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第十八話 これこそが職人の矜持

 おれが荷物を抱えて外に出ると、九班の連中はおれを待たずに鉱山の入り口へと入っていった。彼らの後ろについていくと九班の連中はずっと何かを喋っていた。ブッチは先頭をポンガの爺さんはそのすぐ後ろをそれぞれ無言で歩いている。ラララはグーダと話している。といってもグーダの反応がほとんどないから一方的にだけど。


「ねえねえ、グーダよぉ。仕事終わったら遊び行こうぜ! 何人か女の子誘ってさ」


 ラララからの誘いにグーダはただ頷いただけだ。それを聞いていたブッチが会話に割り込む。


「俺も連れてけよ!」

「それは駄目っすね~。だってこの間、ブッチ先輩酔っぱらって空気ぶち壊したじゃないすか!」

「んだとガキがー!」

「ひえ~~その短気な性格直してほうがいいっすよ~~」


「落ち着かんかい坊主ども。これから仕事だぞ」


 ごちゃごちゃしていた雰囲気をポンガの爺さんが一言で制する。しかし、ブッチが余計な一言を放つ。


「だァァッ‼ 稼ぎがなさすぎて嫁に逃げられた爺さんには言われたくないわ」

「それは言い過ぎっすね~」


 ブッチがポンガの爺さんに飛びかかる前に他の二人が羽交い締めにして抑え込んだ。


 おれはこんなんで大丈夫なのかと思いながらも静かに後ろについて行った。しばらく歩いた後、目的地に着いたのか随分と開けた場所に出た。空洞の奥には受付のような場所があり、ブッチがその受付にいるドワーフと話し始める。


「アッハッハッ、こいつは何かの冗談か? 問題児だらけの九班様じゃないか。久しぶりの仕事はなんだ? ん? 第四ブロックの鉄鉱石採掘かそれとも、第二十ブロックの開拓作業か?」


 受付のドワーフは随分と舐めたような態度でブッチに接している。短気なブッチはつるはしで殴りかかろうとしたがグーダが必死に抑え込んでその間にラララが変わりに対応した。


「ハハハ、どっちもブブーですよ。正解はあそこにいる人間と一緒に第十八ブロックで準希少鉱石の採掘作業で~す」

「そうかそうか! 何をやらせてもダメダメな落ちこぼれ九班はついに体験ツアーを始めるのか。こりゃ傑作だな。いい仕事が見つかってなによりさ」

「ハハハ……そうっすね。じゃあまた後で~」


 ラララは愛想笑いをしながらおれについてくるように首でクイッと合図を出した。おれが受付の横を通ると受付のドワーフはニヤニヤしながらおれを物珍しそうに見ていたが面白くなかったのかすぐに業務に戻った。いくつかある内の一つの穴に入っていくと金属でできた大きな籠みたいなのが見えてきた。これは世界樹で見た魔法で動く昇降用の籠みたいだ。その金属製の籠の中にぞろぞろと九班の連中は入っていく。おれも入るがそこまで狭いわけじゃない、あと大人が四人は乗っても大丈夫そう。おれが乗ると、ブッチが籠についているレバーを操作した。すると、鉄籠は下に向かって動き出した。この謎の鉄籠についてはブッチが説明してくれる。


「どうせ俺達は体験ツアーのガイドだから仕方なく教えてやるよ。これはな各ブロックへ向かうための昇降機だ。ブロックにもよるが到達までに数分で済む偉大な発明だ」

「動力は? 魔法か?」

「ハッ! エルフじゃねえんだ。こいつは魔法じゃねえよ、カラクリで出来てんの。エネルギーは鉱石から得てる。ぶっ叩くと魔法に似た強烈な力を放出する”ギラクロ鉱石”ってのがあんのさ。そいつから出る力をカラクリの一部に溜めて使いたいときに放出して今みたいにカラクリを動かすためのエネルギーにしてるって訳だ」


 なるほどな。ここじゃ魔法っぽいけど魔法じゃない力を使ってこういうカラクリを動かしてるんだ。魔法についてはエルに教えてもらったことがある。空気中にあるエーテルって呼ばれる目に見えないものが自然に自身の体内へ魔力として変換されて溜められていく。理論的には近いんだろう。しばらくすると昇降機が停止してどこかについた。九班の連中が下りていく。


「さあ、ここから歩きで最初の第3ポイントに向かうぞ!」


 おれは九班の後ろについていきながら鉱山の坑道を進んで行く。ここではサンサン鉱石ではなく松明で明かりを確保してる。道中、何回か道が枝分かれしていたが曲がることは無く真っ直ぐ進んで行く。ブッチが歩みを止めた。どうやら目的地に着いたみたいだ。


