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第十二話 鋼鉄の街”カータナー”

 獄冥会やヘンベル盗賊団との戦闘から一夜明けて、おれたちは戦闘の疲れをしっかりと取った。村の入り口まで来たところでおれたちはいよいよ別れの時が来た。


「一緒にはいられないんだよな」

「悪魔について確認するという目的を果たした以上は報告に戻らないといけないので……みなさんどうかお元気で」

「次に会う時は、また一緒に騒ごうぜ」

「そうですね……その時はまた、たくさん面白い話とか楽しい場所に連れて行ってくださいね」

「当然だ、おれたちはもう友達だからな」


 おれたちはサティラとの別れを惜しみながら改めて目的地であるドワーフの住む洞窟に向かって出発した。目的地までの道中、おれとレイはリッパとベイランドの冒険のドワーフの章について話し合った。


「そういえば『リッパとベイランドの冒険』で出てきたドワーフの話ってどんなのだったっけ?」

「お話自体は結構地味で人気がないからね。確か、ドワーフの鍛冶屋に弟子入りした後に鉱石採取をして手に入れた宝石を使って作ったアクセサリーを互いにプレゼントしあうみたいな話だったよ。僕は好きだけどな~」

「ドワーフって手先も器用なんだな」


 偵察から戻ったエルがドワーフについて話す。

 

「エルフと近い点があるとすれば、商売が苦手なところね。彼らもまたエルフと同じように作った装備やアクセサリーを人間や小人族に任せているのよ」


 だから人間の商人が定期的にエルフの里に訪れていたのか。前回はそれを悪用されて危うくエルフとダークエルフが戦争しそうになってたけど。


「僕たちの目的はディールの持っている聖剣ミレニアムの力を引き出すこととカミオン帝国の脅威をドワーフ族に教えてあげることだよね」

「そうだな」

「ドワーフの偉い人に会うのはエルが何とかしてくれるのかい?」

「いくらエルフの王女でも無理ね。ドワーフの族長は特にエルフが嫌いみたいだから、その種族の王女が来たなんて知られたら門前払いよ。あの人が族長になってから種族間の仲が悪くなったみたいな噂まであるくらいなんだから」

「ということは……会うのは難しそうだな」


 おれとレイは肩を落としながら族長に会うための策を巡らせることにした。


 道中、仙郷の大図書館で手に入れた手記にドワーフの事やミレニアムについて載っているか調べてみたが有益な情報は得られなかった。強いて言うならドワーフ流の挨拶が載っていただけだ。内容は片方の手は広げた状態にし、もう片方の手で握りこぶしをつくる。あとは互いに相手の手のひらを自分の握りこぶしで二回叩くのが親しい相手への挨拶だそうだ。おれはいざって時の為に予行演習をしておいた。

 

 おれたちはようやくドワーフが住む街”カータナー”に辿り着いた。街に入った瞬間、周囲の温度が少しだけ上がった気がした。入り口から見える範囲では金属の鉄板を張り合わせただけのような真四角の建造物が建っている。この街は鼻の奥に残るような独特の鉄くささやべっとりとした油の臭いがする。エルは鼻をつまんでこの街の臭いに難色を示しているけどおれは別に嫌いじゃない。まあロオの街に住んでたことがあるやつなら誰だってそう思うだろ。なんたってあそこは血と腐敗した死臭しかしないからな。そんなことを考えながらドワーフを探しているとあっさり見つかった。工房らしき建物の中で金属を力強く打つドワーフと材料や道具を運ぶいかにも弟子っぽいドワーフがいた。


 ドワーフは初めて見たが絵本で見たとおりだ。おれたちよりも背丈は低いがごつくて頑丈そうだ。無造作に伸びた茶色い毛はボサボサで無精ひげが生えている。火花が散っても全く燃えない耐火性のオーバーオールの服は煤だらけで鉄を打つ手はまるで石みたいにゴツゴツしている。


「あのー話が聞きたいんですけど」

「………………」

 

 入ってすぐにドワーフに声をかけたがどちらにも無視されてしまった。


「随分集中してるみたいだな」

「終わるまで待ってみようか」


 おれたちはドワーフの仕事がひと段落するまでの間、ただじっと待っていた。観察した限りだと鉄を打っているドワーフはただ力任せに打っているわけじゃない、全く同じ力で打つ時もあれば優しく打つ時もある。それにテンポが崩れていないから、聞いていて心地がいい。見たところ剣を作っているみたいだ。鍛冶の様子をずっと見ていたが意外と飽きないで見ていられる。


 しばらくしてから鍛冶職人のドワーフが鍛造し終えた棒状の金属の塊を台に置いて一息ついた。あそこから更に削ったり装飾したり、仕上げをしたりするんだろうな。おれは再び作業に戻られる前になるべくデカい声で話しかけた。


