第18章
ED治療薬を買って来たことを告げると、りんは弾けるような笑顔になり、はしゃいだ。
「今夜早速試してみますか?それとも誕生日のお楽しみにしましょうか?」
彼が屈辱的な気分を味わったことなど知っている筈もないが、上機嫌でそう言う彼女を光彦は苦々しく思った。
「今日がいい。今日は久しぶりに抱かしてくれ」
りんは敬礼のポーズをし、「了解しました」と言って、鼻に皺を寄せて笑った。
ベッドに入ると、りんは尋ねた。
「薬は行為の前に飲むのでしょ?私は気がつかなかったけど、もう飲みましたか?」
「いや、飲んでいない。……今日は出来そうな気がするので、薬を飲まずに試してみたい」
彼女は当惑したような表情を浮かべたが、すぐに「わかりました」と頷いて、目を閉じた。
先程の苛立った気分が残滓のようにまだ心の中に残っていた。それが彼を奮い立たせた。光彦はいつもより激しく貪るように愛した。
「どうしたの?今日は凄い」
そんな言葉がさらに欲情を高める。
その時、蝶の入れ墨と傷痕が目に入った。
昂っていた気持ちが急に萎えた。
「その年で早いな」医者の言葉が脳裏をかすめた。
今までもこの入れ墨と傷痕がその気を削ぐのではないかと思った時があった。だが、それを口にするのは彼女をひどく傷つけること、彼女を否定することだと思い、ずっと胸に秘めていた。
しかし、つい口に出てしまった。
「俯せになってくれ。入れ墨と傷を見たら、どうしても萎えるんだよ」
自分の不甲斐なさに、思わず興奮して、声を荒げた。
りんは弾けるように上半身を起こし、呆けたような顔になり、光彦を見つめた。それから大粒の涙がはらはらと頬に流れ落ちた。
「……やっぱり。そうなんですね。……私、前から思っていたんです。鈴木さんが出来ないのは私の汚い身体のせいじゃないかと。綺麗な身体の人なら、大丈夫なんじゃないかと。……ごめんなさい。ホントごめんなさい」
りんは号泣し始めた。
光彦は我に返り、言ってはいけないことを言ってしまったことを後悔した。
慌てて言い訳がましく言った。
「ごめん。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。ほんとにごめん。悪いのは僕であって君のせいじゃない」
しかし、りんは両手で顔を覆い、幼な子がいやいやをするように頭を振りながら泣き続けた。
そして、しばらくした後、「今日はリビングで寝ます」とまだ泣きじゃくりながら言った。