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第五十一話 優勝者決定

 モノクル男が魔法のような言葉を唱えながら、矢筒から矢を数本取り出した。矢は魔法のオーラのようなもので包まれており、一本ずつが違うカラーリングだ。何を仕掛けてくるつもりなんだ?


「我が師より教わった連携術と戦法をとくと見よ。ラゼルから順にミレイン、ガルヴァスで動け」


 モノクル男は矢を素手で投げると地面に突き刺さり、その場所に矢に纏われていた魔法のオーラが溶け出すように流れていき円のようなものを形成した。そして、その上にフォルワ語で数字が出てきた。一から七まである。


 魔法の円にモノクル男以外の三人が入っていく、すると魔法の円は敵に吸い込まれるようにして消えた。


 あれは何かヤバイ気がする。おれは防御を捨てて前に飛び出す。


「ディール! 危ないよ下がって!」


 レイに止められたがおれはそれを無視する。モノクル男は次々と矢を刺していく。まるで盤上でやる駒遊びみたいだ。あの色に何か秘密があるのか? それとも数字か? 謎を解こうと躍起になっていたらいつの間にか前と後ろを囲まれていた。それから何もすることが出来ずに攻撃を直接受けてしまう。


 攻撃を受け流すことも躱すこともできない。どうなっているんだ⁉ まるで動き自体を読まれているような……いや闘技場という盤面を支配されて奴の思い通りに動かされている感じがする。


 おれ以外の皆もなす術もなく敵の攻撃をくらってしまっている。頭からも口からも血が滴り落ちる。視界がぼやけ始めた。かろうじて致命傷は避けているが、今のままではどうすることもできない。


 よろけていると斧男の一撃が飛んでくる。おれはなんとか剣で受けきったが勢いを殺せず、壁に衝突した。ふらつく足を抑えながら立ち上がるとすぐに他の敵からの追撃がきた。おれは耐え切れずにそのまま地面に倒れ込んでしまう。


「どうなってんだよこれは⁉ なんで俺達の攻撃は当たらねえのにこいつらの攻撃はこんなに当たんだよ!」

 

「レイ! ディールを守ってあげて」

「エルは?」

「私はあの指示を出している人を止める」


 エルは素早い身のこなしや風の魔法で敵の攻撃を受け流してモノクル男へと近づいていく。


「ディール、立てるかい?」

「無理っぽい。思ってたよりも傷が深いみたいだ」


 バライバは他の敵をエルに近づけさせないようにしている。しかし、ここまで耐えてきたバライバも敵の猛攻の前に膝をついてしまった。


「”スラスト・フーラン”【天穿風】」


 エルが魔法を唱えると持っていた矢は風に包まれて針のような形状の武器になった。エルはその武器でモノクル男に近接戦闘を仕掛ける。


「私を狙えば勝てると思ったか。後ろにいるからと言って弱いとは限らないよ」


 モノクル男は剣を取り出すとエルの攻撃をいとも簡単に受け流す。


「言っておくがこの四人の中で一番強いのは私だ」


 エルはモノクル男の攻撃によって吹っ飛ばされてしまった。しかし、エルは空中で弓を引いてさっきまで使っていた風の針をつがえて射った。矢は直撃はせずモノクル男の頬を掠めた程度だった。


 それからというものこちらは防戦一方で気が付けば中央に全員集められていた。横目に見えたが魔法の円のカウントが九十九まで進んでいる。


「それではフィニッシュといこうか。記念すべき百コンボ目だ!」


 敵は四方に散っている。それに地面にはさっきまでなかったはずの星形の魔法陣が出来ている。何か大きな魔力が来る! 頭上には百の数字が。


「全員、防御を固め……」

「”エクリプス・カルテット”【四重・連星砲】」

 

 魔法陣が輝きだして魔法による高出力攻撃が発生する。おれたちはそれを全身に浴びる。痛みで四肢がもげそうだ。


「ぐぁあああああ‼」


 おれたちは全員痛みに耐えきれずその場に倒れこんだ。そして気絶する寸前、耳には無情にもあの声が残った。


「勝負あり。究幻迷宮杯優勝者はステラ・カルテットです。皆様英雄に盛大な拍手を!」


 おれたちは……無様に敗北した。


 目が覚める。痛みで全身が悲鳴を上げているが、無理矢理身体を起こす。ここは……闘技場の控え部屋か。身体中には応急処置のつもりなのか包帯が雑ではあるが巻かれている。近くには皆もいる。少しだけ安心した。


