第五十話 完璧な四重奏
再びゲートが開いて闘技場への道が繋がった。おれたちはそのまま先へと進んで行く。闘技場へ出るといつも通りのやかましい歓声が響き渡る。前方には既に入場していた敵がいた。バライバがレイの背中を叩いて声をかける。
「おいおい敵さんはどうやら四人組みたいだぜ」
「そうみたいだね」
「相手も四人でこっちも四人だ。誰かが一人ずつを相手すればいい」
ここから見た感じだと一人は鋭い金の瞳を持つ黒髪の青年。整った顔立ちだが、口元には小さな傷跡があり歴戦の猛者の風格を持っている。漆黒のロングコートに銀の装飾が施されており、肩には戦闘で受けた傷が刻まれた肩当てをつけている。
次の奴は白銀の長髪に紫色の瞳を持つ女性。しなやかで細身の体型。黒と紫を基調とした軽装の戦闘服。袖口や襟元には月のような模様の刺繍が施されており、足元は俊敏に動けるようブーツを履いている。
三人目は赤銅色の鎧を着た屈強な大男。ヴォルグよりもデカい。兜のせいで素顔は分からない。それにデカい身体に見合ったデカい戦斧とタワーシールドを持っている。
最後のは茶色の髪でセンター分け、先端の毛は外側にはねている。小さなシルクハットにモノクルを身に着けている。不敵な笑みを浮かべながら顎を撫でている。腰元に矢筒を携えているが弓は持っていない。
対面しただけで分かる。こいつらはさっきまでのお遊びで参加したような連中ともここで英雄気取りをしていた雑魚とも違う。こいつらは強い。
「獅子側からはこれまで圧倒的な強さを見せてきた”四星連陣”《ステラカルテット》。未だにその底は計り知れません。大鷲側より対するは”侵略者御一行”。こちらも質、量をものともせずここまで戦い抜いてきました。奇しくも両者の数は同じです。これより究幻迷宮杯決勝戦を始めます。開始!」
戦いが始まるとおれたちは武器を構えたが相手側はその様子がない。それどころか悠長にもモノクル男がこっちに話しかけてきた。
「君たちも外から来たみたいだね。我々も実は外から来たんだ。目的はこの優勝賞品と賞金かな?」
「金には興味ないし、何よりこのトーナメントには勝手に参加させられてんだ。商品なんか知るかよ」
「知らなかったのか⁉ ここの運営は意地悪だね~今回の優勝賞品は龍王の逆鱗さ。全ての魔法も攻撃も跳ね返すと言われている伝説の逸品! 数年探し回ってようやく手に入れる機会が巡って来たという訳だ。それ以外にもシークレットで賞品があるらしいが……君たちが要らないと言うのなら棄権してもいいよ」
賞品は一つじゃないのか。ということは鍵の欠片もあるかもしれないな。これまでの傾向からすると欠片を持っているのは守護者でそれぞれがここの支配者を楽しませることを主にしていた。ユシアは音楽、ダリオは料理、モノノフは分からないけど担当があるんだろう。ともすればこの闘技場だって例外ではないはずだ。守護者はここの声の主かはたまた興行主か。
賞品を渡すわけにはいかなくなったな。
「優勝賞品の中にはおれたちの欲しいものがあるかもしれないからな。鍵の欠片がさ」
「ほぅ鍵の欠片。それにも秘宝の匂いがするな。楽しみが一つ増えたよ」
「じゃあ正々堂々と戦って決めるか」
「そうさせてもらおう。勝つのは当然ながら我々だがね」
奴らも今の言葉で武器を取り出して構えた。おれは皆に声をかける。
「気を引き締めろ。レイは素早い動きでデカい斧男を頼む。エルはあのモノクル男の動きに警戒しながら援護してくれ。バライバはおれと一緒にあの黒髪男と銀髪女を倒すぞ!」
「各自、一旦遊んであげてください。その時がくれば指示を出します」
互いの指示を元に戦闘が始まった。男の方は片手剣に杖を持っている。女の方はダガーを逆手持ちにして両手に装備している。おれとバライバは息を合わせて攻撃を仕掛ける。男の方は下がって躱し、杖を振るうとそこから炎が飛んでくる。ダガー女の方はおれの攻撃を受け止める。
おれとダガー女が鍔迫り合いをしている所へさっきの炎の魔法が飛んでくる。それが直撃する寸前にバライバがハンマーを巨大化させて炎の魔法を叩き消した。
「助かった」
「感謝は勝ったあとでだぜ」
「どきなさい!」
「ぐっ⁉」
おれはダガー女に蹴りを入れられて少し後退りする。バライバの方は杖男に攻撃を仕掛けているが逃げ回られて捉えることが出来ない。
「ちょこまかと逃げてばっかりで上手く当てられない!」
エルはモノクル男を狙っているが相手は躱すだけで当てることが出来ない。ハナから戦う気が無いみたい。レイの方も苦戦を強いられている。想像していたよりも斧男の動きが早くてレイのスピードで翻弄できていない。
くそっ! 作戦を間違えたか。あの斧男をバライバに任せてパワー勝負に持ち込んでもらった方がいいのか? だが作戦を変更してその隙を突かれたら一気に崩壊する。どうすれば……!?
