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第五十四話 始まった争奪戦

 後ろでレイとエルが話をしている。


「これじゃまるで追いはぎね」

「まあデュラクシウムを手に入れるっていうのもやっていることは泥棒と変わらないからね」


 こっちの存在に気がついたヘンベル盗賊団はおれたちの姿を見て後退りしている。その中の一人が叫んだ。


「まさか、黒髪に空色の瞳のガキ……あいつだ! あのガキどもが俺達の仲間のフクロウ隊やキツネ隊をやったんだ」


 その言葉に呼応するように逃げようとするものから仇を討とうとするものまでいろいろな奴がいる。


「勝てるわけがねえ。コング隊もまさかあいつらが……逃げるんだ」

「バカ言ってんじゃねえよ。ここで逃げたらヘンベル盗賊団の名折れだぜ。そうだ! 隊長だ。誰か隊長に報せんだ。あの人を逃がさねえと。それまで時間稼ぎだ!」


「任せろや! おーいお前ら、ここの四人のガキどもが鍵の欠片を持ってるぞ~」


 ヘンベル盗賊団の言葉に反応した他の奴らが戦闘をやめてこちらに視線を向けてくる。マズいぞあの野郎ハッタリをかましやがって、鍵の欠片を持っているのは嘘じゃないがこの場にいるヘンベル盗賊団以外の奴らまで敵に回った。


「他の敵は全部無視して奥まで向かい、こいつらの隊長を倒して鍵の欠片を手に入れる。そうしないと今ここで逃げられでもしたら追いかけようがなくなる」


 おれたちは作戦通りにヘンベル盗賊団が逃げていった方向に向かって突っ走る。当然他の敵からの妨害を受けるが躱してからグリンドを直撃させて何人か吹き飛ばす。


「遠くの弓持ちが厄介だな。エル‼ 頼んだ」

「”インパクト・ショット”【波動弓】」


 エルは矢に風の魔法を纏わせて直撃と同時に敵を吹き飛ばす矢を放った。これなら走りながらでもある程度の位置さえ掴めていたら敵を吹っ飛ばせる。


 敵の猛追を振り切りながら、洞窟の先へと進んで行く。それにしてもおれたち以外にこれだけの奴らがデュラクシウム目当てでやって来ていたとは思わなかった。今まで遭遇しなかったのは相当運が良かったに違いない。


 おれたちが洞窟の奥までやって来ると、そこには十数近く扉があった。どれもが宝石で作られている。一体あれを作るだけでいくらかかるんだ?


「おい! 何だよこの扉の数はよ⁉」

「落ち着けバライバ。よく見ると敵が複数に分かれて別の扉に入ろうとしてる。多分どれかが隊長だ」


 おれたちの追跡に気がついた敵の内の一人が叫ぶ。


「敵が来やがったぞ。隊長を別の場所へお連れしろ! 他の奴らは分散だ」


 敵が続々と扉へと入っていく。敵は丁度四つに分かれた。ここで閉められたら追いかけようがない。となったらもう賭けに出るしかない!


「扉を閉めさせるな! 開きっぱなしの状態にするか破壊するんだ!」


 ”グリンド”【衝撃波】。

 ”フォウ・フーラン”【暴風】。


 魔法が敵が逃げて行った扉に直撃して開いたままの状態になった。ここで再び別れないといけないのが心配だが、皆なら大丈夫だ。ヘンベル盗賊団に負けはしないだろう。


「全員それぞれの扉に入るんだ!」

「ちょっと待ってみんな。もしも、その場から逃げたりとか合流できなかったりしたときのためにこれを持っておいて」


 そう言ってレイは一人ずつに石ころのようなものを手渡した。


「何これ?」

「エル、捨てないでよ。これは魔法がかけられた鍵みたいなもので扉に入る前に投げて当てるんだ。そうすれば僕とディールの知り合いがいるところに繋がる」


「ゴランドの部屋か!」

「ディールが寝ている間に貰ったんだ。どうしようもなくなったらこれを使って逃げて」


 おれはゴランドの部屋へと繋がる石ころをポケットにしまった。それから皆に手短に声をかける。


「勝って合流出来たら、バライバのメシを食うぞ」

「「おー!」」


 おれたちは再開の誓いをすると、それぞれの扉を通って別れた。


 おれが通ったのは紫色のアメジストで作られた扉だった。その先はコング隊が死んでいた部屋のような場所だった。綺麗な大理石で出来たホールのような場所。ここは究幻迷宮内では俗にいう何でもない部屋の一つだろう。