「すみません、ちょっとだけ話を聞きたいんですけど。いいですかー⁉」

「ん……お客さんか? 悪いがオーダーメイドは受け付けておらん。武器が欲しけりゃ店に行け」


 ドワーフは背中を向けたまま返事をする。事前にエルから話を聞いていた通り、ドワーフは愛想がちょっとだけ悪いみたいだ。頑固というか職人気質というか……とにかく自分たち以外の種族に慣れていないみたい。


「おれたちは……ドワーフの一番偉い人に話を聞きに来たんです。どこに行けば会えますかね」

「族長か……あの方は滅多に人には会わねえ。諦めるんだな」

「頼むよ、そこを何とかしてくれ!」

「無理なもんは無理だ、帰んな人間の小僧」


 おれたちは諦めて別のドワーフの所に行こうとした時、鍛造所の奥から戻ってきた弟子らしきドワーフがおれの方を見て興奮気味に声を上げた。


「旅の方、待ってください。ドゴ師匠! あの方の腰に身に着けている剣を見てくださいよ」

「何だベイゴ? 人間製の粗悪品でも使っとるの……か⁉」


 師匠と呼ばれたドワーフはおれの持っている聖剣ミレニアムを見るとさっきまでの不愛想さがまるで嘘みたいに椅子から飛び上がって、おれにつかつかと近づいてきてミレニアムをまじまじと見つめる。


「おい小僧、ちょっとばかしこの剣を見せてもらえないか!」


 おれはドワーフの熱い視線に負けて見せてあげることにした。


「少しだけですよ」

「どうもな」


 ドゴはミレニアムを手に取ってじっと観察したと思ったら今度は鼻を近づけて匂いまで嗅ぎ出した。挙句の果てには剣の先端を指でなぞってからその指を舐めて味?を確かめ始めた。


「小僧よ、この剣は一体どこでだれが打ったものだ? 知っている範囲で教えてくれ」

「おれは知らないよ。その……エルフの女王から受け取ったものだ。細かく言うとその女王も別の誰かから貰ったらしいんだけど。そういえば千年前から存在しているってのは確かだ。それと小僧じゃなくてディールだ」

「そうか……ありがとうなディールよ。ここまでの完成度の剣を打てるのはドワーフ以外にいないはず……千年前からあるということは先々代の族長か? まあいいさ、こんなに美しく力強い名剣は見たことが無かったからな。いい勉強になった、こんな代物を打つ職人が族長以外にいるとはな。どうやら俺も武器職人として精進せんとな」


 剣を返してもらったおれはドゴからとある提案を受ける。


「こんなに良いものを見せてもらったお礼といっちゃなんだが族長に掛け合ってみよう。運が良かったなディールよ、こう見えても俺はドワーフ族の武器鍛造の組頭だ。それなりに族長とも付き合いが長い」

「やったぜ! ありがとうなドゴ」

「もっと感謝してくれてもいいぞ!」


 おれはレイと一緒に肩を組んで喜んだ。


「ドワーフって意外と優しい人ばかりだね!」

「それにエルフみたいにいきなり集団で襲って来て縄で縛らないしな!」


 おれは無意識に言ったことを後悔した。背後から凄まじい殺気を感じる。恐る恐る振り向くとエルは口角を上げていたが目が笑っていなかった。


「すいませんね~エルフが野蛮な種族で!」

「そういう意味で言ったんじゃないって」


 おれは必死に弁明するが聞く耳を持たない。挙句の果てにレイがエルの味方をし始めた。


「今のはディールの失言だよ。謝ったほうがいいんじゃないかな」

「嘘だろ……レイ」

 

「行商人以外の怪しい人間が森の中に入り込んでいたら捕まえるのは当たり前でしょ」

「全く持ってその通りでございます」


 おれはエルと遠くの世界樹にいるエルフたちに向けて心の片隅で不用意な発言を謝罪した。一連の様子を見ていたドワーフの二人はポカーンとしていた。


 おれたちはドワーフ族のドゴについて行って族長がいる場所へと向かっていた。ドゴに聞いた話だとドワーフは族長の下にそれぞれの作業のエキスパートである組頭が何人かいて二つに分けられるらしい。例えばドゴなら武器鍛造系の組頭だし、アクセサリー系や防具鋳造系、家具系、建設系など製造関連が一つでもう一つは鉱石採取担当や発掘及び新鉱脈開拓担当といった生産関連がある。そしてその組頭の下に職人が何人もいて更にその下に職人や組頭に教えを乞う弟子がいるそうだ。


 ドワーフは基本的に鉱脈近くの洞窟に暮らしている。そして一番偉い族長は洞窟の一番奥に住んでいるみたいだ。ドゴは更に現在の族長についても教えてくれた。


「あの人は……変わっちまったんだ」

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