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第二十話 トロッコ出発 九班を乗せて

 おれがやる気を取り戻した九班の後ろについていくと随分と開けた場所に出てきた。どうやらこのチャグマ鉱山は各ブロックからルートを繋ぐと一箇所の中間地点ような場所に行き着くようになってるみたいだな。あちこちに鉱石やドワーフを運ぶトロッコが走っている。


「トロッコはどこへ向かってるんだ?」


 おれが気になってラララに聞くと詳しく教えてくれた。鉱石を運ぶトロッコはドワーフが操縦しながら各ブロック間を移動するための手段として使ったり、採掘した鉱石を鑑定、収集するための場所へと持ってったりするために使われているみたいだ。まるで蜘蛛の巣みたいに線路がそこら中に薄暗い闇の中へと伸びている。下手に乗り込んだら、一生帰ってこられなさそう。


「お前らグズグズしてないでついて来い!」


 ブッチが運搬用のトロッコまで向かっていると、別の班のドワーフが九班の存在に気がついた。ドワーフたちは九班が採掘成果を挙げたことに度肝を抜かれたみたいだ。あまりの衝撃に言葉を失っている中、一人のドワーフが声をかけた。


「まさかその背負ってる袋の中身、全部鉱石か!?」


 そう聞かれたブッチは待ってましたと言わんばかりにニヤァとして言った。


「ただの鉱石じゃ~ね~んだなこれが! ほれ見てみろ」

「まさか……」

「そのまさかよ、全部準希少鉱石だ。それもたった一日で一ヵ月……いや三ヵ月のノルマ分は軽くあるぞ」


「ようやく仕事をしてきたか、九班」


 おれたちを囲むように立っていたドワーフを押しのけて見覚えのあるドワーフが出てきた。あの人は確か採掘師の組頭だ。


「組頭、どうだい? 俺達が本気を出せばこのぐらいはよゆ……」

「だからなんだ⁉ これまでどれだけ遊び惚け、タダ飯を食らっていた? これだけじゃ全く足りんな。クビを飛ばされたくなければ明日からもしっかり働くことだな」

「うぅ……返す言葉もねえです」


 あのブッチも組頭の前じゃいつもの調子は出ないな。


「他のものも油を売っている場合じゃないだろう。さっさと今日の採掘成果を集計所に運ぶんだ。それと九班、お前たちの今日の採掘成果は確かに賞賛に値するものだ。しかし、これを毎日行うのが当たり前であり我らドワーフの仕事の基本なのだ。改めて肝に銘じておけ」


 組頭に一喝されるとドワーフたちはせっせと残りの作業を終わらせるために持ち場に散っていった。おれも九班の後ろについていこうと歩きだそうとしたら組頭に呼び止められた。


「ディールよ、九班に発破をかけてくれたのは君だろう」

「いや、おれじゃないですよ。あの人たちに大切なことを思い出させたのはルジの言葉です」

「ルジか……あいつは死してなお九班の者どもに道を示すとはな」

「おれも一回で良いから会って話してみたかったですよ、ドワーフ族の鑑に」

「そう言ってもらえるとルジも喜ぶだろう」

 

「ところでディールよ目的は果たせたか?」


 おれは首を横に振った。


「一日ではな……仕方がない」

「まあ何か別の案を考えてみるさ」

「ドワーフ族の……族長のためにどうか頼む」


 組頭は頭を深々と下げたがおれはすぐに止めた。


「そんなに頭を下げなくたってこっちが勝手にやるよ」


 組頭と会話を終えて九班の後を追おうとしたその時、どこかから叫ぶような声が聞こえてきた。


「誰か――――泥棒が出たぞぉぉッ‼ 捕まえてくれ‼」


 泥棒が出たと聞いておれと組頭、その他のドワーフは皆、声が聞こえてきた方を探す。洞窟の中で反響してどこにいるか分からないが組頭が指をさした。


「あいつらか⁉」


 おれも組頭が指をさす方向を見てみると確かにそこには背中に恐らく鉱石がパンパンに詰まっているであろう袋を抱えた人間の集団が走って逃げていた。数にして五~六人ぐらいか? 全員頭にバンダナを巻いていて、その中の一人だけバンダナではなくどんぐりの頭みたいな帽子を被っている。そいつは他の奴より髭をしっかり蓄えており随分と筋肉質だ。おれは抱えていた袋を組頭に渡す。


「これ持ってて」

「どうする気だ」

「とっ捕まえに行くんだよ!」


 窃盗集団は洞窟の上方を走っている。どこか上がれそうな場所はないか? おれは奴らを見失わないように追いかける。ドワーフの努力の結晶を盗むなんて許せるはずがない。そういえば魔宝具のロープがあれば飛べるはず……そうだった、服を着替えてるからあれはいつもの服のポケットの中じゃないか⁉ どうすることもできないまま追いかけ続けていると窃盗集団はトロッコに乗った。


