第17章
翌日、ED治療薬を置いているクリニックをネットで探し、光彦は会社帰りに立ち寄った。
診察室に通されると、光彦と同年配の医師が問診票を見るなり、
「45歳……その歳で、インポテンツとは早すぎるな」
首を傾げて、そう呟いた。
それから顎を上げて、光彦の方を向いて「喫煙はしますか?」と問うた。
「いいえ、以前はヘビースモーカーでしたが、10年くらい前に禁煙してからは吸っていません」
「それでは若い頃の喫煙のせいかな?」
医師はまた独り言のように呟くと、今度は矢継ぎ早に質問を始めた。
「いつからインポテンツになりましたか?」
「既往症はありませんか?」
「飲酒はしますか?」
「コーヒーなどの嗜好品は飲みますか?」
「食事は脂っこいものを好みますか?」
「しごとのストレスの多いですか?」
「奥さんとは週何回してるの?」
「自慰はしますか?」
ただの問診で、自分の思い過ごしかもしれないが、光彦は見下されているような感じがしてならなかった。
上から目線で威圧的に質問してくるのを羞恥で汗ばみながら、たどたどしく答えた。
クリニックを出ると、ざらざらとした屈辱的な気分が心に広がっているのを感じた。
夜道を重い足取りで歩きながら、医師が「その歳で不能は早すぎるな」と不思議そうに呟いていたのを、ふと思い出した。
若い頃から精力が乏しかったうえに加齢もあって、男性機能が低下するのは当然で仕方ないことだ思っていた。
しかし、心の中の何かがりんを抱く時にブレーキをかけているのではないかという疑念がその時頭をもたげてきた。