第十四話 彼は街一番の変わりものです
おれたちはドワーフの族長であるバルキスにどうしたら力を貸してもらえるか模索するためにまずは族長の様子が変わった原因を探ることにした。とはいえ誰も心当たりがない以上探りようがない。完全にお手上げだ。
「ドワーフの力が借りられないなら、一旦別の種族のところへ行くのはどうなんだ?」
「それも一つの案として考えておいたほうがいいかもね。でも、できれば族長さんの身に何があったかは突き止めておきたいかも」
レイに続いてエルも話す。
「私もレイの意見に賛成よ。あの鍛冶バカなドワーフの族長が金槌さえ持たないなんてありえないわ。それに昨日の対応、何か変な感じがする」
こうなれば多数決で族長を何とかするで決まりだ。おれたちは単独行動を取って街を探索することにした。
まず初めに近くの建物に入ってみる。内装や置いてある商品を見るにここは家具店みたいだ。おれがこれまで見たことあるのは木製の製品ばかりだったけどここにあるのは違う。どれも金属がベースのものだ。金属の脚を持つガラス張りのテーブルに頑丈そうな光が反射しまくっている棚もある。
「どうした人間の坊主よ。うちの商品が気になるのか?」
「ここの品物ってどれも頑丈そうでいいな。それに長持ちしそうだ」
「ありがとな、今度これを作っている職人に言っておくよ。でもな、残念なことにドワーフ製の家具はあまり売れねえんだ。デザインが気に入られなかったり海の近くの地域の人には錆びちまうからって理由で売れねえんだわ。俺もよ職人にはデザインを凝るように言っとるんだがな~」
確かにここの商品はよく言えばシンプルだ。今度は階段を上がって二階の商品に見に行った。するとそこには大量の金庫が陳列している。小型なものから大人が三人ぐらい入れそうな大型のものまであった。どの金庫もどれだけぶっ叩こうが壊れなさそうなぐらい頑丈そうだ。
「金庫はよく売れるんだよ、特に富裕層からな。この街で買ったアクセサリーや宝石の塊を保管するのにつかわれるから一緒に売れるんだ。よほど大事なんだろうな、金持ち様様だよ」
「おれも金持ちの知り合いができたらこの店をオススメしとくよ」
おれは忘れないうちに今回の目的である族長について聞くことにする。
「ここの族長の様子が変わったのに心当たりはないか?」
店主は深く考え込んでから答えた。
「悪いけどないなー。でもよ以前まではな、自分自身も相当忙しかったはずなのにドワーフ族の長として一つ一つの店を見に来てくれて助言をよくくれたもんだ。『ドワーフ族の技術は人々にとっての必需品であるべき』という言葉は今でも胸に刻んで商売してるよ」
店を出たおれはその後も聞き込みを続けるが中々めぼしい情報を得ることが出来なかった。聞いた話に共通していたことと言えば、あのドワーフの族長のことを皆職人として尊敬していたってことだ。街を歩いていると目の前の店の中にレイの姿が見えた。あそこはアクセサリーショップだな。おれもレイのいる店に入ってみる。レイはアルテザーン地方の通貨であるワーエイ金貨を一枚渡して店主から袋を受け取った。こちら側に振り返ると満面の笑みだった。しかし、おれに気付くとレイは目を丸くして驚いていた。
「ディール! いつからそこにいたの⁉」
「ついさっきな、レイを見かけたからさ。それよりも何か買ったのか?」
「えっ……と……ちょっとね。とりあえず出ようか」
「何だよ教えてくれよ」
「あとでね」
おれたちは一緒に店を出るとエルと合流した。情報を共有したがどうやら二人も大した収穫は無かったみたいだ。おれたちが肩を落としながら歩いていると街のはずれのひとけのない場所にたどり着いた。そこには金属製や石のモニュメントが乱立しておりそのそばにドワーフの青年が一人突っ立っている。そのドワーフはなにやらイライラして落ち着きのない様子だった。
「チクショォ‼ 納得いかねえな、作り直しだ!」
ドワーフはそう叫ぶと地面に落ちていた小さめのハンマーを手に取ると打撃部分を掴んで引っ張った。する とたちまち柄の部分が伸びていくと同時に打撃部分が巨大化していく。気づけば小さかったハンマーはあのドワーフの背丈よりも高く大きいハンマーに変化していた。
「あのハンマー何なんだ!」
「僕も知らないよ。あんな道具」
ドワーフは思い切り振りかぶると金属の立方体を組み合わせた謎のモニュメント目掛けて振りぬいた。頑丈そうだったモニュメントは一気にヒビが入る。ドワーフはそのままモニュメントを破壊し続ける。跡形も無くなったところでドワーフはハンマーの打撃部分を地面に置いて柄を押し込んで最初に見た時と同じサイズに戻した。そういえばあのドワーフはどっかで見たことがあるぞ。確か、族長の部屋から飛び出したやつだ。
