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第四十九話 ぎゅうぎゅう詰め

 ブラザーズって書いてあったもんだからてっきり二人組かと思っていたがそうじゃなかったみたいだ。まだまだ数が増えている。もう面倒になって数えるのもやめた。相手は人間だけじゃない、蜥蜴竜族に立派な二本の角が生えて所々毛むくじゃらな角嶺族《ホルニス族》までいる。


 それ以外にも見たことのない種族がいた。肌が青白くて謎の紋様がついている奴らに身体が岩石で出来ている奴ら。相変わらずこっちの地方には見たことない種族がたくさんいるんだな。


 気が付けば対戦相手だけで闘技場の半分を占めていた。いったい何人いるんだ? おれは近くにいたバライバに質問をする。


「なあバライバ、あそこの青白いのとか岩石の奴とかって何て種族なんだ?」

「んあ? あの血色が悪そうなのは知らねえが岩で出来てるのは知ってるぜ。あいつらは剛岩族《ガルドン族》って名前で身体が頑丈な岩石や宝石で出来てる。魂色は俺達と同じ茶色が多いな」


「もう一つ大事なことを忘れてる。彼らはドワーフが嫌いなのよ。間違えて砕かれちゃうから」


 エルが補足するように説明をした。それに対してバライバは言い訳するでも反論するでもなくただ渋い顔をして認めていた。


「それも事実だな。剛岩族はドワーフを嫌ってる。過去にそういう因縁があったらしいからよ」


 敵側の入場がようやく終わると、闘技場にいつもの声が響き始める。


「獅子側は究幻迷宮屈指のならず者集団”ゴロツキブラザーズ”! 彼らは四十七人の義兄弟として参加しています。一回戦はその数の多さで圧倒しました」


 義兄弟でブラザーズってそんなのありなのか?


「対する大鷲側は赤牙のヴォルグを一瞬でのした”侵略者御一行”です。これに勝った方が決勝へと駒を進めます。それでは二回戦第二試合開始です」


 試合が始まった。作戦を話し合う間もなくだ。正直ここで魔力は使っておきたくない。この戦いが終わればすぐにでも決勝で戦わされるだろう。相手がどんなものか分からない内は魔力の無駄な消費だけは避けたい。とはいっても守護者ユシアの時のこともある。なめてかからないってのも大事だ。


 そうこう考えているうちに敵が大勢で突っ込んできた。おれは皆に指示を飛ばす。


「数は多いが大したことは無いはずだ。おれとレイは蜥蜴竜族と人間、エルは後方から援護しながら青白い奴らの対処を頼む。バライバは主に剛岩族だ!」


 おれたちは作戦通りに戦う。おれは剣を引き抜いて、敵三人の攻撃を同時に受けてからはじき返す。よろめいたところをすかさず一人を斬りつけてもう一人の腹を蹴り飛ばした。


「レイ、無理すんなよ。さっきのもヤバイ魔法だったんだろ」

「大丈夫だってディール。だけど、一応魔力は温存させてもらうよ。確かにさっきの魔法でかなり魔力を持っていかれちゃったんだ」


 レイはそう言いながら華麗な剣捌きで全ての攻撃を受け流して周囲の敵を倒した。それにしても殺さずに戦うってのはやっぱり難しい。死なない程度に攻撃はしているが浅いと起き上がって再び武器を手に取って向かってくる。いくらおれでもカミオン帝国や獄冥会のような敵以外の命までは取りたくはない。


 何人かを斬り伏せると蜥蜴竜族がその大きな拳で殴りかかって来た。おれは咄嗟に一歩引いてから腕を引いて魔法を唱えてながら拳を突き出す。


「頑丈な蜥蜴竜族ならこれぐらい耐えられるだろ。【蒼覇拳・篝火】!」


 おれの拳が蒼い炎を纏いながら激突した。蜥蜴竜族はそのまま周りの奴らを巻き込みながら壁へと吹っ飛んだ。


 おれは戦い方を変えて剣の腹で相手の頭を殴って気絶させることにした。こっちの方が加減しなくてもいいから楽だ。


 どうだ……結構な数を倒したはずだが。横目でバライバがハンマーを振り回しながら剛岩族を追いかけまわしているのが見える。


「どらああああ! 待てよごらあああああ!」

「ひぃいいいいい⁉ ドワーフだ、粉々にされるぞ! もう無理だ危険だ。そんでもって棄権だ!」


 たまに上空から敵が飛んでくるのはバライバの仕業か? きっとあいつがハンマーで敵を吹っ飛ばしてるんだろ。


「おーいバライバ。敵をこっちに吹っ飛ばすのは勘弁してくれ」

「無理言うな! そんな器用なマネは俺にはできねえぜ」


 エルは正確に敵の肩や足を射抜いて動けなくさせている。レイも飛び回るように立ちまわって敵を翻弄している。それぞれが戦いを続けていると自然と数が減っていき近くに敵はいなくなった。


