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第六十二話 巷で噂のクソガキだった

 その場にあった殆どの足場を巻き込んだ落石に銀騎士とモノノフが気がつく。二人は一旦距離を取って落石に備える。モノノフは落石を全て真っ二つにしながら躱している。一方の銀騎士は氷の魔法で相殺している。どちらも今なら隙だらけだ!


 落石と一緒に落下していたおれはその陰に隠れながらモノノフへと近づく。おれが隠れていた落石が真っ二つにされるとモノノフの背後を取り、上空から斬りかかる。


「【鬼裂断】」

「小童か!」


 あと少しの所で防がれてしまったが、ここまでも想定内だ。他の落石がモノノフの頭に直撃して砕ける。するとモノノフの力が少し緩んだ。おれはその隙を逃さずに力を入れて剣を振り抜き、一撃を与える。


 目的を果たしたおれはすぐさま銀騎士の位置を確認する。


「逃がすか!」

「もうアンタに用はないんだ!」


 そう言っておれは落石をモノノフへと蹴り飛ばすと同時にその力を利用して銀騎士の方へと向かっていく。


「次はアンタだ! 銀騎士‼」

「なっ⁉」


 流石に戦闘の経験値が違う。奴は壁際まで飛んでいき壁から生やすように氷の足場を作り出し落石が来ない場所へと移動した。だが関係ない目的は一つだ。見当が外れたらすべてが終わりだが、それでもおれは最後の力を振り絞って魔法を唱える。


「”バーン・アサルト”【蒼炎突貫】」


 剣を突き出すようにして突撃を仕掛ける。当然、銀騎士は防御の構えを見せる。


「そんな見かけだけの魔法など! 通用しないことも分からないのか!」

「うおおおおぉッ!」

「”ソルド・フリーゼ”【氷の剣】」


 銀騎士のすぐそばまで迫ったタイミングでおれは一歩後ろに下がり攻撃を誘発させる。


「フェイント⁉」


 おれは背中側に回りこんで斬りつけると鎧に穴が開いた。その後すぐに銀騎士は振り返りレイピアで斬りつけてくるがその攻撃はおれの額を僅かに掠めて傷つける程度に終わった。おれがその前に足場を破壊したからだ。おかげで銀騎士は落下して直撃を免れた。


 銀騎士はそのまま落下するはずもなく、すぐに別の足場に着地した。モノノフの方も膝をついている。おれはこちらを見上げている二人を嘲るようにしてあるものを見せる。それが何か二人はすぐに分かったみたいだ。


「それはまさか……鍵か⁉」


 そう言いながら銀騎士は背中を確認する。まさにその通り、おれが狙いを変えたのは銀騎士の命から鍵の欠片だった。そのためには隙を生み出すしかなかったし、隠している場所が見当違いだったら失敗していたが、結果的に二人から鍵の欠片を盗んで出し抜くことに成功した。


 ここでも昔の経験が役に立った。ロオの街ではしょっちゅう大人から物を盗んだもんだ。といってもどれも盗品だから盗んだことでこっちが咎められる筋合いは一切ない。レイにはよく怒られたけど。でもあの街で暮らしていくには必要な技術の内の一つだったんだ。

 

「これでおれにとっての勝負は勝ちだ。だが忘れるなよ、七玹騎士はいずれおれが全員殺してやる!」


 おれは近くの扉へと移動すると、下にいる銀騎士が誰かに呼ばれて姿を消した。モノノフはその場に突っ立ったままだ。


「確かに鍵の勝負は小童の勝ちだ。されど、死合いの決着は未だついておらん。この勝負預けるぞ!」


 そう言い残してモノノフもその場から去っていった。誰もいなくなった決戦の場を最後に眺めてからおれもその部屋から出て行った。扉を開くと向こう側から誰かの姿が見える。おれは急いで剣を構えるがすぐにその剣を下ろした。向こうからやって来たのがエルだったからだ。


