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第六話 輝かしき栄冠と天に舞う伝説Ⅰ

 バサンが落ちていく様子を見ていたディールは心配になり思わず立ち上がる。


「バサン! 頼む……無事でいてくれ」


 デロットの実況の熱もキレも最高潮に達している。


「これは大波乱だ! モリバスラの怒涛の攻撃によって他の精霊や動物が次々と倒されてしまったッー! もう先頭集団には片手で数えるほどしか残っておりません。しかしまだ油断はできませんよ。当然争っている間に後続の選手が追い付いてきますからね。皆様! 瞬き厳禁でお願いします」


 バサンの姿が確認できなくなってからかなりの時間が経過した。昼に始まったレースは終盤戦の今、黄金のように煌めく太陽から差し込む夕陽に照らされる時間になっている。


 先頭集団で争い、足を引っ張り合っていた結果、何匹かの精霊たちが追いつき始めた。これにより空中の戦闘はより激化しながらレースが進んでいく。首位が次々と目まぐるしく入れ替わりそこら中で魔法が飛び交っており誰が勝つか分からないが危険性だけで言えば以前モリバスラが猛威を振るっている。


「ピャーハッハ! そら、落ちろ落ちろ落ちろォッ!」


「ちょっと……いい加減にしなさいよ」


 モリバスラの攻撃的な行動を見かねたメゼルが他の選手たちに声をかけながら徒党を組んでモリバスラに対抗しようとする。


「こっちだって負けるわけにはいかないのよ! ライトマジック……”スポット”【眩光照明】」


 メゼルが魔法を唱えると身体が激しく発光してモリバスラ目掛けて光が飛んでいく。モリバスラはあまりの眩しさに思わず目を閉じてしまうが方向感覚は失わずに真っ直ぐに飛んでいる。未だに目を開けないモリバスラは音だけを頼りにメゼルに向かって突進する。


「たかが目くらまし程度でこの俺が落ちるとでも思ったかよ! 次の標的はお前だ……妖精」

「言っとくけど風が読める私には風の魔法は効かないわよ」

「それがどうした? お前ら”下級”精霊と俺のような”上級”精霊の力の差を分からせてやる。 ”フォールゲン・ストリーム”【劫中の波風】」

「どこから風が……嘘でしょ⁉」


 モリバスラの攻撃を躱そうとメゼルは風を読んだが、想定していない事態が発生した。先ほどまでの魔法とは違ってメゼルの周囲を囲うように風が発生して逃げ場が無くなってしまったのだ。メゼルは攻撃を受ける前に魔法を唱える。


「ライトマジック”ムーン”【月光華】」


 メゼルが魔法を唱えるとスポットの時の眩しい光とは違い月明りのような青っぽい光が彼女を包み込んで花のような形状の魔法の防御壁を形成した。その直後に周囲に展開していた風が竜巻のようにメゼルを攻撃し始めた。


「何て馬鹿げた威力なの!」


 竜巻がメゼルの防御壁を傷つけていき次第にヒビが入り始める。メゼルは負けじと魔力を込めるが防御壁の修復スピードが追い付かずにそのまま破られてしまう。防御壁のおかげで直撃を免れることができたがダメージは深刻なものだった。メゼルの羽は傷つきそのまま無限の闇が広がる渓谷の底に落下していく。その先には槍のごとく鋭く尖った岩があった。その様子を観戦していたサティラは自身の口をふさぎ、レイはエルに提案する。


「エル! このままだとメゼルが危ないよ。戻さないと」

「分かってる。これ以上怪我するぐらいなら失格した方がマシよ」

 

 観戦画面を最後まで見ていたディールが何かに気付いてエルを止める。


「待てエル! メゼルは大丈夫だ」

「何言ってるのよディール。どう考えても大丈夫じゃないでしょ」


 メゼルが岩に激突する寸前に何かが物凄い速さでメゼルを拾い上げて窮地を救った。その状況を見ていた実況のデロットは叫ぶ。


「いったいぜんたいどういうことでしょうか⁉エル選手の精霊メゼルがあわや岩に激突してしまいそうでしたが何者かがこれを救いました。しかし、あんな美しい出場者はいたでしょうかぁぁぁっ?」


