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一途な愛と執着と   作者: 木蓮
2/2

(後編)

「........わかりました。シャー様に我儘を申し上げました。大変申し訳ございませんでした」



シャイマスの胸から体をそっと離し、涙を拭う事もなくリーズフィナはカーテシーをした。

自分がリーズフィナを拒絶したのに、いざ自分の傍からリーズフィナの温もりが消え、リーズフィナが口にした呼び名に

シャイマスの胸は激しく軋んだ。



「....もうお会いする事は無いでしょう。シャー様のこれからが幸多いもので在ります様に」



顔をあげた際の、リーズフィナの泣き笑いの笑顔に、シャイマスの足が知らずのうちに地を蹴った。



「リーズフィナ、すまない。恨むなら不甲斐ない私を恨んでくれ。君の輝かしい将来を祈らなければならない身なのに、この手を離してやれない」



きつく自分の腕の中にリーズフィナを抱きしめ、シャイマスがつぶやく。



「シャー様、本当に宜しいのですか?シャー様の一夜をわたくしにくださるのですか?」



シャイマスの腕の中で、リーズフィナは身を震わせながら問いかける。



「一夜なんかじゃない。ずっとだ。リーズフィナ、これからずっと一緒に、共に時間を過ごして欲しい。愛しているんだ」



「シャー様...。わたくしもシャー様だけをずっと.....」



バラが咲き乱れる庭園で抱き締め合う二人。

しらじらと照らす月の明かりだけが、そんな二人をそっと見守っていた。








晩餐の数時間前。


「父上様、わたくしどうしても叔父様の花嫁になりたいの」



リーズフィナは父、シルバーの執務室でそう宣言した。



「シャイマスのか?リーズフィナ、まだ諦めてなかったのか?」



領地からかの書類に目をとおしていたシルバーが、執務机から顔をあげてリーズフィナを見つめる。



「当り前ですわ。わたくし、将来を共にするのなら叔父様と子供の頃からずっと決めておりましたもの」



シルバーの視線の先にあるソファーに座りつつ、リーズフィナが答える。



「まぁ、確かに。6歳の時にシャイマスの足に縋って嫁になると泣き喚いたお前の姿を見て、『血は水よりも濃し』という諺を思い出して絶望したのを思い出したよ。流石、我が子だ、とな」



「父上様、それはどういう意味ですの?」



首をかしげるリーズフィナ。



「いや、私もフランシスを妻とすると決めたのは、お前と同い年の頃だったからね」



「母上様の事を?母上様は父上様の事をどう思ってらっしゃったの?」



小さく嘆息して、シルバーは執務机から立ち上がり、リーズフナの向かい側のソファーに座った。傍に仕えたいた執事に紅茶を用意する様に指図する。



「その頃のフランシスは、シャイマスの事が好きだった。シャイマスも勿論フランシスの事が好きで。だが、私はどしてもフランシスを諦めたく無くなくて、色々と手を尽くしたよ。フランシスが私の手を取るしかない様に、ね」



執事が用意した紅茶を口にしつつ、リーズフィナに視線を向ける。



「父上様」



少し困った様な表情を浮かべるリーズフィナ。



「シャイマスはそれでも私の親友でいてくれ、私とフランシスをずっと見守ってくれた。フランシスが旅立った後は、彼女の願いを聞いて、リーズフィナの傍で見守ってくれた。私はシャイマスにとても感謝しているんだよ。あいつの幸せを願っているんだ。だから、シャイマスが心から望めば、リーズフィナとの事は反対はしないよ?フロンタールの後継については、まぁ、いずれその時に考えれば済む事だしね」



シルバーが淡々と告げると、リーズフィナが嬉しそうに声を上げた。



「父上様!では.....「ただし、シャイマスが望めば、だよ?シャイマスは、口にはしないがフランシスの事をまだ想っているからね。ましてや今はの際、想い人から頼まれた願いを破る様な事をあいつがするかどうか。見ものだね」



執務机から見える場所に飾ってあるフランシスの肖像画を目にしながら、シルバーはリーズフィナを見て、そう告げた。



「父上様、そんな事をおっしゃらないで下さい。父上様に言われなくても、そんな事、嫌になる位分ってますわ。これまでだって、どれだけ叔父様にわたくしを見ていただける様に努力してきたか。でも、叔父様の目には、わたくしの事は、親友の娘としてしか映ってはおりませんでしたもの」



大きく溜息をついて目を潤ませるリーズフィナ。小さな子供と思っていたが、いつのまにか一人の女性として花開く寸前に成長していたんだなぁと、シルバーは感慨深く思った。



「仕方がないな。愛しい娘のたっての願いだ。魔法の言葉を教えてやろう。それを口にしたら、きっとシャイマスはお前の事を見てくれるだろう。ただし、使うタイミングを間違えるなよ?そこまでは、私の知ったことではないからな」



「ありがとうございます、父上様」



リーズフィナがシルバーの胸に飛び込んで抱きつく。



「なんだ、まだまだ子供だなぁ」



首に縋りつくリーズフィナの背中を宥める様にトントンと叩きながらシルバーは仄暗く笑った。








晩餐から数時間後


「お嬢様とルブチニーダ侯爵様は、侯爵様に御用意させていただいた客室に.........」



執事が少しためらう様にシルバーに報告する。



「そうか、わかった。そのままにしておく様に。シャイマスもいい年をした大人だ。若者の様に()()()()事もあるまい。朝になったら、リーズフィナの侍女に様子を伺わさせる様に。その様子次第で、あとの事は任せる」



「旦那様、本当にお宜しいのですか?王室からの再三の打診も来ておりましたのに」



執事が、執務室の机の上に置かれたシルバーのトレイに積まれた手紙に、そっと視線を向ける。



「仕方がないさ。王家に嫁ぐのには、()()()()()()が条件だ。激情の余り、つい一線を越えてしまった親友と愛しい我が娘を、友として親として咎める訳にもいかないし、ましてや相思相愛の二人の仲を裂く事は出来ないからねぇ」



シルバーは煙に向いたような口調で、トレイから手紙を手に取り、ひらひらさせる。



「明日の朝一に陛下に詫び状を認めるよ。陛下はアムロン殿下と隣国の王女を婚姻させたがっていたから、渡りに船さ」



執事に朝一に王宮に手紙を届ける様に指示し、執事は深々と頭を下げ執務室を出て行った。



一人執務室に残されたシルバーは、フランシスの肖像画の前に立ち、話しかけた。



「やっとシャイマスも()()()()()()。ずっとフランシスを愛していたアイツがいなくなって、ようやくせいせいしたよ。

フランシスがシャー様と呼ぶと、アイツ、幸せそうに笑って。それが目障りでしょうがなかった。

やっとフランシスは私だけのフランシスになってくれたね。

今日まで長かった。でも、やっと君を想うのは私一人になった」



儚げに微笑むフランシスの肖像画に、シルバーはそっと口づけした。


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