「隊長、この場はトロッコに乗って逃げましょうぜ!」

「その案……採用なり。各員乗り込むのだ」


 このままだと逃がすことになる。おれはすぐに近くのトロッコを探す。その時、おれの名前を呼ぶ声がした。


「お~いディール君。こっちこっち!」


 ラララや他の九班の皆が既にトロッコに乗り込んでいる。おれは驚く暇もなく皆の元へ向かって乗り込んだ。ちょっとぎゅうぎゅう詰めな気がするけど。


「ブッチ、これで奴らを追えるのか?」

「さっきのトロッコは開拓途中の鉱脈へと向かうためのやつだ。だったら同じルートのこれに乗って追いかけるほかない。グーダ、レバーを引け‼」


 ブッチの命令通りにグーダが先頭のレバーを引くとトロッコは音を上げてレールの上を動き出した。三台のトロッコが繋がっていて先頭だけつくりが違うみたいだ。レバーを引いた後にグーダは少しだけ移動してラララと一緒にハンドルみたいなのを交互に上下に動かしている。多分あれでこのトロッコを動かしてるんだ。二人は掛け声で息を合わせて動きを早くする。すると、トロッコはどんどん加速してきた。


「おい、お前はさっきの泥棒を見たことあるのか?」


 ブッチからの疑問におれは首を横に振った。


「これまでも鉱石や宝石泥棒の被害には何度か遭ったことあるそうだがこんな白昼堂々と盗みやがる奴らなんぞ初めて見たからな。必ずひっ捕らえてやる」

「ブッチよ、もうじき盗人どものトロッコが見えるかもしれんぞ」


 どうやらトロッコはいくつもルートがあるが途中で分岐するために空洞でレールが交差しているみたいだ。その地点が近いらしい。それにしても通常よりも速度を出しているせいなのかトロッコがガタガタと揺れる。ちょっとでも油断すればそのままトロッコから落ちて吹っ飛ばされそうだ。しばらくするとポンガの爺さんの言う通りに少しだけ空洞が広がってやや前方にさっきの窃盗集団の乗ったトロッコが見えて来た。


「見えたぞ、あいつらだ!」


 おれがそう叫ぶとブッチはトロッコを更に加速させるように命令した。少しずつだけど着実に距離は縮まってる。おれは腹の底から声を張り上げて窃盗集団に問い詰める。


「おい泥棒ども、観念して止まりやがれ!」


 おれの声が届いたのか窃盗集団の内の一人が振り向くがタイミング悪く奴らのトロッコは上に、九班を乗せたトロッコは奴らのレールが敷かれている岩場の下に空いているトンネルを通過していき気づかれなかった。


「なんだよこのレールは⁉ ぐちゃぐちゃすぎるだろ」

「仕方ねえだろ。レールが敷ける場所は限られてる。それよりもあんまし時間はかけるなよ」

「どういう意味だ?」

「ここはまだ未完成のルートだ。多分、レールが途中で終わってる。つまり、それまでに片を付けないと全員どっかの作業場か未開拓の洞穴に放り出されちまう」

「嘘だろ‼ 先に言えよ」

「今思い出したんだよ‼ ほらもう一回近づくぞ」


 またさっきの奴らが見えてきた。今度こそ止めてやる。


「後ろ向けよ間抜けども‼ 袋に穴空いてるぞ!」

「あんだって⁉」


 ようやく奴らがおれたちの存在に気付いた。


「いいかよく聞け! このレールは途中で終わってるから急いで止めなきゃとんでもないことになるぞ」

「そんな嘘を信じるほど俺達は馬鹿じゃねえぞ!」


 ダメだ。どうやら奴らにおれの話を聞く余地なんてなさそうだ。ここはグリンドで狙ってみるか。おれは左手を前に出して右手で支える。揺れて中々狙いがつけられないが落ち着いて呼吸を整えてから呪文を唱える。


「”グリンド”【衝撃波】」


 グリンドはそのまま窃盗集団の乗ったトロッコに直撃することなく近くの岩に当たり、その岩は盛大に砕けた。砕けた岩の破片がこっちに飛んでくる。おれは急いで剣を鞘から引き抜いて岩の破片を弾いた。


「おいガキ! 何やってんだ、あぶねえじゃねえか」

「すまない、魔法じゃ狙いが定まらなかった。直接叩くしかない」


 こちらが攻撃したことに窃盗集団は腹を立てたのか奴らは爆弾を取り出しやがった。

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