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第四話 開幕! スカイグランプリレース

 今日はボクが主役という訳だ!


 酒飲みの会話があちこちから絶え間なく聞こえてくる騒がしいこの場所は毎日何かしらの祭りを開催していることで有名な街”トゥカ”。そしてこの黒髪の少年の手のひらにチョコンと乗っている小さなヒヨコのような不思議な生物が本日の主役である。


 「ボクは誇り高き精霊バサン。そして、こちらにいるお方こそがボクの自慢のご主人であるディール君だ。ご主人の話によると今日は翼を持つ者たちによる競争が行われるらしい。既にボクの頭の中では勝利のイメージが出来ている。ボクに”敗北”の二文字は無いのだ!」


 バサンがディールの手のひらの上で無邪気に跳ねている。周囲には同じレースに出場する予定である他の選手がずらりと並んでいた。同じような翼や羽を持つ精霊や魔物に近しい生物のペット、果てには人間自身が。人間の場合は二輪車に羽のような部品を取り付けている。この辺では見かけないものだ。操縦者は念入りに自分自身が乗る乗り物のチェックを行っている。頭には頑丈そうなメットを被っているがなぜかそのメットの天辺にはプロペラがついている。


「バサン。あの二輪の車、見たことないぞ。なんて言う名前なんだろうな」

「ピピヨ~(ボクにもさっぱりです)」


「まさか”下級”精霊ごときがこのレースに参加するなんてな~!」


 隣から嫌味たっぷりの言葉がバサンの耳に伝わる。


「何だよ君は⁉」


 バサンが声の聞こえた方へ向いてみるとそこにはバサンの数十倍はあるだろう巨体を持つ鳥型の精霊が主人の肩に乗っていた。緑色の羽毛に黄色い瞳がバサンを見つめている。頭には外にハネている長い二本の触角のようなものがある。その精霊がバサッと翼を広げると物凄い風圧が起きてバサンは飛ばされないようにディールにしがみつくのに必死だ。


「俺は上級精霊の”モリバスラ”だ。そしてこちらが俺の主人であるフォール様だ。どうだ? 素晴らしい体格だろう。フォール様は聡明且つとても強い方なんだよ。つまり上級精霊であるこの俺を使役するのに相応しいのだ!」


 モリバスラという精霊の言う通り彼の主人であるフォールと呼ばれている蜥蜴族は他の同種族と比べても頭一つ抜けて大きい。

 

「それが何だって言うのさ!」

「つまり、そこのお前の寝ぼけたような顔をしている主人とは大違いってことだよ」

「ディール君を馬鹿にするな!」

「ピャハハハハ‼ 主人が主人なら、精霊も精霊だな。こりゃあ最下位は決まったも同然かな?」


 モリバスラがそう言うと周りの精霊の何匹かはクスクスと笑う。当のバサンは主人であるディールが愚弄されたことに対して非常に耐えがたい屈辱を感じていた。怒りでバサンは今にも飛びかかりそうだ。しかし、そんなバサンを別の精霊がなだめる。


「バサン、気にしちゃ駄目よ」

「メゼル……」

「レースで見返してやればいいじゃない」

「でも、ボクはアイツみたいに上級精霊じゃないしメゼルみたいな特別な力もないんだよ」


 精霊界では属性や強さによって細かく区分されている。バサンはそのうちの最も下の位である下級精霊である。そこから”中級””上級”があり、さらに上に存在自体が幻とされている”超級”がいるとかいないとか。そんな下級精霊であるバサンは先程まで怒りに駆られていたが今一度目の前の強敵を前にすると頭を抱えて弱気になってしまった。


「あなたは自分の主人の事を何も分かっていないのね」

「どういうこと?」

「あなたの主人は仙郷の大図書館の戦いで自分よりも強大な敵を相手にして絶望せずに勇敢に立ち向かったじゃない!」


 メゼルに大切なことを教えられてバサンはもう一度、敵に立ち向かうための勇気を得た。そして小さな翼を目いっぱい広げてモリバスラを指さすならぬ羽さした。


「ボクは……負けない。ディール君を馬鹿にしたお前に勝ってやる!」


 バサンが啖呵を切るとモリバスラは大きな翼で口元を隠し、いやらしく笑いながら返した。


「ピャーハッハ! 聞いたかよお前ら。この下級精霊が上級精霊である俺に勝つってよ! 身体は小さくても無謀な野望は鳥一倍大きいらしいな」


 先ほどまでクスクスと笑っていた精霊たちもモリバスラに煽られたことで大声でバサンの事を笑っている。


 ここまで互いを敵視している両者であったがその主人はというと。


(こんなに大きい蜥蜴族は見たことないな。それになんだか怖そうだし)


 ディールがそんなことを考えながらフォールをじっと見ていると視線に気づかれた。フォールはディールの方を向いて話しかける。


「あのー何か私に用でしょうか?」

「えっ! とーそのー。アンタの精霊カッコいいね」

「どうも、この子はモリバスラと言いまして中々に優秀なんですよ。ですが、あなたの精霊も実に可愛らしくて素敵です」

「コイツはバサンって名前でおれの大切な相棒なんだ」

「精霊が相棒なんて本当に素晴らしい関係なんですね」

「お互いにいい勝負をしようぜ」

「はい、こちらこそです」


 ディールとフォールはかたい握手を交わす。会話が終わってすぐ会場にそびえ建つ大きな塔のような建物から声が聞こえてくる。


「会場にお集まりの皆様方、大変長らくお待たせいたしました! これよりスカイグランプリレースの開催式を行います。初めましての方は初めまして、いつもいる常連の方は適当に聞き逃してくださいませ。ワタクシは実況のデロットです。それではセンターステージの方にご注目ください。まずはトゥカの街の町長であるグルイヤー氏のお言葉からです。どうぞ!」


 デロットの紹介によりステージにいかにも偉そうな人物が登場した。白髪交じりの整えられた短髪にピシッとした正装に身を包んでいる。グルイヤーは軽く咳ばらいをしてからステージに立っている杖の先端にはめ込まれている”拡声”の魔力が込められた魔法玉に向かって話し始める。


「紹介にあずかりました。私が町長のグルイヤー・ジョヴァンニです。レースの祭りと言えばアクアレースやグラウンドレースなど他にも種類がありますが今回はスカイグランプリレースということで私が一番好きなレースなので非常に楽しみです。皆さんの熱いレースと感動のドラマに期待しています」


 挨拶を終えたグルイヤー氏は丁寧に頭を下げてからステージを後にし特別席へと移動した。それを塔の上から確認したデロットは選手たちに案内を始める。


「町長のお言葉も終わりましたので祭りのメインイベントに移りましょう。出場する選手の方々はスタートラインにお並びください」


 デロットの言葉を聞いて参加者たちは我先にと先頭を取るために移動し始める。ディールとエルもその人波にもまれながら自然とスタート地点にたどり着く。


「バサン、準備は出来てるか?」

「ピピ! (もちろん!)」


「メゼルも頑張るのよ」


 エルからの応援にメゼルは彼女の周りをヒラヒラと舞いながら答えた。


 選手たち全員の間に緊張が走る。当然バサンも例外ではない。デロットがスタートのカウントダウンを始める。


「それでは位置についてください。3……2……1……」

「ボクは必ず勝つ!」

「スタァァァ――――ット!!!」


 スタートの合図である爆弾がはるか上空で爆発したのと同時に放たれたデロットの掛け声で出場選手全員が一斉に飛び出した。


「頑張れよー!」


 バサンはディールの声援を背に受けながら必死に翼を動かして飛んで行った。

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