第九話 悪魔崇拝集団
おれたちが牙泥棒を探して森の中を探索しているとバサンたちが戻ってきた。
「見つけたのか⁉」
「ピピヨ~ピッ!」
バサンはおれの手のひらに乗ると片方の翼を思い切り伸ばして方向を示してくれた。
「そっちに怪しい奴らがいたんだな。皆、行こう!」
バサンの示した方向に向かって走っていくとそこには誰もいないような朽ちた家が建ち並ぶ廃村が見えてきた。そして深くフードを被った黒いローブの集団と野盗のような奴らが取引をしているのが分かる。
「アイツらが牙泥棒だな」
「ディール、急いで止めましょう」
おれとサティラが前に出ているとエルが制止する。
「ちょっと待って二人とも、作戦はどうするの。敵の数は思ったよりも多いわよ」
「策ならあるぞ、とにかく蹴散らすだけだ」
おれが笑みを浮かべてそう言うとエルは呆れ顔でため息をつきながら話す。
「分かったわよ、援護は任せて行ってきなさい。それとサティラは戦えないんだから私と一緒にいてよ」
後ろは二人に任せておれはレイと一緒に敵の集団へと突き進む。
「準備はいいかレイ」
「いつでも大丈夫だよ」
おれたちが敵の前に飛び出すと謎のローブ集団は一瞬だけ驚いた様子を見せたがすぐに冷静さを取り戻して一人の細身な男が嫌味たっぷりに大柄な野盗に向かって話し始める。
「これはどういうことですかな? ヘンベル盗賊団のみなさん。あなた方に頼めば足をつけずに盗めると言ったから依頼したのですよ」
「こ、これは俺達だって知らねえよこんなガキども。まあいいぜ見られたからには俺達が消しといてやるからお客さんは目的を果たすんだな。安心しろ追加報酬なんざねだらねえよ」
「当然だ、報酬に見合う働きをしてもらわなければ困る」
ヘンベル盗賊団、どこかで聞いたことがあるような名前だが思い出せない。どうせ大したことない奴らだから覚えていないんだろう。それよりも気になるのはローブ姿の連中だ。おれはローブ姿の男に大きな声で問いかける。
「おい黒ローブ野郎、アンタらは悪魔の牙なんか手に入れて何がしたいんだよ」
「それを知ってどうするというのだ? これから死ぬというのに」
そう言い残すとローブの集団は悪魔の牙を手に持ったままその場を離れて行った。おれは遠くにいるエルに聞こえるように話す。
「エル、黒いローブの奴らが悪魔の牙を持って逃げた。そっちを追いかけてくれ」
返事はなかったが多分大丈夫だろう。おれたちの方も早くこいつらを倒して追いかけないと。ヘンベル盗賊団は見たところ五人ぐらいで援護は無さそうだ。
「相手の実力が分からない以上、油断するなよレイ」
「でも、七玹騎士ほどの迫力はないね」
リーダー格の男が剣をこちらに向けて子分たちに命令する。
「俺達ヘンベル盗賊団のコング隊の実力を思い知らせてやれ」
「「オッシャ――!」」
子分たちは見事な連携であっと言う間におれたちを囲んだ。おれとレイは互いに背中を預け合う形になる。敵は確かにコング隊の名に相応しい大柄な体格の奴らばっかりだ。
まずは鼻息荒くした一人目が両刃の大きめな剣を振りかぶって襲ってきた。
「くたばれゴリャー!」
「あっぶねぇ!」
縦に振り下ろされた剣をおれは何とか横に飛び退いて敵の初撃を躱した。おれは剣を構えて斬りかかる。すると敵の腕を掠めるように斬った。多少の出血はあるが深手ではなさそうだ。
レイの方は二人分の同時攻撃を短剣一つで器用に捌きながらカウンターで細かい傷を与えていく。
おれは攻撃を躱しながら敵の動きをしっかりと観察する。どうやら目の前のコイツは攻撃が随分と大振りみたいだ。当たったらひとたまりもなさそうだがこれだけ大振りならまず当たらないだろう。警戒するべきなのは敵の連携で背後を取られることだ。おれはレイの背中を守りながら相手するべき二人を視界に収める。
「ちょこまかと動きやがって、大人しくしやがれ!」
「次で仕留めてやる」
