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魂色ファンタジア~語られざる異端者の冒険譚~  作者: ガホウ
~呪われし骸と真の炎~
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第九話 魔導の天才たる所以

「ハハハ、そんなものが何になるって言うんだよ。あんましなめてんじゃねーぞ?」


 グレンダルは嘲りながらレイに近づいていく。レイはヴェルブリンガーを持つ手に力を入れて魔法を唱える。


「”マハティオン”【筋力強化・大】」

「第二段階ってとこか?」


 ヴァルハは腕を前に出して防御の構えを取る。レイが力を籠めて斬りつけると腕に僅かながら傷が出来た。


「届いた!」

「ちっ! 流石にキツイか」


 レイが攻勢に出ていた時、エルの戦闘はカルゼによる激しい魔法攻撃によって防戦一方になっていた。


「躱さないと壁に圧し潰されてしまうわ!」

「正直あのトカゲ男の援護は嫌だったから丁度よかった。今度こそ容赦なくやれるというものよ」


 左右から迫ってくる魔法障壁を前方に跳んで回避すると上から落下してきた魔法障壁を風の魔法で破壊する。


「”スラスト・フーラン”【天穿風】」


 障壁といえど、一部に大きな衝撃を与えることが出来れば先程までの小さな部分的な防御に特化したものと違い、容易く破壊することが出来る。しかし、障壁を破壊するのに精一杯で矢を放つ余裕がない。仮に射ったとしても魔力がこもっていなければ障壁を貫通することが出来ない。


「”フォウ・フーラン”【暴風】」


 暴風がカルゼを包むように攻撃するがカルゼは自身の周囲に半球状の魔法障壁を張ることで完全に防いでいた。しかし、自身を守るために魔法障壁を張っている間はエルを攻めるための魔法障壁を生み出せない。エルはその隙を突いて矢を放ち、魔法障壁を貫通すると矢はカルゼの脇腹に命中する。


「ぐぅ……矢が! 矢が刺さりおった! く……ぅう」


 カルゼは矢が突き刺さったまま逆に攻撃を強めていく。それも先程までとは比較にならない程の硬度を持つ魔法障壁のためエルの全力の魔法でない限り、破壊することが出来ず。エルは膨大な魔力を確実に消耗していく。


「どこにこれだけの魔力があるっていうのよあいつには!」

「儂が負けたらこれまで積み上げてきた報罰隊の地位が消え去ってしまう。それだけは嫌だああああ‼」


 カルゼは痛みに耐えながら杖に念じてより強力な魔法を唱える。


「確実に圧し潰してくれるわ! ”サンクティ・ドーム”」


 今度はエルの周囲に半球状の魔法障壁が現れると少しずつ小さくなっていき、じわじわと圧し潰そうとしている。エルはすぐに自信と魔法障壁の間にプロシルドをかけるがそれでも抑えることが出来ない。


「魔法障壁の硬度で儂の右に出る者は一人としておらんわ」

「このままじゃ……」


 その後も風の魔法で魔法障壁を破壊しようと試みるも、砕くことが出来ずにいた。そこでエルは自身を巻き込む可能性もあるが、最大の威力で魔法を放つことにする。


「こんなところで潰されるくらいなら! ”フラウスティア”【渦螺風】」


 エルの周囲に風が吹き、風は大きな流れの渦となって強力な竜巻を生み出す。竜巻を操って魔法障壁を攻撃するが、ヒビが入った瞬間にカルゼが修復するため破壊することが出来ない。それどころか狭い空間で発生した魔法の竜巻はエルの皮膚を傷つける。


「ここで終わりなの⁉……出来る限りを尽くして魔法障壁の一つも破れないなんて……」


 狭くなっていく空間の中でエルは中腰から膝をついて身を小さくする。


「まだなにか……なにかあるはずなのに」

「もう時間のようだな」


 カルゼの魔法障壁がエルの身体に触れ、圧し潰されるかと思われたその時、エルは無意識に魔法を唱える。


「”フーラン”【突風】」

「今更そんな魔法を使ったところ……で……⁉」


 風の魂色魔法の中では初歩的な立ち位置にあるフーランを唱えたエルであったが、その風はカルゼの最大にして最硬の魔法障壁を食い破るように粉砕した。しかし、カルゼが気になっていたのは魔法障壁が破壊されたことではなくエルの足元に現れたものだった。