「アイツって族長の部屋から出てきたやつだよな。何か知ってるかも」
「そうだね、ここはひとつ話を聞いていこう」
おれはドワーフに声をかける。
「なあアンタ、ちょっとだけ話させてもらえないか?」
「ん? 俺に何か用か」
ドワーフの青年は振り返るとおれたちの姿を確認して眉をひそめながら不愛想に答えた。見た目は透き通るような茶色っぽい目にいくつにも枝分かれしたドレッドヘアを高めの位置でまとめている。男のドワーフ特有の髭が生えておらず額にはいかつい顔に似合わない紫色のボタニカル柄の可愛らしい鉢巻を巻いている。背丈はおれやレイとあまり変わらず他のドワーフと比べると背が高めだな。どこかドワーフっぽさを感じない、不思議な感覚だ。
「おれはディール・マルトスって名前だ。ここの族長の力を借りたくて来たんだけどなかなか難しくてさ、アンタは前に確か族長の部屋から出てきただろ。族長が変わった原因を何か知っているんじゃないかと思ってな」
「手前、鋭いな。お察しの通り確かに俺にはバルキス族長がああなっちまった心当たりがあるぜ。だがそれをよそ者に教えるほど俺は馬鹿じゃねえ」
「そこをなんとか頼むよ、他のドワーフは皆本当に族長が変わった理由を知らないんだ」
「ドワーフ族の問題はドワーフが解決するんだ、もうこれ以上関わるんじゃねえ」
ドワーフの青年はそう言い残してその場を去ってしまった。さっきのドワーフの態度にエルは怒りをあらわにしている。それをレイがなだめていた。
「何なのかしらあのドワーフは、態度が随分横暴ね」
「悪い人じゃなさそうだけどね」
おれは次の日の朝、もう一度あのドワーフと話をするためにあのモニュメントだらけの広場にやって来た。辺りを探してみるとすぐに見つかった。昨日、破壊していたモニュメントの所に新しい何かを作っていた。おれは意を決して声をかける。
「よっ! 昨日ぶりだな」
「また手前か、昨日も言ったがよ。あんまり嗅ぎまわるんじゃねえ」
「おれは引き下がらないぞ。どうしても族長に力を借りなきゃいけないんだ」
「しつけえ野郎だな。手前らがなんで族長に会えたかもどんな理由でバルキス族長の力を利用しようとしてんのかなんて知らねえがよ、むやみやたらとあの人の今の状態を外の連中に喋りやがったら頭カチ割ってやるからな!」
「どうしてそこまでおれたちを拒むんだ。協力すれば族長を救えるかもしれないんだぞ、おれを信じてくれ」
「俺はなドワーフ以外の種族が嫌いなんだよ。特に手前ら人間は職人が汗水を流し、苦悩して作りあげた商品をただの使い捨ての道具としか見てねえ。たったひと振りの剣を作るのにどれだけのドワーフが関わっているか分かるか? 手入れもせずに雑に使って壊れたらすぐに商品に文句をつけて別の物に買い替える。そんな野郎どもの何を信じろって言うんだ⁉」
どうやらこのドワーフの青年は人間に対して強い憎しみの感情を抱いてるみたいだ。彼の言う通りおれも以前使っていた剣を簡単に壊してしまった。確かにおれがもっと手入れの知識を持っていればあの剣も傷が蓄積して壊れることもなかったかもしれない。それにおれはあれから学習せずに聖剣ミレニアムをまともに手入れできていない。ただ彼の言葉を黙って受け入れるしかなかった。
「今は信じてもらえなくてもいいさ。だけど、族長を変えたいって言う気持ちは嘘じゃない。おれはエルフの女王に頼まれたんだ。このフォルワ大陸の影で蠢く敵を討ち、いずれ世界を覆う闇から皆を守ってほしいってな。それだけじゃない、おれには復讐を果たさないとならない奴がいる。それを成す力を得るために族長の力を借りたいんだ」
「それが手前の信念か。バルキス族長の力を借りるのは好きにしやがれ、それはあの人が決めることだ。だがこの問題だけはドワーフだけで解決しなきゃならねえんだ。もういいだろどっか行きな」
「せめて名前だけは教えてくれよ」
ドワーフの青年はしばらく黙り込んだ後に渋々答えてくれた。
「………………バライバだ。姓はまだもらってない。もういいだろ、俺はやらなきゃならねえ作業があるんだ」
バライバと名乗ったドワーフの青年はそのまま昨日使っていた謎のハンマーを手に新しいモニュメントの制作へと戻っていった。
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