 デロットが目を輝かせながら称賛する。メゼルを背中に乗せて救った謎の精霊は全身が燃えるような鮮やかな橙と赤の中間のような色で羽毛の一つ一つが夕日を浴びて更に輝いて虹色にも見える。頭には炎のように唸り揺らめく鶏冠のようなものがある。長く伸びている尾羽は幾重にも枝分かれしている。美しい外見とは裏腹に瞳の奥には温かな優しさと灼熱の荒々しい闘志が入り混じっている。


 謎の精霊の登場に会場はざわついている。


「確かにあんな精霊いたっけか?」

「それにしても綺麗な色だの~夕日も相まってまるで神の使いのようだの~」

「ねぇ! 見てよあの鳥カッコいいよ! 僕も飼いたい~」


「途中出場ってありなのか?」

「面白ければ何でもいいよ。楽しい祭りなんだから」


 騒ぎ立てる観客たちの中で老爺がポツリと呟く。


「ありゃあ、まるで神の使いのようじゃの」


 会場の者たちは皆思い思いの言葉を放つ。しかしすべての者が共通して最初に感じたのは”美しい”というたった一言の単純なものだった。突如出現した謎の精霊に会場がざわめくなかたった一人だけが気づいていた。ディールがレイたちに話す。


「あれは”謎の精霊”なんかじゃないさ。アイツはバサンだ!」

「「嘘――――!!!」」


 ディールの発言に皆が驚く。サティラがディールに反論した。


「でもディールさん。バサンさんはさっき谷の底に落ちたんじゃ」

「それはそうなんだけど。あの精霊から感じる”何か”はバサンそのものなんだよ」

 

 そしてディールがバサンだと気付いたころ、バサンはメゼルに語り掛けていた。


「今のはちょっぴり危なかったね」

「あなた、もしかしてバサンなの?」

「そうだよ~。でも何でこうなったかはよく分かってないんだよね。そんなことより優勝しよう!」


 バサンはそう言ってから勢いよく飛び始めた。


 そして話はバサン墜落後まで遡る。


 ◆◇◆


 渓谷の下まで吹き飛ばされたバサンは未だ意識を朦朧とさせたまま暗闇の中でただひたすらにディールの事を想い悔し涙を浮かべていた。


(ボクは何でこんなにも無力なんだろう……。ボクにもメゼルやモリバスラのような能力があればディール君を笑われなかったのかな? ディール君は優しい人だからきっと今頃心配してくれてるんだろうな。こんなんじゃカッコ悪すぎるよ……)


 バサンが諦めかけていたその時、何かがバサンの小さな身体に力をもたらした。


(変だな……さっきまで痛くて身体をどこも動かしたくなかったのに少しずつ痛みが引いて動かせるようになってきた。それに全身の感覚が研ぎ澄まされていくみたいだ。何だろう、この胸の奥から湧いてくる力は……これをくれるのは誰? もしかしてディール君?)


 事実、この時のバサンの予感は近からず遠からずであった。近かったのはこの現象をもたらしたのがディールの炎だということ。バサンは自身でも気が付いていなかったが炎を食して自らの力に換えることが可能だった。仙境の大図書館での戦闘においてバサンは偶然ディールの炎を口にしていたのだ。そして、遠かったのは、その無限にも感じられる力を引き出したのはあくまでもバサン自身の力だということ。


「ボクはまだ……諦めない!」


 バサンが覚悟を決めると全身が炎に包まれてその中から成長したバサンの姿が現れた。バサンは渓谷の底の地面につくギリギリのところで態勢を直して上空までの暗いルートを明るく照らしながら進み始めた。


 変身してからのバサンの快進撃は凄まじいものだった。先頭集団に追いつこうと飛んでいた精霊やペットたちを次々と抜き去り、すぐにモリバスラやメゼルが争っている場所まで来ることができた。そこでバサンはメゼルが落下するところを目撃し、窮地を救うために急加速して飛び去った。


 ◆◇◆

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