「それは……まさか……魂成魔法陣か! 発現できる魔導士がいるとは……」


 魂成魔法陣は魔法を放つための方法の一つである。本来は身体から直接か杖などの道具を媒介として放つしか方法はないのだが、稀に優れた魔導士のみ魔法陣を形成し、魔法を放つことが出来る。これは前述された二つの方法よりも魔力消費の効率が悪い反面、比較にならない程の高威力の魔法が放てるようになる。まさに天才にのみ許された御業。エルには当然ながらその素養があり、それがこの極限の状況下で目覚めた。


「これが魔法陣……ようやくお母様に一歩近づけたみたいね」

「魔法陣が何だと言うんだ! そんなものがなくとも」

「この感覚が消えないうちに……残りの魔力で放てる最大の魔法を……”フォウ・フーラン”【暴風】!」


 カルゼは自身の周囲に何層にも魔法障壁を重ねて完全防備の構えを取る。これまでの数倍の威力を持ったエルの魔法は魔法障壁に直撃して一層ずつ確実に破壊していく。そして、暴風は最後の一層を破りカルゼをのみこむ。


「ぎぃやああああああああ‼」


 暴風が消えさるとそこには気を失った状態のカルゼが横たわっている。カルゼを倒したエルは魔力が底を尽き、その場に座り込む。


「私ってやっぱり……天才ね」


 戦いの場面はレイへと移り変わる。蜥蜴竜族のグレンダルと交戦中のレイは魂色魔法を駆使しながら戦っていたが、次第に身体に異変を感じ始める。魔法を解除して別の魔法をかけようとした瞬間、レイの全身に痺れるような痛みが走る。


「なんだこれ……痛いよ……」


 レイの身体強化の魔法は使用を解除するとその反動が痛みとしてレイに襲い掛かっていた。更にその隙を突かれてグレンダルの強靭な尻尾がレイを軽々と吹き飛ばす。


「ぐあああああっ」

「どうしたよおい! もっと本気でやれよ、お前が言う本当の強さを見せてみろよ!」

「この程度の痛みで倒れるもんか! ”アジルオン”【加速・大】 ”マハティオン”【筋力強化・大】」


 エイリレ流の剛の構えを取り、攻撃を仕掛ける。しかし、相手は慣れた手つきで確実にレイの剣捌きをいなしていた。グレンダルの身体には浅い傷とエルの与えた肩の矢傷しかできていない。グレンダルはレイの胴体を掴むと軽く持ち上げる。レイは握りつぶされる痛みに耐えながら、その状態で短剣を逆手持ちに変えて技を繰り出す。


「【猛禽爪】‼」

「ぐっ……くっ……だああッ」


 ヴェルブリンガーは肩の傷を抉るようにして突き刺さり、グレンダルにダメージを与える。グレンダルは痛みに悶えながらレイを宙に浮かせた後に半回転して尻尾で腹を殴打した。ようやく互角の戦いになったように見えていたが、グレンダルは突如として笑い出し、ホール中に響き渡る。


「ハハハハハ!」

「何を笑っているんだ!」

「いやなに……悪いと思ってよ。俺もマジでやってやらねえとな…………”マハティア”【筋力強化】」

「えっ⁉」


 橙の魂色魔法を唱えたグレンダルはレイに接近して殴りかかる。レイはすぐに流の構えを取って攻撃を防ごうとするも短剣にグレンダルの拳がぶつかった瞬間、レイは足で踏ん張ったがそのまま吹き飛ばされてしまう。