今度は大きく横に薙ぎ払った攻撃をしゃがんで躱すと瞬時に敵の懐に入った。
「どこだ!?」
どうやら敵はこっちを見失っているみたいだ。おれは容赦なく腹部を斬り上げて一人目を倒すと勢いのまま慌てている二人目を横に斬るふりをして敵が守りの構えをとった所を縦に斬って二人目も倒した。
「このガキ、剣速が並みじゃねえ」
二人目はそう言い残してその場にドサッと倒れた。息を落ち着けてレイの方を見るとどうやらあっちも簡単に終わらせたみたいだ。
「魔法を使うまでもなかったな」
「あんまり魔法に頼りすぎていると魔力が切れた時に苦戦しちゃうからね」
子分たちを倒したおれとレイは次にリーダー格の男に剣を向ける。
「アンタの自慢の子分どもはもういないぞ。降参するなら今のうちにしておくんだな」
「コング隊はこの俺がいる限り全滅したわけじゃねえ」
おれの脅しも意味なく敵は激昂して襲いかかってきた。コイツは子分たちと違って一回りデカい。おれはレイと策を考える。
「あんまり時間をかけてられない、一瞬で決めよう」
「ならあの技を試そうよ」
「アレか……まだ片手で数えるぐらいしか成功してないけどやってみるか」
おれとレイは横に並んで構える。敵は何がなんだかわかっていない様子だがこっちには関係ない。おれたちは息を合わせて敵に向かって飛び出す。同時に別方向から敵を攻撃する。敵は上手く弾いているがそれでもおれたちは目にも留まらぬ速さで連撃を続けていく。
「どうしたよ、そんなんじゃ俺は倒せねえぞ!」
「まだまだァァッ!」
おれたちは更に剣速を上げていく。それまで同時だった攻撃の感覚が徐々にずれていく。敵はそれに気づき始めたがもう遅い。おれたちの攻撃が完全にずれた時、合図を出す。
「今だ!」
おれの合図で再びタイミングを合わせて交差するようにして敵に斬りかかる。敵はそれまで交互に対応していたところに不意を突かれて同時の攻撃を捌ききれず、直撃を与えることが出来た。どうやら敵はこれが相当な深手だったらしくその場に跪いた。おれは気絶される前にそいつの肩を掴んで問いただす。
「おい、さっきの奴らはいったい何者なんだ。答えろ! そしたら見逃してやる」
「クソッ……これじゃコング隊の名が。ヘンベル盗賊団の地位が……。分かったよ教えてやるよもう手遅れだろうからな。あいつらは悪魔を自分たちの神様だと思い崇めている”獄冥会”って集まりだよ。そしてあの牙を使って悪魔を復活させようとしている。これで満足か」
「復活なんて……そんなこと出来るわけ」
「俺だって知らねえよ。だがな、あんな大金積まれちゃ断れねえし、何よりこの世界はガキが思っているよりも神秘と陰謀で満ち溢れてるんだよ」
コング隊のリーダーの男はそう言い残してその場に倒れて気絶した。おれとレイはひとまずの勝利に胸をなでおろす。
「あの技、成功したね」
「ぶっつけ本番だったけど何とかなったな ”回針転”」
さっき使った技は互いの剣を時計の長針と短針に見立てる。最初は同じタイミングで斬りかかり、徐々に針がそれぞれの速さで時を刻むようにバラバラに攻撃していき、敵に予測をさせずに防御や回避の感覚を狂わせていく。最後には敵が慣れる前に防御不能のとどめの同時攻撃を与える。この一連の流れが時計の針が同じ時間で出会ってから再び会うまでの一時間の間を表すような様子から”回針転”と名がついた。ちなみに名付けたのはおれだ。
「あの盗賊の言ったことが本当ならエルたちが危険かもしれない」
「そうだね。悪魔復活とか言っていたし、心配だ。僕らも後を追おう」
おれはあらかじめエルたちを追えるようにバサンに上空から位置を把握させておいた。おれはバサンを呼び戻して位置を再確認する。
「エルたちはどこに行ったんだ、バサン」
「ピピヨ!」
おれたちは再びバサンの導く方に向かって走り始めた。
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