 入るとすぐ横に扉を閉めようとしていたヘンベル盗賊団の団員がいた。おれは速攻で二人を斬り倒す。更に部屋の中にはヘンベル盗賊団が数人いた。だが隊長らしき奴は見当たらない。ここはハズレか。


「だはは‼ 残念。ここには俺達の隊長はいねえよ!」

「おめえはここで終わりだ!」


 敵が武器を構える。


「アンタらは何隊なんだ? 今までの傾向から行けばどうせ動物だろ」

「どうせとはなんだ⁉」

「そうだな~ドッグ隊とかキャット隊とかか?」

「ちげえわ! 俺達は泣く子も黙るヘンベル盗賊団の三本指に入る実力チームの一つ。タイガー隊じゃい」


 ヘンベル盗賊団ってのは想像していたよりもデカい組織みたいだな。


「隊長さえいればな。お前らなんか一発でぶっ飛ばしてくれるわ。といっても油断はしねえぞ。時間はしっかり稼がせてもらうぜ!」


 なんだかこのセリフ他の隊でも聞いた気がするぞ……。まあいいや、さっさと倒して皆の所に援護に向かおう。


 おれは近くの敵を三人一気に撫で斬りにする。その様子を見た敵は恐れおののきながらも覚悟を決めたのか、それから逃げるようにして立ちまわり始めた。


「この野郎! 逃げんなよ」

「くそぉ、死んでも時間は稼いでやる。超希少金属を手に入れるのはヘンベル盗賊団なんだ!」

 

 おれが苦戦していると扉から更に援軍がやって来る。その援軍は泣き喚きながら部屋に入って来た。


「兄貴! 後ろから別の敵が追いかけてきて、ほとんど全滅しちまったよ~」

「何だと! どいつだ。まさか……報告にあった騎士どもか⁉」

「そうだよ~。もうおしまいだぁ」


 騎士だと? まさかな……。結果、おれは気になりはしたが先に部屋にいる敵を全員倒すことが出来た。すぐに入って来た扉へと行くが、そこは既に閉められていた。多分、援軍が来た時に閉めたんだ。これじゃさっきの洞窟に戻れない。敵の作戦にまんまと乗っかってしまったか。他の皆は無事だといいんだけど。


 おれは他の皆と合流を図るためにも更に別の部屋へと続く扉を開くことにした。部屋の扉を開けた瞬間、そこは深い闇に包まれていた。冷たい空気が足元から這い上がり、まるで迷宮そのものに飲み込まれるような錯覚を覚える。しかし、一歩踏み込んだ瞬間——パッ!


 無数の光が一斉に灯る。壁に並ぶ巨大なモニターのような魔導水晶が青白く輝き、迷宮の各所を映し出している。錯綜する通路、戦う戦士、さまよう影——それら全てがこの部屋で監視できるように映し出されていた。


 部屋の中央、人には似つかわしくない程にひときわデカい椅子に座る影が浮かび上がる。玉座のようにそびえ立つその椅子は漆黒の金属で作られ、肘掛けには不気味な紋様が刻まれている。


 天井は高く、まばゆい光源が幾筋もの光条を生み出している。だが、それは温かな輝きではなく、鋭く、冷酷な印象を与える白い光。壁のいたるところには黒曜石のような装飾が施され、まるで迷宮の意志そのものがこの空間を構成しているみたいだ。


 この部屋こそが迷宮の心臓部。最奥に間違いない。光源が照らす位置を変えて、中央の椅子を照らす。それから椅子が回転してこちらに向く。奴が……中央に座するアイツこそがこの迷宮の支配者だ。


