第三話 冷たい断頭台
なんだコイツら……全員同じような言葉をずっと呟いている。気味が悪い。三人は同時に攻撃を仕掛けてきた。強さ自体は大したことないが数が多い上にこっちは手加減をして倒さないといけない。思っていたよりも手こずる。
躱しながら反撃の機会を窺っているが、駄目だ。こうも数が多いと躱すだけで精一杯。おれは一度剣を鞘に納める。こっちの方が斬りつけないから安全だ。
横に飛びのいて攻撃を躱したら、ナイフを同時に突き出しておれの前後を挟むように突進していた二人がぶつかりそうになる。おれは剣を投げつけて女の人間の持っていた包丁を弾き飛ばす。それからすぐに前へと飛び出してエルフの男の手首を掴んでから背負い投げのような形で投げ飛ばす。
この瞬間を隙だと思ったのか、小人族が農具で刺しに来た。剣が無いおれはそれを掴んで止める。少しだけ後退りしたが、おれは掴んだ農具を引っ張って相手の態勢を崩す。そして、小人族の胸ぐらを掴んで問い詰める。
「これはどういうことだ! 説明しろ‼」
「すみませんすみませんすみません。ですがこうしないとこの国の民は粛清される!」
「どういう意味だ?」
おれが言葉の意味を聞こうとした時、小人族は隠していたナイフを取り出した。怪しい動きに気付いたおれは刺されるより前に咄嗟に手を放して回避する。
「話をする気はないみたいだな」
「ひいいぃいいい!」
おれは小人族がナイフで斬りつけて来たところを躱すと、しゃがんで足ばらいをして転ばせる。次に身体がこっちに倒れてきた所に顎を狙って思い切り殴った。すると、小人族は気を失ってそのまま地面に突っ伏すように倒れた。
全員倒した後、周囲を確認するが他に敵がいるような感じはない。おれは落とした剣を拾ってから皆のいる宿屋へと向かう。
敵が街の住人なら負けることはないだろうけど、もしも寝ている所を狙われたらただじゃ済まないはずだ。おれは周囲に警戒しながら近くの宿へと戻り、部屋の扉を開く。するとそこには皆の姿と見知らぬ奴らが気絶した状態で数人横たわっていた。
「皆大丈夫か!」
「ディール! おう、こっちは無事だぜ。夜更かししといて良かった」
部屋の中は戦いのせいで荒れている。レイは荷物を確認し、エルは襲って来た奴らの脈を確認している。
「彼らはいったい何なのよ!」
「おれも外でいきなり襲われたんだけど、コイツらは全員街の人間だ」
「やっぱり面倒ごとになるのね」
エルはため息をついている。それを見たバライバが笑いながら話し出す。
「んだよ、慣れたもんじゃねえか。ディール達にトラブルが付きまとうのはいつもの事だろ?」
「仕方ないわね。それと、悪い噂ってこの事だったのかしら?」
どうなんだろう? おれも最初はエルと同じ考えだったけど、それは少し違う気がする。アイツらが呟いていた言葉にヒントがあると思うんだけどな……王に……国。この街に王ってのがいて、そいつがこの街の人間を狂わせてるのか? おれが街の謎について考えていると荷物の確認をしていたレイがやってきた。
「荷物を確認したけれど、何も盗られた形跡は無かったよ。彼らの目的は盗みじゃなかったみたいだね」
「ということは盗みが目的という線は無くなったわけだ。やっぱり奴らが話していた王っていうのが関係してるんだと思う」
おれが王について触れると、バライバが昼間の時のことを思い出して話す。
「王? 昼の婆さんもここは王国だーとか言ってたよな?」
「そうなんだ。その王がどうこうって街の人間はずっと呟いてた。それにその王ってのに怯えている感じもしたんだ」
「つまり、その王が街の連中を狂わせてる元凶だって言いてえのか?」
おれは頷いた。その後、レイがあくびをしながら話を進める。
「とりあえずさ、今日の所はもう寝ようよ。それで明日の朝になったらどうしようか考えようよ」
「そうするか……」
正直言っておれももう眠かった。それに休まないと戦う力だって湧かない。今日の所は一人ずつ交代で見張り番をすることにして一旦休むことにした。話し合いの結果、おれは最後の時間の見張りになったので先にある程度の時間眠ることが出来た。
