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第五十六話 どこまでも肉弾戦

 バライバは懐からとある物を取り出した。それはディールたちが旅を始めた時から愛用していた魔宝具の一つである魔法の小瓶である。しかし、魔法の小瓶はかつての形状ではなく少し大きくサイズがアップしていた。


 変わったのは見た目だけではなく、バライバが師匠の意を汲み取りながらも、新しい性能を付け加えた。逸品である。


「頼むぜ魔宝具よ。”スワロウ”」


 バライバは魔宝具で近くを流れている溶岩を吸い込む。不穏な動きを感じ取ったガオドラスはバライバを仕留めるために距離を詰めて攻撃を仕掛ける。


「させぬぞ!」

「クソッ! 邪魔すんじゃねえよ」

「怪しい動きは止めておくに限る!」


 バライバは敵の攻撃を躱しながら、近くの岩をバンカバームで砕いて、その大きな破片をガオドラスにぶつける。当然ながら、岩程度ではガオドラスに傷一つつけることは出来ないのはおろか、奴に力を蓄積させるだけである。


「いまさらそんな石、効かぬわ!」

「んなこた分かってんだよ! ここには他によさげなもんがねえからな。”スワロウ”」


 バライバは更に魔法具で先程砕いた岩を吸い込んでいく。それから魔法の小瓶に蓋をして、シャカシャカと振り始める。


「マグマと岩石を ”シェイク”【溶岩石弾】」


 バライバが魔法を唱えると、魔宝具はひとりでにぶるぶると震え出した。バライバは蓋を開いてから、口を敵へと向け、もう一度魔法を唱える。


「これが新しい魔宝具、魔法の調合瓶だぜ! くらいやがれッ! ”ボミット”」


 魔法の調合瓶から一斉に放たれたのは溶岩を纏った複数の岩石。岩石の弾丸はガオドラスの腹に見事に直撃する。岩石の弾丸を受けたガオドラスは痛みにこそ反応はなかったものの、その熱さには苦悶の表情を見せる。しかし、膝をつかせることすら出来ていない。


「いくら薬を使っても、流石にあちーのには耐えられねえみてえだな」

「忘れたわけではないだろう? この痛みすらも力に変わることぐらい!」

「だが、手前も無敵じゃねえんだ。ダメージは入ってるはずだぜ、必ずぶっ倒す!」


 バライバはもう一度同じ方法で攻撃するが今度は、岩石の弾丸を素手のパンチで砕かれてしまい、直撃させることは出来なかった。


「残念だったなバライバ。もうマグマは無意味だぞ。溶岩花の根っこと氷蛾の鱗粉を組み合わせた薬を飲めば、この程度の溶岩など熱くはない!」

「馬鹿な!」


 ガオドラスは薬の入った小袋を開けると、中に入っていた粉末状の薬を飲み干した。小袋を投げ捨てると、ガオドラスは笑いながら溶岩を素手で掬う。


「冗談じゃねえぜ。マグマを素手で掴みやがるなんて……人間業じゃねえ」

「俺は健康志向だからな。好き嫌いはしないし、日々の鍛練も忘れん。この健全な肉体こそが薬の効果を最大限発揮させるのだ!」

「絶対それだけじゃねえ気がするが。好き嫌いをしないってのは偉いぜ」


 ガオドラスは掬った溶岩をまるで水かけ遊びのように投げつける。バライバは横に飛びのいてなんとか躱す。これでもう溶岩による攻撃すらも通じなくなってしまった。


(もう手はねえのかよ……バンカバームも効かねえし、溶岩も効かねえ。他によさげな材料もねえときた。だぁああッ! どうすりゃいいんだ!)


 バライバがバンカバームを手に、ガオドラスに攻撃を仕掛ける。打つ手がないバライバは冷静さを失い、もう何も考えずにただ殴ることしかできなかった。


「もういい! バライバ、お前との勝負はもう終わりだ。お前では俺を倒せん」

「んだとコラ!……ぐっ⁉」


 バライバはガオドラスに身体を掴まれてしまう。


「お前は俺に何度攻撃した? 次の一撃はお前の身体を圧壊させるだろう」

「ぐっく……があああああ!」


 ガオドラスはバライバを握りつぶそうと力をこめる。バライバは痛みで悲鳴をあげる。そして、バライバの全身からは骨が軋む音まで聞こえてきた。バンカバームは巨大なハンマーから元の大きさへと戻ってしまう。


「力を開放する前に果実みたく絞り潰すか。それとも叩きつけてやろうか。なあバライバ、選ばせてやろう。それか、今すぐ土下座して俺の部下になると忠誠を誓うのであれば助けてやらんことも無いぞ。お前は見どころがあるからな」

「けっ……どれも御免だぜ。虎男!」


 バライバは唾を吐いて、ガオドラスの身体を汚す。屈辱的な返しをされたガオドラスは頭に血が登り、怒りのままにバライバの足を掴みなおし、地面へと力のままに何度も叩きつける。バライバは全身を固い地面に打ち付けられ、脳が揺れる。視界もぼやけ始め、意識を失う寸前である。バライバはもはや痛みで声をあげることすらもできなかった。


