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魂色ファンタジア~語られざる異端者の冒険譚~  作者: ガホウ
~呪われし骸と真の炎~
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第二話 街じゃなくて国

 危険と言われている街が道中にあるルートを選んだおれたちはその街にカミオン帝国の手の者がいるかもしれないと考えながら向かっていた。


 ずっと歩き続けて、日が暮れてきたが近くに集落がありそうな感じはしない。おれたちは野宿することになった。いつものようにバサンが焚き木に火をつけて暖と明かりを確保する。その近くでバライバが調理をし、レイとエルが寝具の準備をしている。寝具と言っても宿屋にあるようなベッドじゃなくて、ただの寝袋。しかし、その寝袋がレイを野宿嫌いにさせている原因でもある。朝目覚めた時に背中が痛いのが嫌なんだとか。


 バライバが調理の準備をしながら皆に声をかける。


「誰かフライパン持ってねえか? 俺の持ってる奴が駄目になっちまってよ」

「フライパンならいつもあれ使ってたわよね? ディール、渡してあげたら」


 エルにそう言われたおれは袋からいつも使っていたフライパンを取り出すとバライバに渡した。バライバはフライパンを受け取るとそれを見て驚愕した。


「おいっ! これドワーフ製の盾じゃねえか! なんでフライパンにしてんだよ」


 ながらくフライパンとして使っていたから忘れていたけど、そういえばこっちのアルテザーンに来る前にどっかの村でゴブリン退治のお礼に貰った丸盾だった。バライバは怒りこそしなかったが明らかに不機嫌になっている。


「何で盾を調理器具にしてるんだ? あぁ?」

「それはさ……おれ、盾とか邪魔で使わなかったから」

「だからってよぉ? もういいやっぱり人間は嫌いだ!……ディール、薪集めて来い」


 おれの仕事は近くに魔物がいないかの安全確認と薪集め。グルーッと周辺を一周してきたが魔物の気配は無かったから今日は大丈夫そう。前なんかは魔物に囲まれてたせいで見張り番を交代しながらの睡眠でろくに眠れない時があったから今日は運がいい。


 バライバ特製の食事を終えた後は各々自由時間になる。レイは本を読んでるし、エルは弓の手入れをしている。バライバの方を見てみると今日はいつもと違い、少し太い木の幹に何かしている。さっきの件もあり、おれはバライバの機嫌を窺うために声をかけた。


「何やってんだ?」

「コレか? ほらよ、見てみな」


 バライバが見せてきたのは何か人のようなものをかたどった木彫りの像だった。


「コレはよ、ドワーフ族が信仰している鍛冶の女神様だ。俺は彫刻家だからな、こうして木彫りでもいいからやっとかねえと腕が鈍っちまう気がしてよ」

「そっか、女神様ねえ。勝利の女神みたいなことか」

「ん~ちっと違う気もすんが……」


 ちょっとだけ空気が和んだと思ったおれはずっと気になっていた、なんでバライバが人間を嫌っているのかについて聞いてみた。


「そういえば何でバライバはそんなに人間が嫌いなんだ?」

「この際だからハッキリ教えといた方が後々聞かれねえで済むから言っとくか」


 それからバライバは何故人間を嫌うようになったかを教えてくれた。


「あれはまだお袋が生きてた頃だった。俺のお袋は武器を売る店をやってたんだ。俺はお袋の仕事場に行ってはしょっちゅう仕事を見てた。そこで見るいい品を手に入れた客の笑顔は幼いなりになんだか嬉しい気持ちになったからよ」


 それまでバライバは笑顔で語っていたが、急に眉をひそめて表情を曇らせた。

 

「だけどよ、ある日俺は前に剣を買った人間の二人組を見つけてこっそり後をつけたんだ。そして野郎どもはこう言いながら剣を投げ捨てやがった『叩いても切っても、相手の皮膚すらろくに裂けねえ。ガラクタか?』ってよ。手前の実力は棚に上げて武器のせいにしやがったんだ。それからもそう言って武器を捨てる野郎がいたから俺は道具を大切にしない人間が嫌いになったんだ」

「そいつは酷いな」

「ドワーフ製の武器は誰にでも扱えるわけじゃねえ。質がいい分誰にでも扱えると思われがちだが、違う。質のいいものほど腕が良くなきゃ扱いきれねえのさ。それに気がつかねえ馬鹿どもを見るのが腹が立ってよ」


 木彫りの女神像を握る手に力が入っているのを見るにバライバは相当、その時のことが頭に来ているらしい。


「じゃあおれがドワーフ製の武器が扱えたのは実力があるからってことだよな」

「けっ、調子に乗んのはやめとけや。だがまあ……否定はしねえよ」


 会話を終えて、バライバの人間嫌いの理由を知ったその日のおれはすぐに眠ることにして、次の日を迎えた。今日もゴートの街に向かって進んでいるとようやくそれっぽいのが見えてきた。


「おお! あれがゴートの街か」

「ディール、僕らは遊びに行くわけじゃないよ」

「分かってるって」


 分かってはいるけど、何回新しい街に訪れてもワクワク感は変わらない。おれたちは街の入り口に到着するが、近くに門番とか警備の人がいない。普通はいるもんだけど。気にはなったがおれたちはとりあえず街の中に入っていく。


