かな?」


 魔法使うのに生まれなんて関係あるのか? そういえばレイは貴族の家系だしエルはエルフ族の王女だ。でもエルは魔法に魂色は関係すれど血筋は関係性が見られないという研究結果が出てるって言ってたな。

 

「生憎様それはおれ以外の仲間だな。おれはサンアスリムの田舎生まれ田舎育ちだ」


 おれがサンアスリム地方の生まれだと告げると隊長は目の色を変えてまるで子供みたいに興奮気味に新たな質問をぶつけてきた。

 

「ほう⁉ サンアスリムとな。では貴様らはクレッセントベルトを越えてきたのか。やはりあちらには我らと同じ人間だけが住んでいるのだろう」

「そりゃそうだ。あっちには……おれは良く知らないけど親友が言うには人間の国しかない」

「それはいい話を聞いた。我はアルテザーン地方の生まれ故、クレッセントベルトの外は何も知らないのだ」

「あっそ」

 

 変に話に喰いついてきて若干気味が悪い。そう思っていた時、隊長がいきなり語りだした。


「貴様はアルテザーン地方の人間族がどう生きているか知っているか?」

「は? それは……」


 おれがこっちに来てから今まであった人間族といえば、まずはこいつらヘンベル盗賊団に世界樹に商品を卸しに来る商人、それにこの間のトゥカの街の人たちとかだ。あとはあんまり見かけたことが無い。見かけはするが圧倒的に他と比べて数が少なかった。


「折角外の地方から来たのだ。こちらも教えてやろう、アルテザーン地方の人間族についてを。今も昔ほどではないが他種族による人間族の迫害は続いている。差別のようなものだ。貴様も少しは思い当たる節があるのではないか? 理由は分からないがどの種族も人間を毛嫌いしている」

 

 確かに思い当たる節が無いわけじゃない。四肢長族とかエルフも最初に会った時は殺されそうになったし、ドワーフ族のバライバもおれたちに対してあまり歓迎的じゃなかった。四肢長族に関しては人間に土地を奪われたという理由があった。隊長はまだ話を続ける。


「詳しい歴史は知らぬ。生まれた頃より毎日を生き抜くのに必死だったからな。百年前から始まりほんの十数年前まではここから離れた地域で”人間狩り”なるものまで行われていた。我の父はそれで死んだ、内容はただの大量虐殺だ。様々な種族が入り乱れた蛮族のような連中が小さな集落でつつましく暮らす人間族を見つけ出して笑いながら殺すのだ」


 今の話は本当の事なのか? おれはあまりにも衝撃的な内容に構えていた剣を下ろしてしまった。もしかするとおれを油断させるための嘘かもしれない。だけど完全に否定することもできなかった。


「”人間狩り”が消えたのは各種族の偉い者たちが”魂の道義”に外れる行為とし取り締まったそうだ。しかし、我らのように住む場所と家族を失った者たちはひとまとまりになりヘンベル盗賊団を結成した。まともな生き方など知らぬからな、他者から何かを盗むこと以外生きる術を持たぬのだ」


 教えてくれる誰かがいないとまともな生き方が分からなくなるのは正直分かる。おれだってレイやシスターがいなければロオの街で他の奴らみたく泥をすすってただろう。


「アンタらの悲しい過去とかヘンベル盗賊団の結成秘話とやらもよく分かったよ。だけどな、だからって誰かを傷つける生き方を簡単に認められるかよ! とっとと盗んだものを返しやがれ」

「貴様に認めてもらおうなどと最初から思ってない! ただ知っておくのだ、他種族と人間族は相容れぬ存在である。我々はどれだけ小さかろうがこの罪を重ねていき、いずれは復讐を果たしてやるのだ」

「どう生きようがアンタらの勝手だ。だからこそアンタらに教えてやるよ、人間はどんだけ苦しくてもつらくても明日を生きる方法を模索し続けることができるって。他にあったはずだろ商いとか土地を耕すとか」

「それは人間狩りが表面上で消えた後の偽りの平和を享受した一部の教養を持つ者や力を持つ者に取り入るのが上手い者だけだ。我々のように不器用で教養のない人間には何もできない」

