第一話 駆け巡る不穏な噂と魔法の暴発
おれたちはあれから変わらず龍の火種を手に入れるための旅をしていた。思っていたよりも竜が住むとされる王国は遠く、カータナーの街を出発して二節が経過した。
今は街道沿いの集落で魔物の素材を換金したり物資を調達するために休憩中。
「俺はあっちの方の店で食料の買い出しに行ってくるぜ」
「肉多めで頼む」
「野菜も食べろ」
おれの要求をのまずにバライバは店に向かってしまった。レイはエルと一緒に素材の換金に行っちゃったし……こうなると暇だな。どっかで修行でもするか……?
「こっちのルートは通らない方がいいよ。あそこはまだ荒れてる」
「まだ駄目なのか⁉ 仕方ない、遠回りするしかなさそうだな。命が一番で金が二番よ」
おれは近くの行商人の会話が気になり、そっと近づいて盗み聞きしてみる。
「カミラム港に行かないと、美味い商売の話は港にこそ集まるからな」
「それもいいけど、ここにも商品を卸してけよな」
「分かってるって」
会話を終えた行商人は集落から出て行き、出発していた。それにしても今の会話の中で出てきたカミラム港って確か、目的地の一つだったよな。龍の国に行くに船が必要だってエルが前に言っていたのを覚えている。
やることもなく暇になったおれはバサンと遊びながら待っていると、どこかから男の叫び声が聞こえた。
「強盗だ!」
周囲がざわつき始めている。おれは声の主を探すと数人の集団が走ってどこかへ行くのが見えた。なんだか見覚えのあるマークのバンダナをしてる。あれは……まさかな。
おれは走ってさっき見た集団を追いかける。ここに来てまた面倒ごとに巻き込まれたらエルに怒られそうだけど、流石に見過ごせない。
袋から魔宝具のロープを取り出すと、奴らを捕まえるように念じる。ロープはするすると人々を避けるように伸びていき、盗人の内の一人に巻き付いて捕らえた。
「よしッ! まず一人」
「何だこれは!」
仲間の内の一人が捕まって、他の奴らも足を止めた。
「もう逃がさねえぞ。盗んだものをとっとと返せ」
「ふざけんな! 俺達はかの有名なヘンベル盗賊団だぞ」
やっぱりコイツらか。それにしても活動範囲が前よりも広がっていないか? コイツらってどこにでもいるんだな……おれは剣を引き抜いて、降伏するように促す。
「ヘンベル盗賊団とはおれも因縁があってな。アンタらはどこの隊所属なんだ? そろそろ熊かそれとも蟹か?」
「なっ……俺達はまだ所属は無い。しかし! これだけの物資を持って帰れば俺達のような下っ端でも」
奴らは人手不足だと思っていたが、想像よりも人が増えているのか? おれがヘンベル盗賊団の事を考えていると、掴まっていない他の四人が一斉に襲い掛かって来た。おれはロープに近くの看板の柱に巻き付くように念じてから相手をする。
湾曲したサーベルによる攻撃を軽く受け流すと、そいつの横っ腹を思い切り蹴り飛ばす。次の敵はナイフで突き刺しに来たがそのナイフを叩き落とし、斬りつけて倒す。あっという間に仲間が倒されたのを見た残りの二人は膝を震えさせながら背中を向けて逃げ出す。
「逃げるな!」
おれが離れた二人に狙いをつけて魔法を放つ。
「”ゼレイム”【蒼炎球】」
おれはいつもの感覚とイメージで魔法を放ったが実際にはとんでもない威力だった。逃げた二人には直撃して上手く倒せたものの、近くにあった店を丸ごと燃やして吹き飛ばしてしまった。
「嘘だろ!」
「何だ? 何事だ?」
「ちょっと! あそこのお店が消し炭になってるよ」
騒ぎを聞きつけた人たちが次々とやって来る。おれは急いで盗人たちを一か所に集めると、そこへレイたちがやって来た。
「ディール⁉ これは何が」
「コイツらが強盗しててさ、捕まえようと思ったらこんなことになった」
おれが申し訳なさそうにしているとエルに怒られた。
「何をどうしたらこんなことになるって言うのよ!」