 見た目は普通の街と変わらない。整備された石畳の地面、水は止まっているけど噴水もあるし、店も開いている。だが、人が誰もいない。厳密に言えば……。


「人の気配はあるわね」

「あ、あそこに」


 レイが指差す方向を見ると、窓越しにこちらを見ている人物がいた。おれたちに見られたことに気がつくと、すぐに顔を隠す。他の家屋からも同じように覗かれている。なんだか薄気味悪い。誰かに話を聞こうと思っていたら丁度前方から男のエルフがなにかブツブツ呟きながらやってくる。


「あの~」


 おれが声をかけると男は腰を抜かして地面に尻餅をついた。


「うわっ⁉ だ、誰ですか」

「誰って、旅の者だけど。この街なんかあったのか?」

「わたしから話せることは何もないです。ごめんなさい! ごめんなさい‼」


 男はおれの顔を見ることすらせず俯き謝罪をしながらどこかへ走り去っていった。


「どうなってんだ?」

「人間が苦手とかかしら?」


 他に人を探して歩いていると、今度はベンチに座って休憩している老夫婦に会うことが出来た。


「ちょっといいですか?」

「おや、見ない顔ね。旅の方かい?」


 よかった。今回は顔を見ただけで逃げられなかった。おれは街の事について質問する。


「このゴートの街で何かありましたか? 妙な噂を聞いたもので」

「はて? 特にいつもと変わりませんよ。今日なんてのどかで散歩日和じゃない」

「じゃあ、カミオン帝国って聞いたことあります? それか七玹騎士」

「なんだいそれは? おとぎ話かい?」


 嘘をついている感じはしない。どうやらここにカミオン帝国は来てないみたいだ。おれはお礼を言ってから立ち去ろうとすると最後に婆さんが話した。


「そうじゃ、言い忘れておったわ。ここは今、ゴートの街じゃなくて”カダ王国”じゃよ」

「はッ? 王……国?」


 おれの聞き間違いじゃなければ確かにあの婆さんは王国と言った。そりゃこの街は他の街と比べて大きいけど、王国っていたらデカい城とか偉そうな王様がつきものだろ? きっとおれたちの話を冗談と捉えたからあっちも冗談で返してきたんだろうな。


 その日、おれたちは宿をとり、四人全員で一つの部屋に入る。それから荷物を置いて、寝る場所を決めてから、レイと話し合いになった。


「この街、七玹騎士どころかカミオン帝国のカの字もなかったね」

「そうだな。それにしてもさ、あの婆さんの言ってた王国の冗談はあんまり笑えなかったよな」

「でもさ、遠くの方にチラッとだけなんだけれど、凄い大きな屋敷があったよ」

「流石にそれが城ってわけじゃないだろ」


 エルがこちらにやって来て会話に参加する。


「結局なんにもなかったわね。いいことじゃない? 明日には出発して先を急ぎましょう」

「だったら何で妙な噂が広まったんだ?」

「所詮は噂だからよ」


 どうにも納得がいかなかったが七玹騎士もカミオン帝国も関係ない以上はこの街にいる必要がない。


 宿で部屋はとれたが食事は無かったので、今日もバライバの作った料理を食べられることになった。いっぱい歩いていっぱい食べたせいで強烈な眠気に襲われた。しかし、おれは頬を叩いて目を覚まし、宿の外の開けた場所で修行をすることにした。


 月明りだけが街を照らしている。どの家屋も灯りがともっていない。虫の声だけが微かに聞こえてくる。おれは瞼を閉じ、意識を研ぎ澄ませミレニアムを振るい続ける。

 

 息が切れ、汗もたくさん流した。これならスッキリと眠れそう。大きく息を吐くと、どこかから窓ガラスがパリンッと割れる音がした。今のは宿からか! おれが宿屋へと向かおうとすると、背後から気配がしたので前に飛びのく。


 すぐに振り返ると、そこには見知らぬ人間の男がいた。やせ細って髪がボサボサ、目の下にはくっきりと濃いクマがある。そんな細い腕で凶器であるナイフを持っておれに襲い掛かってくる。


「いきなり何するんだよアンタ!」

「頼む! 死んでくれ! 俺のためによぉ!」


 おれは攻撃を躱しながら一つ思い出した。目の前のコイツは昼に家の中からこっちを覗いていた奴の内の一人だ。ということは街の住人なのか!


「どんな理由だろうと命を取られるわけにはいかないんだ。悪く思うなよ、”グリン……」


 ダメだ! そういえばエルに魔法を禁止されてるんだった。また魔法が暴走して今度は命を奪うかもしれない。おれは咄嗟に片腕を引っ込ませてから剣を両手で持つ。


「あぁ! やだやだやだ! お納めしないと、お納めしないと……誰でもいいから罪人を……罪人をおおおおおおおおお‼」


 どんどんと力が強くなってくる。が、ただ力任せに武器を振るっているだけだ。こっちの方が戦いやすい。すぐに隙を見つけて、剣の握る位置を変え、面の部分で頭を思い切り殴る。男は気絶してその場に倒れた。


 それにしても何なんだコイツは。頭が狂っている奴が街には必ず一人はいるって言うのか? それともこれがこの街の本当の姿……あ! そういえば宿の方から音がしたんだ。早く皆が無事か見に行かないと。

 

 おれが走りだそうとしたら、既に周囲に三人の人がいた。今度は人間だけじゃない。エルフもいるし小人族もいる。中には女までいる。


「アンタらが女を連れてこようがおれは手加減しねえぞ!」

「「全ては王のため……国のため……秩序のため」」

読んでくださった方ありがとうございます。よろしければブックマークと評価をお願いします。

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