「それは違う。知らなかったら試せばいい、分からなければ学べばいい。そうして人間は間違いの中から何かを学んで生きてきたはずだ。アンタらにだってそれが出来るはずだ」

「綺麗ごとをどれだけ並べようがもはや後戻りなど出来ぬのだ。我々は亡くなった者たちの躯の上に立ち、恨みをこの身に憑りつかせている。彼らの魂を復讐の先へ連れて行けるのは我々のみだ」

「随分と壮大なんだな。だからこそおれが……人間族のおれが止めてやるよ」

「やって見せろ‼」


 おれはもう一度剣を構えて隊長と剣を交えた。さっきよりも攻撃が重たい。あんな偉そうに言っちまったがおれだって奴と同じで復讐が目的で生きている。本当におれにコイツらを止める資格なんてあるのか? 何もかもを奪われたことの悲しさや怒りだって分かる。どうしても決意が揺らいでしまって太刀筋が鈍る。その隙を突かれて腕に浅い傷を負ってしまった。


「どうしたのだ⁉ そんな曇った剣では我を止めることはできぬぞ」

「ダメだ‼ おれにはアンタを斬ることが出来ない。おれも復讐が旅の目的なんだ。アンタを否定しちまったらおれ自身の目的も否定することになる」

「ホ~ホッホ。だったら我は部下を連れて鉱石を持って帰るがそれでいいのかな?」

「それもダメだ。それはドワーフ族の皆が必死に集めた物……渡せない」

「どちらかはっきりしてほしいものだな。どれもこれも駄目と言われて素直に引き下がっていては盗賊など務まらんわ」


 どうすればいいんだ⁉ これまでだってロオの街にいた時から盗賊連中はいくらでも相手にしてきたはずだ。おれが戸惑っていると隊長が声を荒げて話しだした。


「炎の少年。物事を難しく捉えすぎているのではないか? 自らの信念を持ち、貫き通そうとするのは大事なことだ。しかし、その信念が邪魔をして目の前の選択を曇らせてしまっては意味が無い。ならどうすればいいのか…………簡単だ。その時に自らが最も大切にしたいことを選べばいい。もっと簡単な理由を見つけてしまえばいい。無理やりにでも理由をつけてやらねば戦えぬのが人間だろう」


 もっと簡単な理由だって? それは…………今一番大事なのは…………ドワーフ族の皆が集めた鉱石を誇りを守ることだ‼ それがおれの今一番大切にしたいものなんだ。


「覚悟は決まった。もうおれは揺るがない」

「それでいい。良い眼になった」


 勢いを取り戻したおれはさっきまでの腑抜けた戦いとは打って変わってフクロウ隊の隊長を押し始めていた。大きく剣を振りかぶって体重を乗せた一撃を与えると隊長は剣でガードしたがその衝撃で地面に足をつけたまま数メートル後ろまで吹き飛んだ。追撃するなら今だ。


「”ゼレイム”【蒼炎球】」


 おれの左手から放たれた蒼炎の球は隊長の元へと飛んでいく。隊長は利き腕ではない左腕で受け止めるが思い切り火傷したみたいだ。


「”ガンド・ゼレイム【蒼炎連弾】」


 隊長に攻撃を躱す余裕はもうないみたいだ。おれの魔法を全て受け止めている。おれが次の攻撃のために魔法を止めると隊長がよろめいたのが分かった。おれはこの隙を逃さずに最後の大技を仕掛けるために飛び出した。剣を高く掲げて力の限り振り下ろす。


「”鬼裂断”」


 隊長は剣で受けきろうと構えたがおれの一太刀は隊長の持っていた剣をへし折って身体も肩から腰に向かって縦に大きく切り裂いた。隊長は剣の柄を落とし、地面にうつ伏せに倒れた。意識を失う前にか細い声でおれに語り掛けてきた。


「聞け、炎の少年よ。因縁の相手が誰かは知らぬが、これから先、今の我に対する少年のように復讐を妨げるものがきっと現れる。少年に復讐を願う者すら現れるかもしれない。その時、すべてを薙ぎ払わなければ復讐の先へは辿りつけぬぞ‼」

「望むところだ。邪魔する奴は誰であろうとおれの魂色魔法で焼き払ってやる」


 おれの返事を聞き終えた隊長は意識を失った。おれとフクロウ隊の隊長の一騎打ちが終わった頃、九班の皆も残りの部下を全員気絶させて捕縛していた。おれは九班の皆と合流する。

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