ぐっすりと眠っていると、エルに叩き起こされる。どうやらおれの順番が来たみたいだ。目をこすりながら割れた窓の外を見てみると僅かに空が白んでいる。
「交代か……」
「と言ってももう朝なんですけど」
エルフにとっては起きる時間かもしれないけどおれたちはまだ眠い。おれは立ち上がって伸びをしていると、エルが急に話し出した。
「……今、遠くの方から誰かの叫び声みたいなのが聞こえたわ」
「何だって? 気のせいじゃないのか」
「いいえ、確かに聞こえたわよ。確認しに行きましょうディール!」
エルが先に部屋を飛び出して行ってしまい、おれもつられるようにしてついて行った。道中、おれは部屋に置いてきた二人の事が心配になる。
「起こしてきた方が良かったよな」
「一晩も見張りして何も無かったんだから大丈夫よ。それよりも、声はこっちから」
エルが声の聞こえる方へと走っていき、昨日は訪れなかった広めの広場へと出てきた。そしてそこには目が覚めるような光景が待っていた。広場の中央には、大きな台座が設置されており、その上になんだか凄く大きな装置みたいなのが置いてある。更に周囲には街の住人と思われる人たちが大勢いる。
黒ずんだ木製の台座に穴が開いていて、そこに昨日すれ違ったエルフの男が頭だけが出るような形ではめられている。その上には高く掲げられた斜めの刃が存在している。刃の横には金属の滑車があり、微かに鉄錆の香りがする。
エルフの男はずっと何かを叫んで喚いているが、呂律が回っておらず言葉として理解できない状態。そんな異様な状態を住人は微笑ましい笑顔で眺めているし、装置の近くにはエルフの男を見下ろすようにして黒い装束を着た奴らが立っている。
今から何が始まるって言うんだ? どう考えても楽しい祭りには見えない。エルの方を見てみるとエルは目を見開いて口を押さえている。
「エル、あの装置は何なんだよ!」
「あれは……断頭台。別名をギロチンと言って……」
そこまで言ったところでエルが言葉を詰まらせる。
「名前だけじゃなくて、あれは何をするためのものなんだ! 何で皆、笑ってんだよ!」
「あれは罪人を裁くための処刑方法の一つ。あの斧が落ちて、首を刎ねるの」
あれは罪人を裁くための装置なのか。じゃああのエルフの男は罪を犯したっていうのか? そうだとしたらここの奴らが笑っているのは罪人が裁かれるからか? おれがあの断頭台について考えていると、黒い装束を着た他の二人よりも背の低い別の奴が新しく台座の上に登って話を始めた。
「ここにいるエルフ族の男は先日、薬屋で盗みを働いたという罪で告発があった。審議の結果それが事実であることを確認した! よってここにこの罪深き男をギロチンの刑に処すことを我らが王が決定なされた!」
黒い服の声の高さからして多分男の奴がそう話すと、住人たちから拍手が起きる。すると、その音をかき消すようにエルフの男が叫ぶ。
「わたしは断じてそんなことをしていない! 神に誓ってもいい! 何でわたしなんだ‼ 今回の犠牲者は違う者だと決めていただろ! うわああああっ‼ 死にたくない死にたくない死に死に死に……ああああああ‼」
エルフの男はより一層激しく暴れ出した。こうなってくるとどっちの言っていることが正しいのか分からなくなってきた。普通に考えればあの黒装束の奴らが審議したとか言ってるから正しいんだろうけど。
断頭台の横に立つ黒装束の奴らがなにやら動き始めている。もう処刑が始まるのか! ただじっと見ていることしか出来ないおれの近くで誰かが呟いた。
「嘘だよ、全部……処刑で流される血よりも真っ赤なね……」
おれは振り向いたがそこには誰もいない。周囲をぐるっと見回すが皆断頭台に夢中になっている。今のは誰の声だったんだ? いや、それよりも全部嘘って言ってたよな。それが本当ならこの処刑は。おれはさっき聞こえた言葉に背中を押されて黒装束の奴らに向かって声をあげた。
「その処刑、待ってくれ!」
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