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第十五話 そんなに簡単な問題じゃねえ

 おれはバライバと話した日の午後、ただただそこら辺を歩いてどうしたら人間嫌いの彼と心を交わせるかを考えていた。人間の中にも道具を大切にできる奴もいるってことを知ってもらえばいいんじゃないだろうか? おれは少しでも鍛冶や道具に関する知識を頭に入れるためにドゴの所に寄った。ドゴはおれに気付くと作業を一区切りさせてからこちらに来るように笑顔で手招きした。


「どうしたんだディール。まだバルキスの事を考えとるのか」

「ドゴはバライバってドワーフの事を知ってるか?」


 おれがバライバという名前を出した時、一瞬だけドゴの表情が曇った気がした。


「あのガキか、ドワーフで一番の変わりもんだ。あいつの分野は芸術だな、あの変なオブジェクトを見たろう。あれが一部の富豪にウケててな、高値で売れとるんだ。バライバがどうかしたか?」

「実はさ、バライバに会って話を聞いたんだけど、族長について何か知っていそうだったんだ。だけど中々教えてくれなくて」

「ハッハッハ! あいつは大の人間嫌いだからな」

「何があったって言うんだ?」

「詳しくは知らんがな、バライバの父親は街一番の優秀な鉱夫で母親は昼下がりの日差しのように眩しい笑顔が素敵な武具屋の娘だったのだ。しかし、バライバは小さい頃に母親を亡くし、父親は事故の影響で下半身不随の状態になってしまっとる。あの時以降だったなあいつが人間嫌いになったのは」


 おれは他にもバライバについて聞いた。


「バライバは変わり者だって言ったけどどこがそうなんだ?見た感じは他のドワーフと変わらず自分の作品に真剣に向き合っていて、職人気質だったけど」

「若いドワーフは立派な職人になるために組頭を師匠に持つことは説明したな」


 おれは軽く頷く。


「バライバには師匠がおらんのだ。といっても昔はおったのだがな、それも街の外から来たドワーフではない謎の男を師に教えを乞うていたのだ。その者が何を教えていたのかは知らんが、当時親を亡くしたも同然のバライバはその男によー懐いとった。そしてその師がこの街から離れた後はご存じの通りあのよく分からんオブジェクトを作り始めた。だからこそ変わりもんと呼ばれておるのだ。それにドワーフを師に持ち、族長に認められるような作品を作らんと鉱石にちなんだ姓をもらえん。姓をもらって初めてドワーフの一人前の職人になれるのだ。俺としてはあいつはもう立派な職人だが、族長があの様子ではな………………」

「なるほどな。少しだけアイツのことが分かった気がするよ。それとさもう一つ教えてほしいことがあるんだけど」

「俺に出来ることならなんでも聞いてくれや」


 おれはその後、ドゴに武器の手入れについて聞いた。ドゴは一から丁寧に教えてくれた。まずはドワーフが愛用している砥石で研いだ後にベタリ牛から採取できる油とホルガオ豆から抽出される油分を混ぜ合わせた特別なオイルを剣に塗る。しばらく日に当たらない場所で放置して最後に布で拭き取れば終了。手入れが終わった後のミレニアムはこれまでよりも一層輝いて見える。ドゴは手入れ用の道具一式をタダでくれた。おれはお礼を言ってから次の場所に向かった。


 次におれは街から離れた採掘場に来て、無理を言って中に入れてもらった。トンネル掘りの地下深くにある採掘場の中ではドワーフたちが道具を使ってせっせと鉱石を採取していた。どうやらここでは鉄鉱石がよくとれるみたいだ。おれはその後、鉄鉱石が製錬所に運ばれてマグマみたいに燃え上がっている高熱の炉の中に入れられ精錬されていく様子を見ていた。日は変わり、鉄鉱石が完璧な鉄のインゴットになったのを見てそれを武器に加工するドゴも観察した。


「これで少しはドワーフの仕事を知ることが出来た。剣一本作るのにこれだけの人が関わっていたなんて知らなかったな。今ならバライバと話せるかも」


 おれは数日ぶりにバライバに会いに行くことにした。宿から出ようとするとレイに引き留められた。


「もしかしてまたその……バライバだったよね。彼の所に行くのかい?」

「ああ、今日こそ話せる気がしてな」

「僕たちの方も情報を集めている所だよ。ディールも頑張ってね」


 バライバのいる広場に行くと今日もまた作業をしていた。だけど今日は前回来た時とは違うモニュメントを作っている。今度は何やら螺旋状の……何だろうアレは? おれは芸術を理解できぬままバライバに声をかける。


「来たぞ、バライバ」

「ようやく顔を出さなくなったと思ったら、また来たのかよ」

「いいからさ、見てくれよ、おれの剣を。初めて正しい方法で手入れをしてみたんだ。以前とは見違えるくらい輝きが増したんだ。道具を大切にするってことが分かった気がする」

「…………少し分かったからなんになるって言うんだ? 俺はな手前みたいな人間が一番嫌いなんだよ! 聞いたぞ、職人たちを追いかけまわして物のつくりかたやら作業内容ならを見てるらしいな」


 バライバは作業を中断しておれの胸に持っていたハンマーを押し付けて怒りに満ちた瞳はおれを真っ直ぐに見つめている。これ以上力を込めて見られたら穴が開きそうだ。おれは必死に経緯を話す。

 

「それは……前に話したときに『人間は道具を大切にせずに使い捨てる』って言っただろ。それを聞いておれは反省したんだよ。おれ自身も過去に剣を……壊した。中途半端な知識でさ、手入れをしてたんだよ。まともな手入れが出来ていたらもっと長く使えたし、刃こぼれして切れ味が落ちることもなく常に全力を引き出せたはずだ。ドワーフの仕事を学んでいたのは、剣一本にどれだけのドワーフが関わり、苦労が注がれているかを知れれば武器職人の族長の気持ちを知れるかと思ったんだ」

「それで知った気になりやがってよ、いいか⁉ 覚えとけよ”知って分かる”のと”察って理解する”ってのは全くの別物なんだ。もう話すことはねえ、頭を砕かれねえ内にここから失せな」


 バライバはおれに突き付けていたハンマーで押し飛ばすと作業に戻っていった。おれはバライバの言ったことを考えながらトボトボと宿に戻る。道中でドゴに相談しようかとも思ったが何か違う気がしたからやめておいた。その後にレイたちが戻ってきて今日あったことを話した。


「だいぶ怒らせたみたいだね」

「もうよしなさいよ。理解し合えない人がいるってことぐらいあなたなら分かるでしょ。七玹騎士とかがまさにそうじゃない。それと同じなのよ」

「でも……ディールは諦めないんでしょ」

「当たり前だろ、バライバは見てたら分かる、良い奴だよ。作品を作っている時の顔を見たことがあるんだが凄い良い顔をしてるんだ」


 一日中、考えてようやく結論にたどり着いた。おれは早速、考えたことを行動に移すことにした。まず初めに素材となる金属を売っている店に来た。入って早々机をドンッと叩き、店主に質問をする。


「聞きたいことがある!」

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