「こっからは分かれて採掘するぞ。ラララ! 人間の面倒を見てやれ」

「あ~⁉ そう言って自分はサボる気でしょ。先輩は相変わらずズルいんだからな~」

「うるせぇ! 一番年下なんだから言うことは黙って聞いとけ!」


 ブッチがそう言ってラララの頭を小突くとグーダと共にどこかへ行ってしまった。一方でポンガの爺さんは黙って採掘作業を始めている。


「じゃあ~体験ツアーでも始めますか!」

「えと……よろしくお願いします」


 おれはラララのレクチャー通りに一緒につるはしをつかって壁を削っていく。それっぽいのが出てきたら今度は道具を変えて掘り起こしていく。おれが採掘したのは赤黒い鉱石。何の種類かラララに聞いてみる。


「これは何の鉱石?」

「あ~それは鉄鉱石だね。ちょっと貸してごらん」


 おれはラララに手渡すとラララは急に真剣な目つきになった。


「こりゃ駄目だね。加工場には回せないね、不純物が多い」

「見ただけで分かるもんなのか?」

「そりゃあこれでもドワーフだからね~。良し悪しぐらいは見れば分かるよ」


 おれはその後も採掘作業をしたが一向にナボム鋼が見つかる気配がない。結局その日はブッチが作業時間終了の鐘の音を聞いて引き上げるために戻ってくるまでまともな収穫がなかった。おれは肩を落として歩いたが九班の連中は収穫が無いことを全く気にしてないみたいだ。戻った時にまた受付でガヤガヤ言われたが皆無視してそれぞれ帰宅していった。本当にこんなんでナボム鋼が手に入るのか? それにドワーフは皆が皆誇りを持って仕事をしているものだと思ったけどそうじゃない奴もいるんだな。来る次の日もそのまた次の日も同じような感じで何の収穫もないまま過ぎて行った。そんなこんなで五日目に突入したとき、気になっていたことをラララに聞いた。


「なんで九班は皆こんなにやる気が無いんだ? 他の班の連中を見かけたけど大収穫な奴らばっかりだったぞ」


 おれがそう聞くとラララは苦笑いしながら答える。


「あ~ついに聞いちゃう感じだ~。しょうがないな、教えてあげるよ。今はさブッチが班長をやってるけど元々はルジって人が班長やってたんだよね。これがまた超優秀でさ、新しいルートをすぐに開拓して向かう先々で大当たりばっかり。大量の金を当てたこともあったっけ」

「今はそのドワーフはいないのか?」

「そうだね、不幸にも落盤事故が起きてそれに巻き込まれて亡くなったよ。それからうちの班はまとまりなんか無くなって仕事もルジに頼りっぱなしだったからポンコツが四人残って今に至るってわけ! 笑えるよね。遊んでた分のツケが回って来たって感じ⁉」


 笑えはしなかったが何となく複雑な気持ちになった。でもようやくこのまとまりのなさややる気のなさに納得がいった。おれはブッチを探して奥へと進む。ブッチを見つけると一言ぶつける。


「おいブッチ! まさかとは思うけどここはもう何も残ってないルートなんじゃないのか?」

「うるせえぞ。黙って作業しろ」

「分かったよハッキリと言ってやる。アンタらはこれまでルジに頼ってばっかりだったから仕事のやり方が分からねえんだろ!」

「んだとッ⁉ ラララの馬鹿が喋りやがったな。仕事が出来ねえ、だったら何だってんだ?」


 ブッチは明らかに機嫌を悪くすると時間が大して経っていないというのに引き上げてしまった。他の皆もそれに黙ってついていく。おれはポンガの爺さんを引き留める。


「ちょっと待ってくれよ! まだ何もやってないじゃないか。同じ仲間なのに引き留めないのかよ」


 ポンガの爺さんはため息をつきながら返した。


「仕方ないことなんじゃよ、ここの第十八ブロックには鉱石はもうほとんど残っていないと考えていい」

「じゃあここにいたって意味ないじゃないか⁉」

「いや、一つだけ方法がある。新しいポイントの開拓じゃ。それさえ見つければ坊主の欲しいもんは見つかるかもしれん。しかし、わしらにはその技術はない」


 おれは仕方なく引き上げて地上に戻るとドゴに相談するためにドゴの工房へと向かったが忙しいらしく門前払いを食らった。帰ろうかと思った時、ドゴの弟子の一人が声をかけてきた。


「あっ! ディールさんじゃないですか」

「えっとアンタは」

「ドゴ師匠の弟子のベイゴですよ」

「あの時の! ドゴと話すきっかけをくれてありがとうな」

「いえいえこちらこそ素晴らしい剣を見せてもらったんですからお互い様ですよ。それよりも今日は師匠に何か用ですか?」

「実はさ、聞きたいことがあったんだ」


 おれはベイゴに九班について知っていることが無いか聞いてみた。


「そうですねー。五年ほど前でしたか、確かにあの事故は街中で大騒ぎでしたよ。ルジさんは次期組頭候補なんて言われてましたからね」

「そんなに凄い人だったのか」

「亡くなってからは知っての通り、九班は全く仕事が出来なくなって厄介者扱いですよ。あの輝かしい栄光も今となってはね」


 他にも知っていることが無いか聞くとどうやらルジには弟がいるらしくベイゴと同期で同じ鍛冶職人を目指しているという情報を得た。そして、おれはベイゴに頼み込んでルジの弟にこれから会わせてもらえることになった。

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