第2章
「どういうお仕事をされているのですか?」
「自動車メーカーに勤めている。〇〇って、知ってるでしょ?」
「ええ、もちろん、知っています。大企業じゃないですか。エリートですね」
「エリート…かな?そういう実感はないけどね。作業着を着て、工場勤めだから」
「ふーん、工学部なんですね」
工学部という言い方が面白くて、光彦は微笑んだ。
「あっ、初めて笑った」
そう言われてみると、確かにそうだ。今日は朝からずっと笑っていない。今日だけでなく、最近笑うことが少なっている。
人、それも若い女性なので、話すのが楽しいのかもしれない。だから、見ず知らずの娘に問われるまま警戒心も持たずに自分のことをぺらぺらと喋っているのかもしれない。ちょっと自重しなければ……。
「食事はどうされているのですか?」
そんな光彦の気持ちなど知る由もなく、女は遠慮なく訊ねてくる。
「朝はトーストとコーヒー、昼は社食で食べて、夜はコンビニ弁当」
光彦は釣られて、つい話してしまう。
「そうなのですね。栄養も偏るし、味気なくはないですか?」
「いや、何年もこういう生活をしているので、もう慣れたかな。うるさく言われる煩わしさもないし、コンビニ弁当もいっぱい種類があるし、最近は味も良いしね」
「家庭料理とか食べたくならないですか?」
「家庭料理っていうか、ご飯と味噌汁に卵焼きに、あともう一品、ウインナーや塩鮭やたらこの焼いたものがあるみたいなシンプルな食事が好きなので、そういうのを朝ご飯に食べたいと思う時はたまにあるけど」
「家で奥さんはそういう食事は作らないのですか?」
「家に帰った時も、家内と娘の好みで朝はパンだよ」
「そうなんですね。そしたら私が作りましょうか?」
光彦は驚いて女の方を向いた。
何を言っているのか、どういう意味なのか、理解出来ずに顔の表情を読もうとした。が、暗くてよく分からない。
光彦は何と答えたらいいか分からずに黙った。
「私、料理は得意なんです。小さい頃から作ってきたので。安い食材で美味しいものを作るのが得意なんですよ」
「いやいや、そういう意味じゃなくて、どうして君が僕の食事を作るの?」
「お礼です」
「お礼って……、それも朝ご飯なのに……」
そう言った時、タクシーが家の近くにまで来ていることに気がついた。
「次の信号を左に曲がって、コンビニの前で停めてください」