「なんて力なんだ……さっきまでとは比にならない程に強い……」

「そんなに驚くなって。俺もお前と同じ橙の魂色魔法使いなんだよ! 違うとすればお前と俺では魂色魔法を使って来た長さも練度もスペックも俺の方が圧倒的に上だ」


 レイはもう一度自身に魔法をかけてグレンダルに挑むも、全ての能力においてグレンダルが上回っていた。そもそも橙の魂色魔法は自身の潜在能力を引き出す魔法であり、使用者の元の能力に依存しているため、その差が今回のように露骨に表れやすい。


 同じ魔法でもその上昇幅がグレンダルの方が大きい。レイはグレンダルの猛攻を技で凌ぎながら逆転の一手を探っていた。


(グレンダルは強いけれど、明らかに力任せな戦い方だ。カウンターの一撃を叩きこめれば)

「まだまだ上げてくぜ! ”インバルディア”【全能力強化】」


 更に激しさを増したグレンダルの攻撃をレイは受け流すが、視界の外から尻尾が伸びて足を掬い、岩石のような拳がレイの腹部を捉える。大打撃を受けたレイはよろめきながらその場に膝をつく。


「もう終わるのかよ⁉ もっと楽しもうぜぇ」

「彼の力を僕の力と技が上回れば勝てるはず……」


 レイは立ち上がるとぼやける視界の中で再び流の構えを取る。


「またそれかよ、芸の無い奴だな」

「それは……どうかな?」


 先程までと同じようにレイはグレンダルの攻撃を受け流してカウンターの機会を窺う。グレンダルの蹴りをすんでのところで躱すと次に右腕のパンチを受け流す。ヴェルブリンガーの刃がまるで金属とぶつかった時のようにギリギリと音を立てる。そして、隙を見つけたレイは渾身の一撃を放つ。


「エイリレ流剣術 【流の構え・鴉迅】」


 レイの一閃はグレンダルの強靭な皮膚を切り裂いて胸に大きな傷を負わせた。更にレイは剛の構えに変えて追撃する。これまでに使用してきた技を全て使い、グレンダルに連撃を叩きこむ。


「【猛禽爪】 【盾砕き】 【黒鷲葬】」

「グアアアアアアァ!」


 レイの連続攻撃を受けたグレンダルは無数の傷をさすりながら後退りする。


「俺は常に強者なんだ。そうでないと裁く権利がなくなっちまう」

「弱った者をいたぶって来た君ではたとえ強かったとしてもそれ以上の成長なんてないのさ」

「お前は死刑だ! 今すぐ執行してやる!」


 グレンダルの力はどんどん強まっていくが、レイも負けじと応戦していた。しかし、元の差が大きくレイは追い詰められていく。グレンダルの左腕を受け流すと、尻尾が右から鞭のように襲ってくる。それをレイは抱きかかえて踏ん張り、短剣で斬りつける。尻尾を傷つけられたグレンダルは振り向きながら左腕でレイに裏拳をかます。


「次で完全に決着をつける。最後の攻撃! ”エクシード・バースト”【極限開放】‼」


 レイは流の構えで待ち受ける。グレンダルが両腕を上げて叩き潰そうとしている。レイは瞬時にグレンダルの懐へと入り込み、技を繰り出す。


「エイリレ流剣術奥義 【飛燕躍桜】」


 レイの一撃はグレンダルの胸を再び切り裂いて、先程の傷に加えて胸に十字の傷を作った。それでもグレンダルは倒れない。そこでレイは更に大技を放つ。


「これで最後だ! 【柔の構え・翡翠円舞】」

「馬鹿な……この俺が……同じ魂色に負けんのかよ……」


 高速の剣技で何度もグレンダルの身体に傷をつける。グレンダルは反撃することすらできず、ただ耐えることしかできない。レイが最後に刺突するとグレンダルは完全に気絶してその場に倒れた。同時にレイも魔法の反動でその場に倒れ込む。


「はは……まったく動けないや」


 報罰隊の幹部である蜥蜴竜族のグレンダルと魔導士カルゼのコンビとレイ、エルのコンビによる対決は後者の勝利で幕を閉じた。

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