「おめでとう。君が一番乗りなんだね。ワタシはこの究幻迷宮のマスター、アドラシウス。よろしく、ディール・マルトス。君の活躍はここの魔導水晶で見ていたよ。ユシアとの戦いは見入ってしまって呼吸が出来なかったよ」


 この声は間違いない。迷宮に最初に来た時に聞いた声だ。


「待てよ、なんでおれの本名を知ってるんだ?」


 おれはこの迷宮に来てから一度も姓を名乗ったことは無いはず。コイツが知っているのはおかしい。


「簡単な話だよ。君の事をワタシが一方的に知っているのさ。運命の軸を持ち、更にはフォルワに一人だけの青色の魂色を持つ男。これらは全て予言の書に記されていたものさ」

「おい! どういうことだ。予言の書は、一年前にカミオン帝国に奪われているから読めるはずない」

「そこから説明しようか。何、君にはワタシの命を救ってもらわないとならないからね」


 どういう意味だ。コイツの言っていることが呑み込めない。


「予言の書を読んだことはあるかな? あれは現代のフォルワ語に翻訳されたもので世界に数冊存在する。ワタシは過去にその内の一冊を読んだことがあるというだけさ」

「それは今どこにあるんだ」

「もうここには無い。盗みに遭ってね。しかし、その予言の書には願えば全ての事を知ることが出来るという力がある。そしてワタシは自身について知ろうとした。そこに書いてあったのはワタシは究幻迷宮の侵入者である騎士によって殺されるという記述さ。そしてワタシは考えた。いろんな者に聞いて回った。その結果、一つだけその予言を覆す方法があることを知った」

「それが”運命の軸”か」


 おれがそう言うと、支配者は口角をあげてどこか嬉しそうな表情になった。


「ご明察。情報によれば運命の軸を持つ者が関与すると予言の書で決められた運命を捻じ曲げる力があるそうだ」

「なぜおれが運命の軸を持っていることを知っているんだ」

「どこまで言ったらいいものか……一つ言えるとすれば、それもとある情報筋から得たものさ。これ以上は秘匿の契約だからね。何も言えない」


 両者の間にしばらくの沈黙が流れる。それからまた支配者は口を開いた。


「ワタシからの願いは一つ。ワタシを死の運命から救って欲しい」

「だったら報酬にデュラクシウムを渡せ」

「そう言うと思ったよ。しかし、そればかりは出来ない」

「ふざけるな! だったらおれはアンタを救えない」

「いや、君はこの戦いに関わった以上、戦わざる得ないはずさ。何せ敵は七玹騎士なんだからね」


 何だって⁉ やはり侵入者の中に七玹騎士もいたのか。ということはおれは嫌でもコイツを助けることになるわけだ。


「既に鍵の欠片の一つは七玹騎士側に渡っている。倒して奪わなければデュラクシウムを手に入れることは叶わないよ。それに今、最後の鍵の欠片を巡って、七玹騎士とナナシ君が戦っている。急いだほうがいいんじゃないかな?」

「分かったよ。七玹騎士を倒して、デュラクシウムも手に入れる。その結果としてアンタを助ける。これで文句はないだろ」

「あと一つ、追加してくれ。ワタシを興奮の絶頂へと導く戦いを見せてくれ!」


 今すぐにでも叩き切ってやろうとも思ったがそうしたらデュラクシウムを手に入れることが出来なくなる。おれは気持ちを抑え込んで、支配者に頼み込む。


「今すぐ扉をその七玹騎士とモノノフがいる場所に繋げてくれ」

「それぐらいならお安い御用。この部屋からでも部屋間の移動は操作できる。面白そうな組み合わせになるようにね。さあ行くといいよ。仇だといいね」

「黙ってろ! 高みの見物をしているだけの誇りの欠片すら持たない男が!」


 おれは自身の復讐をただの娯楽として外から楽しもうとする支配者に怒りを覚え、扉をグリンドでこじ開ける。先にいるはずの七玹騎士を目指して。

読んでくださった方ありがとうございます。よろしければブックマークと評価をお願いします。

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