騒ぎの間に盗人を集落の人間に引き渡して、盗まれたものを店の人へと返すと、燃え尽きた店の中から人が出てきた。
「わしの店が……どうなっとんじゃこら」
店の持ち主と思われる人物は炭で真っ黒、髪の毛はチリチリだった。おれはすぐに謝罪して、事情をレイが説明する。店主は困り果てていたが、盗人を捕まえるためだったということと、おれたちがいくらか金銭を渡して弁償することで許してもらえた。
「せっかくお金に余裕が出来たと思った矢先に……ディール……」
「ごめん……レイ」
「まあしょうがないよね。ゼロになったわけじゃないんだ。また節約しながら魔物を倒せばいいよ」
盗人を捕まえたとはいえ店の一つをぶっ壊してしまったので集落にいづらい状態になり、早々に立ち去ることにした。道中、おれたちの会話は目的地の話になった。
「そういえばよ、さっきの集落で耳に挟んだんだが、この道の先にあるゴートって街が危なっかしい場所って聞いたがどうする?」
「それ僕も聞いたよ。ここを通っていく殆どの人たちが避けているらしいね」
やっぱり皆の耳にもさっきの噂話は届いていたみたいだな。でも、どうするかなんて決まってる。
「そりゃもちろん行くに決まってるだろ。あくまでも噂だろ? 長居しなけりゃ大丈夫だって」
「私は反対よ」
エルの意見は意外だった。エルも賛成するとばっかり思ってたから。
「何でだよ! そうじゃなきゃ遠回りになるぞ。時間はかからない方がいい」
「『急がば回れ』よ。それにさっきみたいな面倒ごとに巻き込まれたらそれこそ時間を浪費するわ」
痛い所を突かれたおれは言い返せなかった。意見が遠回りルートに傾きそうになった時、レイが意見を出した。
「僕はディールと一緒でその街を通る方に賛成かな。僕たちの旅はいつでも悪い噂や危険が潜んでいる所に彼らがいた」
「カミオン帝国か……」
「うん。だからこそ『黒い噂ある場所にカミオンの影あり』って思うんだ」
レイの言う通り、もしかするとそこに七玹騎士がいるかもしれない。エルもしばらく悩んだ後に決断を下した。
「分かったわ。今回はそのゴートの街に行きましょう。そして何もなかったらすぐに出発する。これでいいかしら?」
「「了解!」」
おれたちは元気に返事をして進むべき道を定めた。それからも会話は続いていき、話題はさっきのおれの失態についてになった。
「さっきのディールの魔法のことなんだけど」
エルが何かに気付いたみたいで自身の考えを述べ始める。
「前にとある文献で目にしたことがあるんだけど、人間族は大体ディールたちぐらいの年齢の時期に成長期が訪れるんでしょ?」
「ん? そうなのかレイ?」
「えっ? 僕もその辺は全く知らないよ。でも、最近背は伸びてきてるよね。僕ら二人ともさ」
確かに背がちょっとずつ伸びてきている気がする。エルフ族の里で貰った服も小さく感じてた。
「とにかく、その人間族特有の成長期というのが訪れるとね、身体の成長以外に自身の魔力にも変化が起きるらしいの。詳しい文献がなかったから不確かな情報なんだけど、例えば魔法がより強くなるとか、使ったことのない魔法が突然使えるようなるとかね。この時期を境に魔力の保有量が増大するのも確認されているそうよ」
「なんだか頭が痛くなるような小難しい話だな~」
魔法にあまり縁がないドワーフ族のバライバはそもそも理解しようとしていなかった。それにしても成長期に入れば魔力の量も増えるのか……そうなれば戦いが有利になりそうだ。
「簡単に言えば”潜在能力”てことよ。そして、人間族にだけ存在するこの魔力の急激な変化を総じて正式名称で”アルカマジック”【魂源魔法】と呼ぶの」
「その現象が起きているってことだよね。ディールに」
「あなたもいずれ起きるわよ。つまり、当面の間は魔法が不安定になるから無茶は禁止ね」
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