「余所見をしている暇はないでしょ!」
ダガー女が斬りかかってくる。おれが攻撃を受け止めるとすぐに横へ転ぶようにして回転した。それと同時に炎の魔法がおれに直撃する。おれがよろけた瞬間を狙ってダガー女の一撃をくらってしまった。脇腹に横一筋の傷ができて血が滲む。
それから結構な時間戦っているが一向に有効的なダメージを与えることが出来ていない。こっちの体力だけが削られていく感じがする。モノクル男も躱しきるのは不可能と判断したのか小さ目の剣を使ってエルの苦手とする近接戦を仕掛け始めた。
もうダメだ。これ以上はジリ貧になってこっちが負けちまう。おれは皆に聞こえるように声を出した。
「こっからは全力で行こう。魔法を使うんだ。闘技場を壊したっていい、やるぞ!」
「やっと堅苦しい戦い方をやめられるぜ」
「ようやく本気でやってくれるみたいだね。我々はそれを待っていたんだよ。全力の敵を叩かなければ本当に勝ったとも言えないし、あとでグダグダ言い訳を言われることもないからね」
モノクル男め、そのにやけ顔もここまでだ。おれは剣を振りかぶってから魔法を唱える。他の皆も魔法を唱えた。
「【大火輪】‼」
おれが剣を振ると蒼い炎が環になってダガー女へと飛んでいく。ダガー女は弾こうとしていたが途中で無理と判断したのか回避した。炎の環はそのまま飛んでいき観客席を炎の熱で溶かす。近くにいた観客は危険を察知して悲鳴をあげながら逃げていく。
「それを待ってたんだ。反転しろ」
おれが魔法を操作すると炎の環は軌道を変えてダガー女の背中に直撃した。他の皆は大丈夫か。
「エイリレ流剣術、【剛の構え・盾砕き】」
「”スラスト・フーラン”【天穿風】」
レイの体重を乗せた一撃は敵の盾を真っ二つにして鎧にヒビを入れた。斧男は衝撃で後ろにすっ転ぶ。エルの風は槍のように鋭く尖って周囲の空気を巻き込みながら強大になっていきながらモノクル男に肩を掠めた。奴の肩は抉られたような傷が出来ている。思わずモノクル男は膝をついて怪我した部分を片手で抑えている。
「おーしあとは俺に任せろ! 全員後ろに下がりやがれ」
バライバが渾身の一撃を放つ前におれたちは出来る限り安全そうな場所へ避難する。奴らはモノクル男を中心に固まっている。
「バンカバーム”爆震”形態。一撃粉砕! ”ガジャラ・ガルセドン”【爆玉髄破】‼」
バライバの振り下ろしたハンマーが地面に触れた瞬間、砂が震えてほんの一瞬の間だけ波がたった。そのすぐ後にとてつもない大爆破が起きて敵を包み込んだ。衝撃による砂埃がこっちまで飛んできてまともに目が開けられない。
これだけの大爆発だ。無傷で済むはずがない。粉塵が収まったから奴らの姿を探す。どうなった…………嘘だろ⁉ 奴らは傷どころか砂汚れすらもなかった。
「ディール! 彼らまだピンピンしているよ!」
「嘘でしょ……あれだけの攻撃を受けて……あれはまさか」
「どういうことだよ⁉ 俺の攻撃が効いてねえなんてありえねえぞ! 説明してくれやエル」
「あの魔法は防御魔法をただ重ねただけじゃない。四人の異なる防御魔法を融合させたもの。実現可能だなんて……あれじゃ私たちの攻撃が通らなくて当然だわ」
「流石は魔法に詳しいエルフだ。この魔法の防護壁を見ただけで理解するとはね。とはいえこれを使わされるとは思わなかったよ。プロシルドにミスティック・ヴェールやフォートレス、グランドガイアを合わせることで無敵の壁の誕生ってわけだ。と、いう訳で今度はこちらの番かな?」
モノクル男が手を叩いて合図を出すと他の仲間が少し離れた位置に移動した。おれたちは攻撃に備えて構える。
「連携のお手本を見せましょう。”コンボ・エンハンス”【連携式】」
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