 おれは立ち上がり、右足を引きずりながら歩き出す。さっきの連中を探し回る。闘技場内の部屋をいくつか回っているとようやく発見した。連中はおれの姿に気が付くと思っていたよりも友好的な態度を示した。


「おお君はさっき戦った子供じゃないか。まさかあの魔法を受けて生きてるだなんて丈夫だね~」


 モノクル男は優勝賞品を確かめながら茶を嗜んでいる。


「モノクル……さん。教えて欲しいことがあるんだ」

「モノクルさんとは変わった呼び方じゃないか。是非とも私のことは名前のエリオットと呼んでいただきたいものだな」

「それはそうだな。それでその……エリオットさん。単刀直入に聞くと、どうしておれたちは負けたんだ?」


 エリオットはティーカップを置くと先程までの優しい目つきから戦っていた時の真剣な鋭い目つきに変わった。


「負けた相手にその理由を問うか。恥を知った方がいいんじゃないかな?」


 おれには返す言葉もなかった。エリオットは話を続ける。


「失敗から学べることもあるからね。仕方ない、理由など単純。そちらの方が弱かったから負けた……という答えでは不満かな」

「そうなんだろうけど、それだけじゃない気がするんだ。根本的な戦い方とか連携とか」

「確かに個々の力だけならこちらが少し上回っていた程度で大差はなかっただろう。しかし、私には戦術がある。仲間の力を最大限に引き出すものがな。君らの戦い方はまるで統制の取れているだけの野生の魔物の群れと変わらないからね。君も少しは学んだらいいよ。多対多の戦い方の術というものをね」

「丁寧にどうもありがとう」


 おれはエリオットに対して頭を下げてお礼を言った。すると、エリオットは袋をおれに手渡してきた。


「これを患部に塗るといい。怪我によく効く薬草だ。それと、賞品の中に鍵の欠片らしきものは見られなかったよ。君も確認してみるか?」

「これまたどうも、じゃあお言葉に甘えて」


 優勝賞品を確認したが確かに鍵の欠片は無かった。おれがその場を去ろうとした時、最後にエリオットが声をかけた。


「あ~それと君自身の戦い方もやめた方がいいよ。まるで生き急ぐような、自らが盾になろうとするような……それじゃ長生きできんよ~」


 余計なお世話だ。おれは薬を持って皆の所へと戻る。おれに足りないのは学や知識か。確かに誰かに学んだことも無かったし、考えたことも無かった。レイなら勉強とかしてたはずだから聞けば教えてくれるかも。


 おれが待機部屋へと戻ると、皆はもう目を覚ましていた。


「皆、薬を貰って来た。これを傷が深い場所に塗るといいってさ」

「ディール……僕ら負けちゃったね」

「ん? そうだな。でもさ、気にしなくても大丈夫だぞ。優勝賞品を見せてもらったけどそこに鍵の欠片は無かった。つまりここはハズレだったんだ」

「えっ⁉ それならいいんだけれど……というかそういうことではなくて……」

「薬を塗って休んだらすぐ出発しよう。敵は待っててくれないからな」


 おれは荷物を持ってすぐにでも出発の準備をする。レイは何かを言いたげにしていたがそれを口にすることはなかった。おれは一足先に次の扉へと向かった。後ろでは三人が何かを話している。


「レイ、どうしたの? 浮かない顔をしているけど、どこか痛むの?」

「いやそうではないんだ。ディールの事が心配でね。今まではどんな敵が現れても自分たちで考えた技や魔法の力で乗り越えてきた。だけど今回はそれが通じなかったどころか、何もさせてもらえないような呆気なく情けのない敗れ方だった。それでディールの心が折れていないか心配でね」


「そんな心配いらねえんじゃねえか? ディールは元気だったしよ。それに負けた程度で折れるような柔な男じゃねえだろ。まあもしもへたれてたら一発殴ってやればいいだろ!」

「あなたはなんでそう野蛮なのかしら……でも、ディールがそんな簡単に折れないってところには賛同するわ」


「そうだよね。ディールは強いんだ。それに僕も一緒に強くなればいい。そうすればもう負けなくていい。よし! もっと戦い方についてディールと話し合おう!」


 レイは一足先にディールの元へと駆けていく。


「いいわね親友って感じで」

「ホントだぜ。俺はあんましダチとかいなかったからちょっとだけ羨ましく感じるぜ」

「私も友人は何人かいたけど、王女という立場上、どこか壁があったわ。あの二人はこれからどんどん強くなるわね。一緒にいればどこまでも」

「まあそれを支えてやんのも悪かねえな」

 

 二人もディールのあとを追いかけた。

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