「終わったか?」


 おれが残っている敵がいないか確認していると後方から声が聞こえてきた。


「動くな!」


 声が聞こえてきた方を確認すると、エルの首に腕を回して頬にナイフを突きつけている奴がいた。


「今すぐ降参するんだな。さもなければこのエルフの命はないと思え」


 エルを人質に取っているのはあの青白い奴だ。それにしてもどうやってあのエルに近づいたんだ? 彼女が気配に気が付かないはずがない。あの種族特有の何かがあるに違いない。


「許さないぞ……おまえ」


 レイは完全に頭に血が登っている。


「おっと動くなよ、ブロンドの人間。お前の魔法は橙の魂色による魔法だろ。魂色魔法が使えるとは珍しいが、その加速で近づこうとしても無駄だぞ。お前が近づくよりも早く私のナイフがこのエルフの頭を裂く」


 勝つのも重要だけど、エルの命には代えられない。ここは棄権するしか……待てよ。青白いのよりも更に後ろに微かに見える。あれはメゼルか! おれはポケットにいるバサンに声をかける。運がいいことにおれの声は歓声に紛れて奴には届かない。今だけはこのうるさい観客の声に感謝しなきゃな。


「バサン、いるんだろ。疲れてる所悪いんだけどさ、もう少しだけ頑張ってもらうぞ。メゼルと一緒に奴を倒す隙を生み出すんだ」


 バサンはポケットから飛び出すとバレないように倒れた奴らの陰に隠れながら地面をトコトコ歩いて少しずつ青白い奴に近づいていく。


 おれはバサンが到着して実行に移すまで時間を稼がないと。


「そのよ~降参する前に一つ聞きたいんだけどさ~」

「なんだお前は?」

「まあそうかっかしないでさ。アンタはなんて種族なんだ? 見たことが無いから気になってよ」

「この月明りの肌、そして身体の月の満ち欠けを表した紋様……私は月霊族《ルーミリス族》の生き残りだ」


 月霊族って聞き覚えが無いな。それに生き残りってどういう意味だ? 今の話を聞いたことでエルが喋り出した。


「思い……出したわ。種族間の争いに負けて領土を失いその数を減らしたとか」

「黙れ!」


 激昂した青白い奴はナイフを振り上げた。それと同時にバサンが勢いよく嘴で相手のつむじを一突きした。痛みで動きが一瞬止まり、その間にメゼルが前に飛び出して魔法を放った。


 身体から強烈な光を放ち、青白い奴の目を眩ませる。拘束する力が弱まったのかエルは腕を振りほどいて敵の顎を思い切り蹴り上げた。


 強烈な蹴りを受けた敵は気絶してその場に倒れた。これで全員倒したはずだ。ほどなくして会場に声が響き渡る。


「二回戦第二試合は大鷲側侵略者御一行の勝利です」


 観客は一回戦の時の倍ほどの歓声をあげた。この調子だと決勝戦のころには耳の鼓膜が破れそうだ。


「決勝戦は休憩時間の後に執り行います。それではしばしの間、お待ちください」


 おれたちはさっきのようにゲートをくぐってさっきの部屋へと戻った。今回ばかりは数が多かったからか皆に疲れが見える。椅子に腰かけてエルに話を聞いた。


「月霊族の話をもう少し聞いてもいいか?」


 おれがそう聞くとレイが間に割って入り止めた。


「そんなことよりも怪我はない?」

「うふふ、大したことないわ。優秀な精霊たちのおかげね」


 レイの慌てようにエルは面白かったのか笑いながら返した。それから褒められたバサンとメゼルは嬉しそうにエルの上空をふわふわしている。


「それと月霊族については他に詳しくは知らないのよね。でも、これだけは分かる。数を減らした種族が生きていくには他の種族や集落に寄生するような形でしか生きていけない。誇りを持っている者達からすれば屈辱以外の何物でもないけれど種を絶やさないためにそうするしかない。彼もまたその一人というわけ。そういう種族は少なくないわ」

「そうだったのか……」


 アルテザーン地方が抱えている問題の一つを知ったおれは次の戦いに備えて少しの間だけでも休む。しかし、ゆっくりすることもできないまま声が響いた。


「それでは決勝戦を始めるのでゲートの前にお集まりください」


 勝てば何を貰えるのかいまだに分からないが戦いとなった以上は負けるわけにはいかない。何をすれば鍵につながるかも分からない状況だ。だからこそ次も必ず勝つ。

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