 ようやく頭が冷えたガオドラスはボロボロになったバライバを投げ捨てる。


「俺の話に従わんからこうなるのだ。くだらん。この溜まりに溜まった力をどうしてくれようか」


 バライバは肺をやられて、呼吸が上手くできない。唯一見えているのは遠くに落ちている。バンカバームだった。バライバは血を吐きながらも這いずりながらバンカバームの元へと向かう。ガオドラスはまだバライバが生きていることに気がついておらず、近くの岩見つけては頭を打ちつけて憂さ晴らしをしている。


(俺は……帰らねえといけねえんだ。族長のためにも、ヴェスリーンのためにもよお……)


 バライバはようやくバンカバームの元へと辿り着くと、手に取る。そして、バライバは岩肌を背にして座る。


(クソ……もう魔力があとちょっとしかねえ。けどな、あの虎男を見りゃ分かる。あの野郎も少しよろめく瞬間があるってこた、ダメージがしっかり入ってる証だ。あと一撃、それもとんでもない威力の一撃をくらわしてやれば!)


 魔法を得意としないドワーフ族は魂色魔法自体を使えることが既に奇跡のような状態である。しかも、その魔力保有量は他の種族と比べても圧倒的に少ない。なのでバライバは一撃に残りの全ての魔力をのせようとしていた。


(虎男にぶちのめすには至近距離まで近づかねえと)


 バライバは頭を抑えながら立ち上がる。そして、バンカバームを手に取ると、再び面の丸い巨大なハンマーである巨槌形態へと変形させる。バライバは一歩ずつガオドラスへ近づいていく。


「おいおい……それ以上頭打ったらもっと馬鹿になっちまうぜ」


 バライバの声に反応したガオドラスは背中を反らせて後ろを向き、バライバの姿を確認する。バライバがまだ立ち上がることに感動を覚えたガオドラスは不気味に笑う。


「バライバ、生きてたとは! これでこの力を存分に解き放てる」


 バライバは喉が焼けそうな程熱い中で、深く息を吸い込むと、一気にガオドラスまで距離を詰める。躱すだけの余力すらも残っていなかったバライバはガオドラスの拳を顔面にもろに受ける。しかし、バライバは倒れることなくバンカバームでガオドラスの脇腹を叩く。


「そんなぬるい攻撃では効かないと、何度も言っただろうが!」


 ガオドラスはもう片方の拳で二発目を食らわせるがバライバはまだ倒れない。それどころかバライバは更に、ガオドラスを叩く。その後も両者は零距離での怒涛の殴り合いを続ける。


 もう殴り合いが五十発を超えたあたりで、バンカバームが熱を帯びたかのように赤橙色に変色していく。


「手前が殴られれば殴られるほど、力を蓄えるのに対し、俺のバンカバームは叩けば叩くほど力が増す。俺の力と手前の力、どっちが上か決着つけようぜ」

「面白い! だが、これだけ力を蓄えたのは初めてだ。俺自身ですらどうなるか分からん! 塵の一つも残らず死んでも恨むなよ」


 バライバは力が溜まったバンカバームに更に自身の全魔力を加えて構える。一方のガオドラスも全身から血管が浮かび上がり、溢れんばかりの力を開放するために震えている。


「全力全開! パワー大放出スペシャルだ! 【完捨還撃】」


 ガオドラスはバライバに向かって飛びこんで殴りにかかる。バライバがバンカバームを構えるとバンカバーム内の爆発エネルギーがバチバチと音を立てている。バライバは勝負を決めるために大一番の技を放つ。


「俺の身体……まだ倒れる時じゃねえぞ。この一撃に全ての力を懸ける! ”ガジャラ・ドン・バイロクル”【爆華の奇跡】‼」


 バンカバームはガオドラスの拳と衝突する。バライバは力を振り絞るが、ガオドラスの勢いに後ろへと徐々に押し戻される。バライバは歯を食いしばり、耐える。その時、バライバはバンカバームを持ちながら魔法を唱える。


「ぐっぐっ……ぐぐ……今だ! ”バオチャー”【爆発】」


 茶の魂色魔法による爆発がガオドラスの足元に起きる。すると、ガオドラスは体勢を一瞬だけ崩した。バライバはその隙を逃さずにガオドラスの拳を弾き返し、もう一度身体を一回転させて、バンカバームを胸に叩きこむ。


「吹き飛べええぇッ‼」


 バライバの渾身の一撃でバンカバームから大輪の花のような火花が弾け散る。バライバはもう一歩前へと踏み出して、歯を食いしばりバンカバームを振り抜くとガオドラスを壁目掛けて吹き飛ばした。


 一撃をくらったガオドラスは耐え切ることが出来ずに血を吐き出して、完全に意識を失った。と同時に勝ちを確信したバライバは元の大きさに戻ったバンカバームを持ちながら拳を天に掲げ、倒れる。


「へへ……見やがれ。俺の勝ちだ!」


 ルビーの扉の先、溶岩の間によるバライバ対ヘンベル盗賊団タイガー隊隊長ガオドラスのド根性決戦はバライバの勝利で幕を閉じた。


 ◆◇◆

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