「ちょっとディール⁉ あなたまでそんな大怪我して、どうしたの」

「までって他の二人は無事なのか!」

「命に別状はないけれど二人とも凄まじい戦いがあったのか酷い怪我を負って今は治療中」

「なら良かった」


 仲間が生きていることを知ったおれは胸をなでおろしてその場に座り込む。


「あなたも治療しなきゃ」

「いや、そんな暇はない。鍵の欠片を手に入れたんだ。これで手元には四つ。あと一つを手に入れないと」

「それならここにあるわ。バライバが手に入れてくれたの」

「じゃあここに鍵の欠片は全て揃ったのか。急いで扉を開きに行こう」


 おれとエルは二人で鍵の欠片が使える場所を探すために近くの階段を上って別の扉の前に移動する。それからおれは扉に向かって大きな声で叫ぶ。


「見てんだろアドラシウス! あの銀騎士はどっかへ逃げたんだ。それに鍵の欠片もすべて手に入れた。約束通り部屋を繋げろ」


 おれがそう言うとどこかから奴の声が聞こえてくる。


『いや……ほんっとうになんと言葉に表せばいいのか! 最高の闘いを見せてもらったよ。それに君の言う通り騎士たちは撤退してくれているみたいだ。約束というよりかは報酬として目的の部屋へとつなげようじゃないか』


 アドラシウスが話し終えると目の前の扉が勝手に開いた。おれたちは警戒しつつも先へと進んで行き、無機質な空間の奥に鉄の扉とそれらしき窪みを発見した。おれは一つずつ鍵の欠片を形に合うように嵌めると。大きな金属音が響き渡るとともに鍵が開いた。


 身体を扉に寄せて押すと鉄の扉が開いた。中には台座の上にポツンと一つだけ置かれた金属が佇んでいた。見た感じだけでは鉄とか銅とどう違うのかが分からないがこれがデュラクシウムで間違いないだろう。


「これがデュラクシウムなの? もっとナナカライト鉱石のように派手な見た目なら分かりやすいのに」

「とにかくこいつを持ち帰ろう。バライバに見せれば本物かどうか分かるはずだ。もし違ったらその時はここの支配者を殴るだけさ」


 デュラクシウムらしきものに触ってみても他の鉱石との違いがよく分からない。試しにデコピンしてみたら指が痛かった。その様子を見ていたエルが呆れておれの頭を叩く。その後、エルがデュラクシウムを重そうにしながら持ち抱えておれたちはその場を後にする。


 治療院に到着すると、ベッドの上に毛布でグルグル巻きのレイと包帯がグルグル巻きのバライバが寝ていた。その近くにはゴランドともう一人ところどころ赤い汚れが目立つ白いぼだっとした服を着た知らないおっさんがいた。


「あの人はダレ?」

「あぁディールは初めてだから知らないのよね。この人が治療をしてくれた医師よ」

「そっか。おれの大事な友達を助けてくれてありがとうございます」


 おれが深々と頭を下げると、薬師はおれの姿をジッと見てから近くのベッドに座るよう促した。素直に従うと薬師は近くに来て話し出す。


「またケガ人か。お前も自分自身で気がついていないだけで相当な重傷だ。そこに横になれ。今すぐ治療する」

「いやおれは別に……あれ?」


 ここまでの闘いの緊張感の糸がプツッと切れたのか急にめまいがして疲れや痛みが押し寄せてきた。ふらついているおれを薬師はそっと支えながら寝かせてくれた。傷口に薬を塗られて縫合されているのが分かる。闘いが終わり安心しきったおれはそのまま眠りについた。


 目が覚めるとおれの身体も包帯でグルグル巻きになっていた。身体は動かせるし、痛みもそこまでじゃない。周りを見るとレイとバライバもまだ寝ていた。エルは少し離れた場所で眠っている。薬師はおれが目覚めたことに気がつくと声をかけてきた。


「ようやくお目覚めか。お前たちはあれからまる三日は寝ていたぞ」

「そんなに!」

「その間もそこのエルフと人間がつきっきりで看病したんだ。感謝しろよ」


 薬師が指差す方向を見たらおれのすぐ隣の床にゴランドが大の字で眠っていた。ゴランドも助けてくれたんだ。


「そういえばお前たちが眠っている間にここにマスターがやって来てな。ル・セレーネで食事でもしながら話がしたいそうだ。大怪我している暴れ者かと思ったらマスターと知り合いとか……いったい何者なんだ?」

「さあ? おれにもなんて表現すればいいか」

「詳しく聞くのはよそう。ここはそういう場所だ。それから、お前たちは完治したわけじゃないから無理は禁物だが軽く動くくらいなら出来るはずだ。さ、お仲間を起こして一緒に早く移動してくれ。ここもいつまでも閉めておくわけにいかないんでな」


 急かされるおれは皆を起こして治療院を出て行った。

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